200手間
部屋の戸口に立つジョーンズ、久々に会った彼は何となく薄汚れた様な草臥れた感じがしていた。
「久々じゃのぉ…ジョーンズや、しばらく見ん内に…」
「どうした? かっこよくなったか?」
「落ちぶれたのぉ…」
「もうちょっと…言葉…選ぼう…?」
ワシが言葉を選んでいるとジョーンズがカッコつけたポーズなんか言ってきたので、イラッとして思わず選ばれなかったはずの言葉の一つが口から出てきた。
言葉の一撃を腹に食らったかのようにガックリと肩を落とすジョーンズの姿に気分が晴れる。
「うむ、言い間違えたのじゃ、随分と草臥れたのぉ…そんな事より話があるんじゃろ? 早う扉を閉めてくるのじゃ」
「あんま変わってねーよ…」
「まぁまぁ、でもセルカさんの言う通りかなり疲れてます?」
とぼとぼと扉を閉めて部屋の中に入ってくるジョーンズを、カルンが手で座るように促しつつ慰める。
「さすがカルンだ分かってくれるか! 実はよぉここに来るまでに何度も護衛の依頼を受けてきたんだがなぁ――」
ジョーンズが語ってと言うか愚痴った話しによれば狩人の質の低下が凄まじいそうだ。
南では最近新たな獣人の里が見つかったりで、まだまだ獣人狩りが頻繁に行われてるらしいのだが、北側では既に下火になり殆ど行われていない。
と言うのも、北側では新たな里がここしばらく見つかっておらず、しかも聖堂の影響が強いので狩りが徹底的に行われそれだけで食べていくには不可能となっている。
もちろん南でも獣人狩りだけで食べていくのは不可能だ、魔獣などの狩りの最中に見つけらたラッキー程度、それでも北よりは圧倒的に見つけやすい。
そんな訳で時間的には長期間拘束されるが、わざわざ自ら危険に向かって行かずとも割の良い護衛任務が今北では大人気。
しかも王とやらが町ごとに産業を集中させたお陰で、町と町の間での交易が活発化して護衛依頼も増えている。
しかし、そこで問題になってくるのが護衛依頼に就く狩人達だ。
本来であれば護衛依頼を受けれるようになる三等級、狩人基準であればCランクになる為にそれなりの魔獣、魔物討伐経験が必要だ。
ワシの様に最初から絶対的な強さを証明出来る場合でもなければ、三等級―Cランク―になる頃には一人前、ベテランと呼ばれるほどの経験を積むこととなる。
だが狩人ギルドは聖堂の支援を受けているせいか、獣人狩りを推し進めるため獣人を狩った数等によって簡単にランクが上がるようにしてしまった。
獣人の数自体は狩人の数に比べて圧倒的に少ないので、ランクに加味される対象が個人であればまだ違った。
けれども何を思ったのか獣人狩りに協力した全員にその加味するようにしてしまった為に、簡単に言えばランクをお金で買えるようになってしまったのだ。
それが莫大なお金と引き換えにであればまだ良かったものの、獣人狩りするついでの小遣い稼ぎ程度のお金で…。
そんな訳で護衛依頼にはそんな名ばかり狩人が溢れるようになってしまった。
魔獣も魔物もまともに狩ったことも無い奴らが比較的簡単に大金が手に入る獣人狩りがまともに出来なくなったらどうなるか…。
本来の仕事である魔物狩りよりも安全な護衛依頼に殺到するようになったわけだ…。
「だからよ…野営の準備もめちゃくちゃ、見張りも適当で酷いもんよ…」
「それでジョーンズに負担が周ってくるとそういう事じゃな?」
「そうそう、商人もそれがわかってるから、なんつーの? 質より量ってやつで安い金で大量に雇おうとする、するとますますまともな奴はそう言うの受けずにアホだけが大量に群がる」
「数が増えれば喧嘩や諍いが増える、そういう事ですね」
「その通り! 俺は移動優先にしたから金額よりも直ぐに動けて行きたいとこに向かう依頼を優先して受けたからさ…」
「ばっちりそいつらに鉢合わせでと言うわけかのぉ…」
「あぁ…そうだ…もう二度と受けねぇ…」
またも草臥れた雰囲気を醸し出すジョーンズだったが、今はそんなことにかまっている暇はない。
北の…聖堂の影響が強い地域の話を聞かなければ。
「そんな事よりじゃな、北の方の状況はどんななのじゃ?」
「そんな事よりって…そうだな――」
乱暴に纏めてしまえば獣人の扱いが酷い。まずまともに獣人が入れるお店がない、宿なども適当に作った掘っ立て小屋で過ごさねばならない。
町の人自体は積極的にやっている感じでは無いが、聖堂やその息がかかった衛兵などは酷い有様だそうだ。
「殴る蹴るは当たり前でな…北の金持ちはみんな聖堂側でさ、酷いもんだよ。酒場なんかで話を聞くとその酷いやり方に反対な金持ちは聖堂が勝手に変な罪を押し付けて財産没収ってな具合でな。」
「息がかかった衛兵は兎も角じゃが、領主…今は町長と呼ばれておるのじゃったかな、そやつらはどうなのじゃ?」
「言っただろ、適当な罪押し付けて没収ってな。新たに就いた奴は聖堂の言いなりってわけよ」
「それは酷いのぉ…南の方とは大違いじゃ」
「だな。聖堂のあるなしでこうも変わるとは思わなかったぜ」
「してなんぞ戦の準備でもしとったかの? ワシらの領にまでそんな巫山戯た考えを押し付けるために…の」
「前言ってた武器や衛兵の増強とかそんな感じの事か?」
「うむ、そうじゃの」
「戦の準備ってのがよくわからんからさ、そこまで詳しくはわかんなかったけどよ特に鍛冶屋が忙しいとかそういう事は聞かなかったな」
「ふむ…」
領内が混乱しているという訳でも無いし、そこで戦の準備をしてないとなるとそうそう事は起こさないということだろうか…。
英雄譚の主役であればここで虐げられる獣人の為にとか言って立ち上がるとこだろうが、ワシはそこまで善人でも熱血漢でも無い。
酷い事を言ってしまえばワシの子供たちが安全に、その周りが平穏無事であれば他がどうなろうがかまわない。
「帰るかの…」
「いいのか?」
「うむ、ワシがどうこうしてどうなる問題でも無いしの。カルンや子供たちに手を出してこぬのであればじゃがの…」
「俺は?」
「ジョーンズは…うむ、がんばれ」
「ちくしょう!!!」
「そうなれば早うあの子らの顔を見たくなったのじゃ。明日帰るのじゃ!」
「今日って言わないだけマシか…カルンもそれで良いのか?」
「えぇ、僕も帰れるのなら早く帰りたいですからね、二人きりで旅も良いですがそれもセルカさんの安全あってこそですし」
「くっそお前も俺無視かよ!」
「じゃったらお主もいい人見つけることじゃのぉ…」
「くそぉ…アレックスも結婚しやがったし…はぁ…俺の味方はインディだけか…」
「帰ったらインディも結婚しておったりしての」
「止めてくれマジでそれへこむ」
話も終わったし出発の準備の為と町に出かけ様とすればジョーンズがワシの袖を引く。
「な、なぁ…金、貸してくんない?」
「む? 別れる前に結構渡したと思ったのじゃが…まさか…?」
「ち、違うぜ無駄遣いしたとかじゃねぇよ? いやある意味そうなんだがよ、どこの町行っても人いっぱいでさ…高い宿とか食堂にしか空きがなかったんだよ…しかも護衛依頼は安いのしか無いしでさ」
「それは…まぁしょうがないの…。ほれ、これは貸しとかでは無いからの…帰ってからも報酬という形であると思うのじゃが、それとも別じゃ」
「おぉ、さすがセルカだ! マジもんの金持ちは違うな!」
「たわけが! ほれさっさとお主も宿を決めて準備してくるのじゃ」
「いてっ! わかったから叩くなって!」
ジョーンズを叩き出し、その後丸一日を使い出立の準備を終え、次の日の朝早く我が家への帰路へ着く。
この領は今後獣人にとって生き辛い所になって行くことは確実だろう。いや既にそうなっているか…。
しかし、ワシに出来ることは何もない、とりあえず今のところはだが…。
ワシは強い。しかしそれは個人の能力であって、世界をどうにかこうにか出来る力ではない。
もちろんだからと言って、あの子達やカカルニアに手を出してくるのであれば容赦はしない。
そんな決意を秘めつつ、帰ったら思う存分二人を構い倒そうと考え一人ニヤニヤするのだった…。
本編200話、文字数も累計50万字を越えユニークも5万人を越えました。
これも偏に皆様方がこのお話を読んでくれてるおかげです。
これからも応援、評価、ブックマークや感想よろしくお願いします。
次回からセルカとカルンが西多領を周ってる間の他の人達の話を閑章として投稿した後、新章へと突入予定ですのでお楽しみいただけたら幸いです。




