3412手間
山の上の人という新しい存在を伝えられ、クリスが頭を抱えて嘆いている。
「敵対的な者たちではないんだな?」
「少なくともアラクネたちにとっては、じゃな?」
「(うん、大きいけどいい人たちって聞いてる)」
「彼女によれば、体がオークよりも大きいが、穏やかな者たちという印象じゃな」
「オークよりもでかいのか……」
「とはいえ、彼女の又聞きによるイメージじゃからの。それに最初の印象も、会った者のであるから、どれほど正しいか」
「それはどういう?」
アラクネたちの思念による会話は、その言葉の意味そのものや、見たモノを直接伝えることが出来る、素晴らしい伝達方法だ。
しかし、思念ゆえに彼女たちの印象が、大きく伝えた際の意味や見たモノに影響が出てくる。
「例えばそうじゃな…… 小さい頃に大きく見えたものが、大人になってから小さく見えたことは無いかの?」
「あぁ、確かにあるね」
「思念による会話じゃと、その大きく見えていた頃のまま伝わってしまったりするのじゃよ」
「なるほど、考えていることそのまま伝わるという事は、絶対に客観的な印象は伝わらないという事か……」
「そうじゃな」
だから大きさも気性も全く違うかもしれない、とはいえ気性自体は穏やかに見えたのであれば、確実にその一面はあるという事なので、全く意味がないという事ではないが。
「会うにしても、どこにいるか分からないからな」
「あの山脈のどこからしいのじゃが、この子自体は直接会った訳ではないからの。どうやら前の縄張りに引っ越す前に会ったらしいから、さほど距離は離れておらんとは思うが、この子が生まれる前の話らしいからの」
「しかし、山の上か……」
「まぁ、確実にヒューマンではないじゃろうな」
何の影響か常に吹き込む海風の影響を受ける山脈の山頂付近は、朝も夜も厚い雲に覆われそんな中の天候など言うまでもなく、雲の中などという酔狂な場所に住んでいなかったとしても、山頂付近は常に悪天候な場所だ。
ヒューマンのような身体的にさして特徴もない者たちが、永住することは出来ないないだろう。
「それにアラクネと取引できるという事は、思念による会話をしている可能性もあるか」
「まぁ、身振り手振りでも十分伝わるからの、思念すらない可能性もあるがの」
アラクネの子を特に構っている者たちは、身振り手振りでアラクネの子と意思疎通をしており、傍から聞いている分にはある程度話は通じているようなのだ、山の上の人も思念で会話をしているかと言えば確実にそうとは言い切れない。
とはいえ思念であろうと言葉であろうと会話できるのであれば出来た方がいい、そしてなにより過酷な環境での探索となれば、それが出来るのはワシしかいないと言えば、クリスは安全で確実な方法はそれしかないかと、嘆きながらも同意するのだった……




