3460手間
白い石材であろうか、触ってみれば石と樹脂の中間のような不思議な手触りの飾り気の少ない、古い神殿の柱のようなワシの胸辺りの高さで一抱え程度の太さの柱の上にやや深さのある皿がくっついた物。
パッと見はちょっとこじゃれた花壇のような物であるが、その皿の中央には皿の深さの半分程度の長さの管が刺さっており、その近くの皿の底に穴が開いており、もしここに水を注げばまず間違いなくここから水が漏れてしまうだろう。
花壇であれば余計な水を逃がす為にと思うのだが、ダークエルフが言うにはこれは小鳥の水飲み場に良いというのだ。
「ふぅむ、皆目見当もつかんな」
「これはですね。このお皿に水を入れると底の穴から水が抜けてしまうのです」
「まぁ、そうじゃろうな」
「ですが、しばらく水を注いでいますと、今度はこの中央の管から水が噴き出してくるのです」
「ほう?」
中に魔導具でも仕込まれているのだろうか、なるほどこれは小さな噴水という訳か。
確かにそれならば小鳥たちの水飲み場にも良いであろうし、王太子妃の温室の飾りとしても格が高いように思える。
「しかし、そんなこじゃれたものであれば、何故倉庫に仕舞われておったのじゃ?」
「これはわざわざ水を注がないといけないので」
「あぁ、そう言えばそうじゃったな」
ダークエルフたちの住処は巨大な樹の中であり、樹の中にある水が通っている管から水を拝借していたので、要するにただの噴水なれば別に珍しくなかったという訳だ。
そんな珍しくもないものをわざわざ飾ることもない、かといって貰い物らしいので捨てるのも忍びないと、長く倉庫の中に鎮座していたらしい。
「折角ですのでお見せしましょう」
「おぉ、そうじゃな」
これも既に手はずを整えていたのか、噴水が動いているところを見せようと言えば、数名の侍女が水差しを持ってきて噴水の皿に水を注げば、しばらくの間は注ぐはしから穴へと水が抜けていくが、皿に水が溜まるようになり、中央の管の半分より少し上まで水が来た頃、ついにその管から皿の縁より高いか高くないかくらいの勢いで水が噴出しはじめるのだった……




