3455手間
スゴアルアドたちの会話を聞くに、外套の為の布はアラクネから糸を仕入れずとも、自生している植物の蔓から布を作ることができるようだ。
確かにスゴアルアドの家にあった布は、蜘蛛糸のような艶やかな物ではなく、どちらかと言えば麻布のような素朴な物だった。
とはいえ外套のように身に着けるには少し肌触りが悪そうだが、スゴアルアドたちは毛皮に覆われているし、そも肌触りなどさして気にはしていないしする必要もないのだろう。
「それよりも、この子たちをどうするかじゃのぉ」
「(連れて帰る?)」
「この調子じゃと、置いて言ったところでついてきそうじゃしのぉ」
ワシの頭から降り、今は肩の上でちゅるりちゅるりと鳴きながらじゃれ合っている二羽は、先程からワシの傍から離れようとせず、置いていったところで直ぐに戻ってきてしまうのは目に見えている。
だからといって連れ帰ってしまえば、街にはスゴアルアドたち以上に装飾品で身を飾った者たちが居る訳で、もしそれらを狙って攻撃してしまえば、色々と面倒なことになるのは間違いない。
「(そういえば、攻撃してこないね)」
「言われてみればそうじゃの」
最初は気付いていないだけかと思ったが、どうやら全く気にしていないようで攻撃する気配が微塵もない。
単純にここが縄張りではないからか、何か攻撃するのにまた別の条件やらがあるのだろうか。
しかし、もし縄張りと認定しただけで攻撃を始めるならば、もし連れて帰るとすればその辺りをどうにかしないといけないが、ワシが傍に居る限りは恐らくは縄張りと認定はしないだろう。
「(どういうこと?)」
「ワシの縄張りじゃからじゃよ。おぬしらとて、他の魔物の縄張りにわざわざ巣は作らぬであろう?」
「(確かに)」
縄張りに入って来た余所者を攻撃するのは、餌にするか排除するかのどちらかが理由だ。
であればワシの縄張りだと認識させれば、そこを自分たちの縄張りだとは思わないはず。
そうすれば攻撃はしないのだろうが、そうなるとそこを住処とするかは疑問だ。
そこはまぁ言い聞かせてやればいいだろうと、相変わらずぴょんぴょんとさえずりながらワシの肩の上で跳ねまわっている鳥たちの頬を軽く曲げた指で撫でてやりながら、今の内からキラキラしてるものを見ても攻撃しないようにと言い聞かせてやるのだった……




