表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
第一章 女神の願いを叶えよう?
27/3497

27手間

 アレックスらが押しても横に引いてみてもビクともしなかった扉が、音もなくまるで自動扉のように開いていく。

 ぼんやりと壁全体が薄紫色に発光している、巨大な空間が目の前に広がっていた。


 中に一歩踏み出せば、バガンと何かスイッチが入るような、そんな音と共に部屋全体が明るくなる。

 急な光に思わず手で庇を作り、薄闇に慣れていた目を細める。


「うぅむ、自動扉に自動照明とは随分と高度な技術じゃの」


 ボヤキながらやっと慣れてきた目で見上げれば、天井に明らかに晶石やランプなどとは違う三つの人工的な照明。

見上げるのを止め、周囲を見渡せば壁面には一面にビッシリと薄紫色のレンズ状のものがはめ込まれている。


 そして部屋の中央には、壁面のものよりも一層深い紫色の、まるで多数の目があるダイスの様な多面体のクリスタル。

それが不規則に回転方向と回転速度を変え、時折紫の放電をしながら台座の上に少し浮いて鎮座していた。


 この小さな雑居ビルぐらいであれば丸々入りそうなほどの巨大な空間。

中央のクリスタルを除けば、まるで前世の世界にあったカミオカンデと呼ばれる施設に酷似している。


 道中あった大学の研究室の様な部屋、そしてこのカミオカンデの様な設備。

大昔に召喚された何者かの仕業なのだろうか。


「あのクリスタルか、若くはこの部屋すべてがマナ集積施設のコアユニットという事かの。見たところあのクリスタルの装置は生きておる様じゃし、さっさと壊してしまおうかの」


「いや、ありゃあただのクリスタルじゃない。魔晶石だ…俺も行ったことはないが、ダンジョンの最奥にだけ存在するという話だけは聞いたことがある。ダンジョン踏破の証こそが魔晶石の欠片ってことだ」


「ふむ、ということは、あの魔晶石がダンジョンの心臓部になるものという事かの。これはますますさっさと壊さねばな」


 魔晶石に向かって歩き出すと中央の床石がバキバキと隆起する。

その隙間から黒い粘液が滲み出してくる。


 その様に足を止めれば、黒い粘液は瞬く間に中央の魔晶石を台座ごと覆いつくし、大人を四、五人纏めて一飲みに出来そうな巨体が露わになる。


「こやつは…巨大なスライムか…の?」


 遂に現れたそれを眺めていると、表面の一部が膨らみ、プッっという音とともに黒い塊が射出される。


「こしゃくなっ!」


 手の甲で飛んできたものを払い落とせば、べしゃりと地面に落ちたそれがウジュルウジュルと蠢き始める。


「スライムを飛ばしおったのか…なるほど、こやつが今回の犯人の様じゃの。差し詰めマザースライムと言ったところかの」


 呆けていたアレックスやジョーンズも『ブレイズエッジ』と剣に炎を纏わせ。

飛んでくるスライムを切り落とし、或いは避けながらじりじりと距離を詰めていく。


 インディが『ファイヤボルト』で打ち漏らしたスライムを焼き払い、

サンドラは『フレイムテンペスト』でマザースライムを直接攻撃する。

炎の嵐が止んだそこには、嵐の前と違わぬ姿が残っていた。


「効いてない!あのデカいの、魔法が当たったときに急にマナを集めだしたわ。たぶん、この施設の機能を使って再生してるのよ」


 サンドラは攻撃が効かないと判るや、うち漏らしの撃破に専念しはじめる。


「なるほど、コアを破壊しない限り再生し続けるダンジョンボスと言ったところかの。ではこれならどうじゃ『ファントムエッジ』!」


 獣人の脚力と動体視力を頼りに、撃ち出されるスライム砲弾を躱し弾き、叩き落としながら接近する。


「これでも喰らうのじゃ!」


 叫びながらすれ違いざまにマザースライムの体を抉りとる。しかしその抉られた傷口はすぐさま塞がれ元通りになってしまう。


「ぐぬぬ、ワシの一撃すら再生してしまうとは厄介すぎるのじゃ」


 まるでゲームのお供を倒さなければ本体に攻撃が通らないボスの様だなと思いつつ回りを見渡す。


「お供が居ないのであれば、同じフィールド内の何かを破壊すればいいはずじゃが」


先ほどは部屋全体と中央の魔晶石に気を取られ見向きもしていなかったが、

四方に中央の魔晶石を小さくしたものが、燭台状の物の上でくるくると回っていた。


「まさかとは思うたが、本当にあるとはの…効果があるとは限らんがやってみんとわからん上に、このままではジリ貧じゃしの」


「サンドラや!中央の魔晶石にマナを送ってるかもしれんやつを壊す。マザースライムに攻撃をしてマナの流れを見とってくれ!」


手近な一つに駆け出しつつ叫ぶ。


サンドラやインディがマザースライムに攻撃をし始めるのを確認して四方の魔晶石に向き直る。


「壊した途端、どかんとはならんでくれよ」


呟きと共に魔手で魔晶石を切り裂くと、音もなく粉々に砕け散る。

同時に大量のマナがあふれ出すが、それを取られまいと魔手で喰い尽くす。


「セルカちゃん、マナの集まりが少し弱くなったわ!」


まさかの正解に多少面喰いつつも、その声に頷き次の魔晶石へ向かう。

攻撃が激しくなるとか妨害する雑魚が出てくるといったお約束はなく、順調に破壊して周る。


「これで!最後じゃ!」


「やったわ、マナがほとんど集まらなくなってるわ」


マナを集める能力はどんな生物でも持っている呼吸と等しいもの。

その巨体にふさわしい程度に落ち着いたのだと後でサンドラが教えてくれた。


最後の魔晶石を破壊した場所からマザースライムを見れば、

スライム砲弾はその莫大な再生力頼みの攻撃だったのか、既に撃ってくることもなくなり、

アレックスやインディも近づいてマザースライムを斬り付けていた。

そのマザースライムはもう諦めたとばかりに反撃することもなく、

斬り付けられる度にその身を震わすだけだが、巨体のせいか中々トドメが刺せない様だった。


「うむ、本体だけになればサンドバッグ化するボスじゃったか」


とは言え守りを破壊した直後だけのボーナスタイムという可能性もある。

何よりマナを喰わせ過ぎた魔手がなんとなく暴発寸前のような気もする。


「ふむ、喰わせたマナをすべてあやつに返してやるのも一興じゃの」


これだけのマナだ、面白いことになりそうだとばかりにニヤリと口角を吊り上げる。


「せっかくじゃ、技としてぶつけてやるかの」


技名としては、ファントムエッジを名付ける際に上がっていた候補の一つにちょうど良さそうなのがある。


「そいつを吹っ飛ばす!ちと離れておってくれ!」


斬り付けていた二人がさっと身を引くと同時、爪にマナを集中させ走り出す。


「欲しがってたマナじゃ!熨斗を付けて今返してやるのじゃ!『ドラゴンファング』!!」


振りかぶった魔手を袈裟懸けに振りぬけば。

一拍遅れて五つの巨大な緋色に黒をまとった斬撃が襲う。

地面に五つの巨大な裂創を刻んだそれは、一撃でマザースライムを塵と化す。


「やったか!?」


ジョーンズがそう叫んだ直後、残った魔晶石が一際輝き音も無く砕け散る。

するとゴウゴウとマナの暴風が吹き荒れる。


「まさか第二形態じゃなかろうの!ジョーンズめが!余計なフラグを建ておって!!」


ゴウゴウと吹き荒れる風に両手を交差させ、顔を覆いながら悪態をつく。

マナの嵐が止み、思わず瞑っていた目を開けると、懸念してた何かはなく。

五つの巨大な裂創だけが目に入りほっと息を吐き、みんなは無事かと見渡すと、

倒れ伏している四人が目に入る。


「大丈夫かえ!何か攻撃を受けたのかの!」


一番近くに倒れていた苦悶の表情を浮かべるアレックスに駆け寄り、慌ててそう聞けば、


「大丈夫…って訳じゃないが攻撃を受けたわけじゃないから安心しろ。マナ中毒になっただけだ。少し休めば問題はないさ」


再度大丈夫だと言って、荒い息を吐くアレックスをそっとしておいて他の三人を見れば、

この中で一番マナ耐性の低いインディだけが気絶していたものの、三人とも命に別状は無い様だった。


「魔術で体調不良を軽減しようにも、マナを使うから毒を注ぐようなもんじゃし…」


さてどうしたもんかのと周りを見渡せば、入ってきた入り口を南とした場合。

東西と北の方角に別の入り口が存在していた。


「ふむ、まだ皆起き上がれぬようじゃし、周辺警戒も含めて探検してくるかの」


入口方面は応援のハンターが来るらしいし、

ちょっと扉を開けて覗くだけじゃし大丈夫だろうと、まずは西の扉に足を進めた。























ほかの部位を攻撃して本体を露出させて攻撃とか王道で好きです。

だけどあのゲームの4階層目のボスはちょっと…。

足じゃなくてコアにつながる動力パイプとかだったらもうちょっと見た目の評判よかっただろうに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ