3506手間
壁を一通り叩いた文官が、これで良いのかと心配そうに振り返ったのを見て、ワシはそれで良いと頷き壁に近づく。
「今ので何かわかったのかい?」
「んむ、大体の入り口の大きさがの」
壁を叩く音が変化した場所をなぞるように爪で切り出して、ぐるりと一周したところで壁を押せば、しっかりとモルタルで固定されていたのだろう、切り出した形状そのままに壁の一部が後ろへと倒れこみ埃を立てるが、障壁で阻まれこちらに飛んでくることは無い。
「おぉ、本当に通路があったね」
「そうじゃな。ふむ、結構な広さがありそうじゃ」
いったい何のための物なのか、通路のすぐに別の部屋があるわけでもなく、比較的浅い位置に突き当りがあり、左右に通路が分かれているようだ。
音から考えてもまだ奥はあるのだろうが、浅いとはいえ突き当り迄に部屋は無く、壁のところどころにランプを引っかける為の錆びた金具がある程度だ。
「まさに隠し通路といった感じだね」
「搬入口にしては細いしのぉ」
物を運び込むために使うにしては、通路の幅は一人通るのがやっとで、もし他の人とすれ違うならばお互い半身にならねばならず、物を運び込む用途ならば不便極まりない。
しかし、その不便さも隠し通路と聞いてすぐに思い浮かぶような用途に使われていた、もしくは使う予定だったのだろう。
「確かに、この程度の幅ならば、誰か一人が立ちはだかれば、後ろから追いかけるのは厳しいだろうね」
「さてこの先には何があるのかのぉ」
「お待ちください王太子妃殿下!」
入り口から眺めていても何も分からない、ならばとワシが通路へと踏み入れば、まさか躊躇なく入っていくとは思わなかったのだろう、文官の慌てた声が後ろから聞こえてくるが、それよりも早く近侍の子がついてきたので少しずつ文官の声が遠くなってゆく。
「随分と空気が淀んでいますね」
「長いこと使っては居らんのじゃろうな」
近侍の子が袖で口を押えながら、先程まで空気が固まっていたかのように重苦しい中を進む。
しかし、これほど空気が動いていないのであれば、入り口も出口も塞がれていたのだろう。
通路の劣化具合を見るに、使われていない期間は百は優に超えているであろうし、さっさと潰しても良いのだが、この通路がどこをどう通っているかが分かっていないので、下手に潰せば上の建物が崩れる可能性がある。
であるならば、さっさとどこを通っているのかを調べた方が良いと、後ろから聞こえる文官の声に答えるようにそう伝え、さらに奥へ奥へと向かってゆくのだった……




