3394手間
街へと戻り人払いをしてからクリスに事の顛末を報告すれば、クリスは天を仰いでから両手で顔を覆うようにして頭を抱える。
「人が森の中に居たと?」
「んむ。とはいえ極力外部とはやり取りしたくないようじゃからの、気にせんでよかろう」
「流石にそういう訳にもいかないだろう。下半身が蜘蛛であるならば、確かに街中に入れると問題になりそうだが、話し合いの場くらいは設けた方が、お互いの為にも良いんじゃないか?」
「あぁ、それは無理じゃな。話は出来るが話は出来んからの」
「セルカ、一体どういう謎かけだい?」
「言葉の通りじゃ、話は通じるが言葉が通じんのじゃよ。彼女たちは言葉でのうて、思念で会話しておるようじゃからの、ワシなれば聞こえるし話せるが、凡人であれば鼻息程度しか聞こえんじゃろうな」
「なるほど…… 思念での会話というのがいまいちよく分からないが、言葉を覚えてという訳にもいかないんだろう?」
「そうじゃな、そもそも覚えてどうなるようなもんでもないからのぉ。鳥の鳴き声を覚えたらといって、鳥と話せるかというのは別問題じゃからの」
そもそも思念なので、覚える覚えない以前の問題であるが。
恐らく普通に話しかけても彼女たちは言葉を理解できないであろうし、会話はどのみち不可能であろう。
「セルカは話せるんだよね?」
「もちろんじゃ。向こうから思念を飛ばしてくれる分、わざわざ読み取らなくても良いから、動物たちと話すのより楽じゃよ」
「あぁ、あれって本当に会話してたんだ……」
「信じておらんかったのかえ」
「馬番に馬の気持ちを読み取れると評判の者がいて、馬たちもよくよく彼の言うことを聞いているから、あれと似たようなモノだと思ってたんだよ」
「クリスですらその程度の認識なのじゃ、彼女らとワシが通訳でもしたところで、誰も信じはせんじゃろう」
思念による会話というのは、それが出来る、もしくは聞くだけでも出来なければそうそう信じれるものでもない。
ましてやそれで決まり事を何か決めようなどとは、どだい無理な話だろう。
何より彼女たちが外と関わることを厭うているのだ、なれば静かにしてやるのが一番だろうと、改めて幻術がまもなく完成することを説明し、どのみち交流は出来なくなると、懇切丁寧にクリスに説明するのだった……




