3446手間
子供というのは気になった物は何でも口に入れる、それはどんな種族であろうと変わらないらしい。
果実拾いという安全な仕事をしている子供が、親の目を盗んでその果実を無警戒に食べて痛い目を見る。
親はそれが分かっているし、きつく言い含めたところで子供が聞くわけもない、だったら食べないようにとだけ一応注意してあとは勝手に子供が自戒するのを待つという訳だ。
何せすさまじく酸っぱい上に渋く、毒性といってもせいぜいが腹を下すくらい、一度痛い目を見た子供は二度と食べることは無い。
「ともかく、そんな訳だから食べさせるのは出来ないな」
「ワシとしても、そんな物を食おうとも食わせようとも思わぬ」
「(ちょっと残念)」
「そこらの果実やらは毒を持っておるやもしれんからの、勝手に食うでないぞ?」
「(はーい)」
「そういう物の見分け方を、彼女に教えたりはしないのか?」
「教えてやりたいのはやまやまなのじゃがの、見ての通り種族が違うであろう? であれば毒となる物が違う可能性もあるじゃろう、ワシらが食うても平気な物がもしかしたら猛毒やもしれぬ」
「なるほど、確かに自分たちが食べても平気な物が、ネズミたちには毒なんてこともあるからな」
「それに何より、ワシが毒が効かぬからの、そういったモノに疎いのじゃよ」
薬学を少しかじり、獣人としての鼻や勘で毒の有無は分かるが、ワシがどれほどの猛毒を呷ろうとも効かないせいで、それらの危険性には疎い。
「大抵の者は毒なんてわざわざ呷ろうとも思わないだろうし、大して変わらないのでは?」
「ふむ、そんなもんかの」
毒虫やら毒蛇に噛まれ苦しんだ者は、毒に対してしっかりと警戒するだろうが、大抵の者はそんな経験などないのだから、すなわちそれは毒が効かぬ者と心情としては同じなのではないかと言われ、なるほど似たようなものだろうなと納得する。
「ま、それは兎も角じゃ、それほど不味いのであれば、件の鳥の魔物に食わせてやればよいのではないかえ? そうすれば嫌がって近寄らなくなったりするのではないかの」
「あー、気持ちはわかるんだが、実はその魔物の主食がその実なんだ」
「なるほど。それならば逆効果じゃな。しかし、それならば少しずつ離すように植えてゆけば、鳥の巣も遠ざかってゆくのではないかの」
「昔それをやった者たちが居たようなのだが、残念ながらあいつらは、縄張りの外の果実には一切反応しなかったらしい」
「ふぅむ、やはりそれでは直接叩くしかないようじゃな」
「まるで退治しに行くような物言いだが」
「まるで、ではなくその通りじゃよ。今のところここらでしか見ておらんようじゃが、下手に山から下りて巣を広げられても困るからの」
魔物は駆除できる内に駆除しておいた方が良い、それはゴブリンなどで十分にわかっているので、ちょうど昼も食べ終えた訳であるし食後の運動としゃれ込もうではないかと立ち上がれば、アラクネの子も同じように椅子から降りて、私も行くとワシの袖を引っ張るのだった……




