3472手間
さほど間を置かずに行き来した道だ、迷うことなくするすると道中進み、何事もなくスゴアルアドたちの集落へとたどり着いたが、それなりに早い時間のはずであるが集落はしんと静まり返っていた。
とはいえ農村であるならば皆が既に畑に出ている時間であろうし、スゴアルアドたちの人数を考えれば、これほど静まり返っているのもあり得る話だろう。
けれども人の気配はするので前に茶を飲んだ広場へと向かえば、仕事前の一服か休憩か、数人のスゴアルアドたちが茶を飲んでいたので声を掛ければ、一人が驚いて立ち上がり危うく茶が入ったコップが倒れそうになるのを他のスゴアルアドが慌てて押さえている。
「突然どうしたんですか」
「いや、そろそろ酒の時期やもしれんと思い出してな」
「あぁ、なるほど、丁度いい時期に来ましたね」
口ぶりからしてワシらが最初に会ったスゴアルアドであろうか、彼らは皆姿かたちが似通っており、並べて立てば僅かに違いが分かるか分からないかくらいなので、そうであろうと言う憶測しかできないが。
「ちょっと待っててください、酒が出来た家の者を呼んできますから」
「そうかえ、では待たせてもらおうかの」
そう言って彼は畑の方に足早に向かっていったので、ワシは残っているスゴアルアドたちが居るテーブルの席へとつく。
「前に居た、蜘蛛のお嬢ちゃんは今日は居ないのかい?」
「いや、おるぞ?」
「(いるよ)」
「おー、相変わらず隠れるのが上手いなぁ」
ワシは気付かなかったが幻術で隠れていたのだろう、それを隠れるのが上手いで済ますあたり、スゴアルアドたちは鷹揚と言えばいいのか危機感が足りないと言うべきか。
何にせよアラクネの子に彼らを害する意思はないのだ、どちらであろうともワシらに問題はない。
「ところで、前に貰った酒だが」
「あぁ、あれなら」
「私たちも習って似たようなモノを作ろうと試行錯誤しているところでね」
「ほう、そうなのかえ」
ねだるのかと思ったらまさかの言葉が出てきたので、酒をすぐに取り出すことはせず、人に語りたかったのか彼の言う試行錯誤とやらを酒造りは素人なりになるほどなるほどと聞きに徹するのだった……




