フラムの本領発揮
いくら《無条件勝利》の使い手といえど、いまのルイスたちには屁でもない。
時折出くわす兵士らを目立たないように無力化しながら、一行はフラムを先頭に進んでいった。下手に増援を呼ばれては困るので、前代魔王の催眠術は本当に役に立った。
やがて。
「あった。あそこだ」
フラムがとある一点を指差し、一同に声をかける。
狭い住宅街の路地――の跡地――の一角にその扉はあった。短い階段を降り、ちょっとした水道に面した通路を歩いた先の扉だ。
「ここは……地下水道に繋がってんのか?」
尋ねるルイスに、フラムはこくりと頷く。
「ああ。内部の隠し扉をさらに潜り抜ければ、目的地へ着くはずだ」
「はぁ。よくできてんなぁ」
なるほど、これはたしかにわかりづらい。捜索に手がかかるのも道理であろう。
ヴァイゼ・クローディアにレスト・ネスレイア。
この状況に至っても、彼らはまだ諦めてはいないようである。
ルイスが感心していると、アリシアが扉の錠前を弄びながら言う。
「でも……どうするんですか? 鍵かかってますけど」
「心配ない。それは実は魔導具でな。合い言葉に反応するんだ」
「合い言葉……?」
「ああ。すこしどいてくれないか」
フラムは数秒間だけ周囲を見渡し、兵士がいないのを確認すると、錠前に顔を近づける。そのまま何事か、ルイスらには聞き取れないほどの早口で詠唱のようなものを呟いていき――
ガチャリ、と。
錠前はいかにも呆気なく開錠された。
「わぁ。すごいですね」
ぱぁっと顔を輝かせるアリシアに、フラムは照れくさそうに後頭部をさすった。
「はは。Sランクだからこれくらいはな。高位の魔術師がこの鍵を強化してるから、ちょっとの衝撃じゃ壊れないはずだ。……《無条件勝利》に通用するかはわからんが、壊されたときには内部にその旨がわかるようになってる」
「へぇ。なんというか……徹底してますねー……」
まあ、ユーラス共和国でも万が一の事態に備えていたのだろう。この点はさすがと言わざるをえない。
「フム。では、行くとしようか」
前代魔王の言葉を合図に、ルイスたちは地下水道に足を踏み入れる。
全員が中に入ったあと、ガチャリ――と扉がひとりでに閉まった。再び鍵がかかった音も聞こえる。
おそらく、とルイスは思う。
絶宝球に対抗するための策として、ユーラス共和国は魔導具の開発を秘密裏に行ってきたのだろう。あの常識を超えた力と張り合うには、共和国もレベルを上げなければいけなかったわけだ。
「…………」
しばらくは殺風景な通路が続いた。左方の通路には水が流れており、その水が先ほどの水道に流れていく仕組みらしい。また所々に段ボールや散らばった工具類なども置かれている。
ルイスから見れば、なんの変哲もない、ただの地下水道なのだが……
ふと、フラムはとある壁面の前で立ち止まった。
「ふぅ。ここだな」
「……え?」
「さっきも言ったろう。隠し部屋は、隠し扉を抜けた先にある。その扉がここだ」
言いながら、フラムは壁を五カ所、指先で軽く叩く。
すると。
ゴゴゴゴゴ……という鈍い音を響かせながら、その壁が横にスライドしていくではないか。
「……マ、マジかよ……」
呆気に取られるルイス。
たぶん、指定の場所を叩いて開く仕組みなんだろうが、このSランク冒険者様は、いったいなにを目印にしていたのか……?
これはたしかに初見ではわからないだろう。
「な、なんだ!?」
「侵入者か!?」
開いた扉の奥から、見覚えのある黒装束の戦士たちが二人現れた。
――どうやら、ビンゴだったようだ。




