おっさん、信頼されていく
夜。
ギルドから報酬金をもらったルイスたちは、フラムの家に泊めてもらうこととなった。
ねぐらに困り、あたふたしているルイスを見かねて、フラムが誘ってくれた形だ。
なにしろ――宿がない。
どこか安いところに泊まろうかと思っていたのだが、帝国人への差別がここでもいかんなく発揮された。扉を開けた瞬間、しらけた顔で《帰れ》と突っぱねられたのである。そうと言われたら無理やり泊まるわけにもいくまい。
ちなみに、報酬金は思った以上にいただくことができた。
元々は銅貨を数枚だけ割り当てられるはずだった。だが、さっき話しかけてきた冒険者がギルドに掛け合ってくれたのである。古代魔獣を倒し、戦場に一番大きな結果を残した者が微々たる報酬ではおかしい……そう提言してくれたわけだ。ちなみに彼はBランクの冒険者で、そこそこ顔も広いようだ。
だからいまのルイスたちは、多少懐に余裕があった。宿泊費が浮いたぶん、ご馳走になった食費くらいは返すべきだろう。そう思い、たんまり食材を買い込んでおいた。
ユーラス共和国で迎える、初めて夜。
この一日だけで色々とあったが、今日も無事に終えることができた。まずはこのことに感謝だな……と、年齢相応のおじさんくさいことを考えるルイスだった。
「わー。そんなにいっぱい、いいんですかー?」
家に入ったとき、フラムの母――ナール・アルベーヌは開口一番にそう言った。変わらずのぼんやりとした口調だ。
ルイスは後頭部をかきながら、わははと笑った。
「いいんですよ。昼飯のお礼ってことで」
「そんなに気を使わないでいいのですよー? 私だって病気を治してもらった身ですから」
「いやいや。こりゃ俺からの気持ちですから。どうぞ受け取ってください」
「いいんですかー? なら、いまから腕によりをかけてご飯作りますから、待っててくださいねぇ」
そう言ってルンルン歌いながら台所に消えていくナール。大量の食材を渡しておいたから、まさか昼時みたいに全部使うことはないだろう。
たぶん。
「まあまあ、座ってくれ」
居間に通されたルイスたちは、フラムの用意した椅子に腰かけた。気の効いたことに、冷えた水まで用意してくれている。
本当にありがたいことだとルイスは思った。帝国人への差別が当然のように行われている共和国で、ここまで良くしてくれるなんて。
だからルイスは素直に感謝の気持ちを口にした。
「はは。いいってことさ。私も色々と勉強になったよ」
フラムからも、出会った当初のような警戒心は綺麗に失せている。ルイスたちを信頼してくれているようだ。
「フラム。あの黒装束の集団を……おまえはどんなふうに見てる」
「んー……」
冷や水を飲みながら、フラムは目を細める。
「わっかんねえな。どうにも得体の知れない連中だ」
「そうか……」
ルイスもまったく同じ心境だった。あのリーダー格が破天荒に強いこと、そしてヴァイゼ大統領と繋がりがあることしか現時点ではわからない。
ルイスは腕を組み、思考を巡らせながら言った。
「神聖共和国党は……奴らの傀儡に過ぎなかったのか」
「可能性はあるかもしれませんね。最後に生き残った党員が、大統領がどうのって言ってましたし……」
こちらも難しい顔で頷くアリシア。
もし仮にそうであれば――帝国人として放ってはおけまい。過去の帝都襲撃が、大統領の指示によるものだったとしたら……それこそ大事である。
ルイスたちが黙りこくっていると、ふいにフラムが口を開いた。
「さっきから気になってたんだが、その……大統領とか皇帝陛下とか、いったいどうなってんだ? あんたらは皇帝の知り合いなのか?」
「んー。まあ、そうとも言える、かもしれないな……」
それからルイスは、帝国で起きたこと、無条件勝利や古代魔法のことなどを、簡潔に説明してみせた。




