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最底辺のおっさん冒険者。ギルドを追放されるところで今までの努力が報われ、急に最強スキル《無条件勝利》を得る。  作者: どまどま@チートコード操作 書籍化&コミカライズ
【三章】 魔物界編 ~最底辺のおっさん冒険者。ギルドを追放されるところで今までの努力が報われ、急に最強スキル《無条件勝利》を得る~
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イチとテイコー

 

  ★


「はぁ……はぁ……」


 ひとりの女性が、赤ん坊を抱きしめながら必死に逃げていた。


 ユーラス共和国。

 その首都、ユーラス。


 普段は魔導具まどうぐの光に照らされ、文化の最先端をいっているはずの街。そんな首都が――現在、地獄絵図に陥っていた。


 建物は無惨に壊され、隠れる場所すらない。わざわざ炎を用いて破壊活動を行ったようで、あちこちで硝煙の臭いが鼻をつく。焼死体も所々で転がっており、女性――アルカナはたまらず子どもの目を覆った。


 それらの遺体は、ほとんどが男性のものだ。女性の遺体はほとんど見受けられない。なぜならば――


「…………っ!」


 アルカナは思わずぎゅっと瞳を閉じた。


 どこからか、女性の泣き喘ぐ声が聞こえるからだ。同じ場所から、男の嫌らしい笑い声も聞こえる。助けにいきたいところだが、一般住民たるアルカナにはなにもできない。あの場でなにが起きているのか、想像したくもない。


 ――なんて、ひどい。


 アルカナは小声で呟いた。

 サクセンドリア帝国の人間たちは、この侵攻を《正義の鉄槌》だと言う。二千年もの間、ユーラス共和国が自分たちにやってきたことを思い知らしめるのだと。


 正直言って、難しい話はアルカナにはわからない。《テイコー》への嫌悪感なんてみんな抱いているから、自分もそうだっただけだ。


 でも。

 こんなものが、こんなことが、起きていいはずがない……!


 私はただ、普通に生きてきただけなのに……!


 アルカナはふと、視線を斜め方向にずらした。

《目的地》まではまだまだ遠いが、帝国人どもはさっき女の声が聞こえた場所に固まっているようだ。このまま、行けるところまで行きたい……!


 と。


「う……あ……ッ!」


 ふいに、腕のなかの赤ん坊が呻き声を発する。目はしっかり覆っていたはずだが、硝煙の臭いに刺激を受けてしまったか。


 ――しまった。

 そう思ったときにはすでに遅かった。


「あーーーーーーーッ!」


 赤ん坊はそのまま大声で泣きじゃくり始めた。周囲への外聞もなにもない、本能に身を任せた泣き声。普段は愛おしく聞こえるが、いまはタイミングが悪すぎた。


「や、やめて……! ね! いい子だから大人しく……!」


「うあーーーーーーッ!!」


「お、お願い……! 静かにして……!」


「なんだァ? うるせェなあ……」


 アルカナの願いは、しかし届かなかった。 

 右方から、怪訝そうな表情で男が姿を現す。心なしか、ややいらついているように思えた。


「お……?」


 そんな男と、アルカナの視線がぴたりと合う。

 ぞくり――と。 

 アルカナの背筋に冷たいものが走った。


「なんだよぉ。ここにもいたじゃねえか。上玉じょうだまがよぉ」


 ニヤニヤ笑いを浮かべばがら歩み寄ってくる。


 最悪だ。

 もう、なにもかもが終わった……

 なんとか意地で逃げようとするが、赤ん坊を抱えたアルカナの逃走などたかが知れている。あっという間に回り込まれてしまった。


 あまりの恐怖に、アルカナは両膝をついてしまう。


「げひひ……よかったぜぇ……?」

 前方に立ちふさがる男が、よだれを垂らしながらにじり寄ってくる。

「女どもはみんな《スキル持ち》がかっさらっていったからよぉ……。俺たちが遊べる相手はいなかったんだ。な? 可哀相だろ?」


「…………」


「クク、いい目してるねぇ。帝国人たる俺様が、《イチ》と遊んでやろうってんだ。もっと喜んでもいいんだぞ」


「あ、あなたって人は……!」


 アルカナが精一杯男を睨みつけると、赤ん坊がまたしても腕のなかで暴れ出した。


「オギャーーーーー!」


「ちっ、うるせえガキだな。おい、そいつ邪魔だから殺すぞ」


 男は不愉快そうに顔を歪めると、赤ん坊に手を伸ばしてくる。


 アルカナは咄嗟に身体を逸らした。


「いや! やめて! この子だけは……!」


「駄目だ駄目だ。ガキがいたらうるさくてかなわねぇだろうよ」


 なんて、ひどい。

 やっぱりテイコーはテイコーに過ぎなかったのだろうか。野蛮で、自分たちのことしか考えていない、クズみたいな人種……

 ひどい……


 アルカナが瞳を閉じた、その瞬間。


「そこまでにするんだな。クズどもが」


 突如、聞き慣れない男の声が聞こえた。


「え……」


 慌てて顔を上げる。


 またテイコーが現れたようだ。瞳の色が明らかに黒い。


 なのに……彼が現れたとき、アルカナは謎の安心感を覚えてしまった。なんというか、彼のまわりに不思議なオーラが漂っているのだ。


「なっ……お、おまえは……ル、ルイス・アルゼイドか……!」


「…………」


「ちっ! 邪魔だ、てめェも死にやがれッ!!」


 そうして男が殴りかかった――のだが。

 数秒後には、ルイスと呼ばれた男の姿はそこにはなかった。


「な……」


 男の拳が空しく宙を通り過ぎ、おおっと言いながら前につんのめる。


「――大丈夫か?」


「え……」


 思わず目を見開くアルカナ。

 ルイスと呼ばれた男が、片膝をついた姿勢でアルカナの前方にまでやってきたからだ。



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