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おっさん、陰謀の一端に触れる

 ――では、お邪魔しました。


 別れの挨拶を述べてから、ルイスらはフラムの家を後にした。


 今度は冒険者ギルドに向かう。依頼が完了した旨を伝えるためだ。


 これでルイスたちは晴れて共冒険者活動ができるようになる。神聖共和国党しんせいきょうわこくとうの調査が格段にやりやすくなるだろう。


 それだけではない。


「…………」


 ルイスは、前方を堂々と歩くフラム・アルベーヌをまじまじと見つめた。


 今日から、彼女が新たな仲間として同行してくれることになった。Sランク冒険者という実力も去ることながら、その知識はきっと今後お世話になるだろう。正直いって、願ってもない助っ人だった。


「すごいですね、フラムさん。あんなに堂々としてて」


 隣を歩くアリシアが、小さい声で耳打ちしてきた。


「ああ。おまえも負けてられないな」


「わ、私だって頑張ってますし!」


「はは。わかってるよ。冗談だ」


 とは言うものの、フラムの強さは本物だと思う。


 どういう理由なのかは知らないが、彼女の悪評――すなわち、身内が神聖共和国党しんせいきょうわこくとうの党員であること――は首都中に知れ渡っているようだ。すれ違う者たちが、ひっきりなしにフラムに冷たい視線を向けている。そしてその後、ルイスら帝国人を見てぎょっとしている。


 フラムは大勢の人々から迫害されている。

 なのに、そのことを恥じるようすもなく、堂々とルイスたちを先導している。


 その後ろ姿は見事という他ない。

 まだ精神的に幼い部分は残っているが、それでもかなりしっかりした性格だと思う。


「でも、それだけにちょっと気になるんですよねぇ」


「なにがだ?」


「フラムさんはSランクで、性格もしっかりしてます」


「…………」


「薬草の知識がないのに高ランク……。それはちょっと不思議ですが、まあ帝国と共和国は違いますし、納得はできますけど……でも、それでも彼女なら薬草採取くらいできると思うんです」


「ふむ……」


 たしかに、それはルイスも違和感を拭えなかった。

 いくら母の看病で離れられなかったとはいえ――その片手間に必要な薬草を調べ、採取することくらいはできるだろう。アルトリア・カーフェイは元Aランクだが、それくらいはやってのけそうな男だった。


 ならば、純粋な戦闘力ではアルトリアに勝るだろう彼女が、それすらできないわけが――


「あたっ!」


 ルイスのそんな思考は、フラムの背中にぶつかったことで中断された。さっきまで迷いなく歩き続けていたはずなのに、どういうわけか立ち止まっている。


「お、おいおい、なんなんだよいったい……!」


 間抜けなルイスの声とは裏腹に。


「くる! ルイス、アリシア! 気をつけて!」

 フラムは急に切羽詰まった表情で叫んだ。眉根を寄せ、油断ならない様子で周囲を見渡している。


 ――なんだ、いったいなにが……!


 嫌な汗が吹き出してくる。

 この気配、どこかで……!


 予想外の事態に戸惑っていると、急に景色が変わった・・・・・・・


 先程まで貧相なスラム街にいたはずが、ここはそう――まるで異次元の世界というべきか。地平線の彼方まで真っ赤な空が続いており、そこかしこに黒点のような物が浮かんでいる。地面に転がっている不気味な物体は何かの白骨か。四方八方、どこを見ても、ルイスの知らないおぞましい景色が広がっていた。


 魔物界――ルイスの脳裏にそんな言葉が浮かぶ。


「そんな……これは……!」

 アリシアが青い顔で後ずさる。

「古代魔法……。私たち三人を、丸ごと異空間に転移させた……」


「な、なんだって!?」


 思わず目を剥いてしまう。


「で、でも、私のスキルよりはだいぶ魔力が弱そうです。これは一時的な転移。術者を倒せば、元の場所に戻れそうですが……!」


「術者だと……!?」


 その言葉にはっとした。

 いつの間に囲まれていたらしい。


 黒装束を身にまとった謎の集団が、ルイスたちに剣を向けていた。それぞれの顔は見えない。全員、黒塗りの仮面を被っているためだ。


「ちっ……! また出やがったか……!」


 フラムが舌打ちをかましながら、憎々しげに黒装束の者たちを見回した。

 

 

 

 

 

 

 


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