3467手間
クリスもたまに小鳥の様子を窺いに来るようになって数日、ダークエルフたちから巣箱が出来たと言うので見にいけば、鳥の巣箱と聞いて思い浮かべるような、小さな小屋を模した木製の箱の側面に、鳥が出入りするための穴と出っ張りがついたモノがテーブルの上に置かれていた。
「これは?」
「巣箱ですよ」
「それは分かるのじゃが……」
それだけだったのならば特に何も言うことは無いのだが、鳥が使うからか塗装こそされていないものの、巣箱には全く必要ないであろう彫刻がびっちりと施されていた。
屋根は神国で一般的なスレート、薄い板状に割った石を何枚も貼り付けたかモノに見えるように彫られており、壁面も石を組み上げた壁と窓が彫刻で見事に再現されている。
華美な装飾という訳ではないのだが、一目で明らかに手が込んでいるというのが分かるような手の凝りようだ。
「ドワーフの方々に巣箱を作るようお願いしましたら、ただの巣箱ではつまらないだろうとこうなりました」
「なるほどのぉ、彼らならば然もありなん」
恐らくダークエルフが鳥が使うからと、塗料や貴金属による装飾を拒んだのだろう。
ならばとその表面に彫刻を施したらしいのだが、まさかと思って壁面に開いた穴から中を覗いてみたが、中には特に何も施されておらずほっと胸をなでおろす。
「流石に中まではやらんかったかえ」
「えぇ、中まで凝りそうでしたので、流石にそれでは鳥が過ごしにくいからと」
「そうじゃったかえ、止めて正解じゃったな」
外側ならばともかく、中にも変な彫刻を施されては、小鳥たちが使わなくなったりする可能性があったので、彼女がドワーフたちを止めてくれて助かった。
「後はこれを置く場所じゃが、流石に若木に括る訳にもいかんじゃろう」
「それでしたら、既に用意させています」
温室に植えた木はまだまだ若木であり、小さ目とはいえ巣箱を設置するには適していない。
ならばどこに置くのが良いか、そう思ったのだがダークエルフはそれも既に想定内だったのか、既に置く場所は用意していると案内してくれた。
「あそこの少し高い場所に、巣箱を置く台を用意させました」
「ふむ、確かにあの場所であれば猫やらにも襲われ辛いじゃろうな」
温室を支えている鉄骨の一つに巣箱を置くに丁度よい台があり、鼠返しのようにもなっているので、下から猫などが登ってくることもないだろう。
ワシが納得したのを見たダークエルフが合図を送れば、近衛が巣箱と脚立を持ってくると設えられた台の上に、何故か恭しく小鳥たちの為の巣箱を置くのだった……




