3465手間
目の前に置かれた果物の皿にクリスは首を傾げるが、特に説明することなくダークエルフは次の仕事があるからと、笑顔でどこかに行ってしまった。
「これは?」
「あの子たちのおやつじゃな」
「どうやってあげればいいんだ?」
「このままでよい」
半分に切られた果物が乗った皿の傍で、コツコツとテーブルを指先で鳴らせば、水浴びをしていた小鳥たちがぶるぶると身を震わせて水を落としてから、パタパタとテーブルに飛んで来てワシが叩いた箇所に飛び降りてきた。
「食べないみたいだけれど」
「クリスを警戒しておるんじゃろう」
「あぁ」
「とりあえず動かずに、動くにしてもゆっくりじゃぞ」
ワシの言葉にゆっくりどころかピクリとも動かなくなったクリスに苦笑いしている内に、小鳥たちはゆっくりとクリスを窺いつつも果物に近づいて行き、クリスが何もしてこないことを確認するとようやく果物が乗った皿に飛び乗り果肉をついばみ始めた。
そこでようやくクリスはゆっくりと横を向いてから息を吐き出し、小声でワシに話しかけてきた。
「これは、とりあえず認められたってことかな?」
「そうじゃのぉ、ひと先ずは大丈夫じゃと思われておるじゃろうな」
認められたというよりも、とりあえず何もしてこないから大丈夫だろうと認識されたに過ぎない。
ここで調子に乗って撫でようとすれば、以前の近衛と同じ末路を辿ることになる。
それを言えば、手を伸ばしかけていたクリスは、特に何もなかったとばかりにゆっくりと手を引っ込める。
「もしかしてそれはセルカに対してもだったりするのかな」
「そんな訳は無かろう」
何がもしかしてなのか、ワシが動物たちに拒まれることなどあろうはずもない。
とはいえ食べている邪魔をするのも無粋なので、ほんの少しだけ小鳥たちの頭を撫でるに留めておくのだった……




