3450手間
たった一歩、鳥たちの縄張りに足を踏み入れたスゴアルアドに向かい、今まで可愛らしい姿を見せていた鳥たちが一斉に襲い掛かる。
そしていったいどこに隠れていたのか、何十羽もの鳥たちがスゴアルアド一人に群がっている。
その姿はまるで餌を取り出した人に群がる鳩のようであるが、エサであるスゴアルアドにとってはたまったものではなく、慌てて逃げ出せば縄張りから出たとたん、示し合わせていたかの如く鳥たちは散会し一部がまたワシとアラクネの子の下に戻ってきて、肩や頭に止まる。
「なんで私だけ……」
「嫌われておるんじゃないかえ?」
「なんだか、そんな気がしてきたよ」
動物に無条件で好かれるワシだけならばともかく、アラクネの子にも襲い掛かってきていないのだ、これはもうスゴアルアドが鳥たちに嫌われているのではないか。
そんなことを言えば、現状を見て彼もそう思ったらしく、小首をかしげる可愛らしい仕草をしている鳥を見てがっくりと肩を落とす。
「それにしてもじゃ、それほど嫌われるとは、おぬしらはこの子たちに何をしたんじゃ?」
「追い払おうと色々したから、嫌われるのは致し方ないとは思うが、そもそも襲われるから追い払おうとしてるんだし、別に何かやらかして嫌われてるって訳ではないと思うのだが」
「ふむ、確かにのぉ。では、何ぞ目の敵にされるような、そんな心当たりはないかえ」
「心当たりか…… 別に獲って食ってるわけでもないし、奴らの縄張りで何か悪さしてるわけでもないからなぁ」
「ふぅむ」
「(キラキラに襲い掛かってるんじゃないの?)」
「む?」
「(森に居る鳥たちも、たまにキラキラした物を巣に持ち帰ってるから)」
「なるほど? おぬしらはいつもそのような、煌びやかな物を身に着けておるのかえ?」
「ん? ああ、そうだな。これは自分の祖先などを示す装飾だったそうだからな、外に出る時は決して外したりしない」
「なるほどのぉ。ところで、おぬしらは外に出る時に外套を羽織ったりはしないのかの?」
「別に寒くはないし、天気が悪い時はわざわざ外に出ることもないから、何か羽織ったりはしない」
確かに鳥はキラキラした物を好んだりもする、だからキラキラした装飾品を着けてるスゴアルアドたちを襲っているのではないか、アラクネの子はそういうが、今は外套などもなくスゴアルアドの装飾品を隠してみることは出来ない。
とはいえワシはこの鳥たちを退治するなんて選択肢はもうないので、ずっとここに居る意味もないので、一度戻ってワシらの荷物にある外套を取ってこようと、スゴアルアドの怪我を治しつつ来た道を戻ることにするのだった……




