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アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第四章

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炎龍討伐

 

 炎龍エディ・オウルはハヤトが前回見た通りの行動を起こす。


 最初に広範囲をスタン状態にさせるドラゴンロアと呼ばれる咆哮だ。だが、アッシュやネイ、それに一部のメンバーにはスタンは発生しない。ハヤトが作った指輪や腕輪の効果により、無効化しているためだ。


 基本的に状態異常無効化系の装備は、状態異常を起こした後で装備してもそれがなかったことになるわけではない。あくまでも、それらを誘発する攻撃を受けたときに装備しておかなければ意味がない。


 モンスターの行動がAIならば予備動作などが存在するが、相手は人間。予備動作などはない。だが、癖はある。そのあたりをアッシュは調べており、大体の行動は把握しているとのことだった。


 まず、ドラゴンロアに関してはクールタイムが惜しいのか、使えるときには必ず使う。つまり、最初に登場したときに使うのと、その後、一分おきに必ず使う。


 そして翼の羽ばたきによる風圧のノックバック。これは帝都の広場がプレイヤーで埋め尽くされると使う。それはドラゴンテイルと呼ばれる尻尾による範囲攻撃をするための場所確保だ。ドラゴンの思考は人間ではあるが、羽ばたきがドラゴンテイルの予備動作と言ってもいい。


 さらに炎のドラゴンブレス。これは後衛が強力な魔法を使うときの妨害用であるため、普段は温存している。連発ができないためここぞという時に使うとはアッシュの言葉だ。


 これらの情報は傭兵団と黒龍ですべて共有されており、この情報に従った戦い方をしている。


 このゲームではネット上に攻略情報などはない。なので、これらの情報を知らないプレイヤーもいるのだが、ネイは戦いながらそういう情報を大声で展開していた。


「羽ばたきの後はドラゴンテイルが来るぞ! 気を付けろ!」


 ネイはそう言いながら周囲を鼓舞しており、プレイヤー達もその声に従って、それぞれ対策をしていた。もちろん、その声は炎龍にも届いてはいるが、バレているのが分かっていてもやる方がメリットがあると判断しているのか、ネイの発言通りの攻撃をしていた。


 炎龍はAIでないため、ヘイト値というのは存在しない。大量のダメージを与えようが、ヘイト値を稼ぐウォークライのスキルを使おうが意味はない。炎龍は自分の意志で攻撃対象を選ぶことができる。


 当然、狙うのはネイだ。炎龍からすれば余計なことを言っている憎い相手と言ってもいいだろう。炎龍はネイを狙って噛みつきやひっかき攻撃をしてくる。だが、それほど効果はなかった。


 ネイは全身を炎耐性の装備で固めており、ダメージを10%以下まで抑えることができる。


 そんな状況を見たエシャは、一度ハヤトの方を見てから、溜息をついた。


「よくもまあ、あんな装備を揃えましたね? レッドドラゴンシリーズですか」


「アッシュからレッドドラゴンの鱗をかなり貰えたからね。それで装備一式作ったよ。でも、ワンセットしか出来なかったから、ネイに装備してもらったんだ」


 レッドドラゴンとは赤い竜の意味だが、それは炎系のドラゴンのことを指す。その鱗で作られたレッドドラゴンシリーズと呼ばれる装備一式は炎の耐性を著しく向上させる。逆に水や氷属性の攻撃には二倍以上のダメージを受けることになるが、このスタンピードで言えば何の問題もない。


 そして黒龍のメンバーは回復魔法や支援魔法のエキスパートがいる上に、ネイはハヤトの料理や薬品を大量にもっているため、この場所においてはほぼ無敵の防御力を持っていた。


 現在のネイは簡単に言うと盾役。周囲のプレイヤーを鼓舞しているのも、狙いを自分に向けさせるための作戦だった。


 そしてアッシュ達は目立たないように力を抑えて攻撃している。通常のドラゴンを倒すために使っていたドラゴンイーター・レプリカは使わずに、普通の武器で攻撃して炎龍から攻撃されないようにしている。それはダメージ調整をするためでもあった。


「セシル、そろそろ出番だぞ。大丈夫なんだろうな?」


「任せろって。むしろ気持ちが抑えられねぇから早くしてくれよ」


 アッシュとセシルの音声チャットがハヤトの耳にも届く。


 今回、セシルは前回の攻撃に加えて、さらにダメージが乗算されるようになっている。


 前回の攻撃は16倍だったが、今回はさらに攻撃する剣をドラゴンイーター・レプリカに変えている。星一の品質でもドラゴンに対するダメージが二倍になるが、星五は三倍。


 そして料理にマンガ肉を食べてもらう。さらに五分という短い時間しか効果がないが、パワードリンクと呼ばれる攻撃力を上げる薬品も飲んでもらう。マンガ肉の攻撃力75%アップ、パワードリンクの攻撃力25%アップを使うことで、今までの二倍のダメージが出せることになった。


 つまり、前回の2×2×4の16倍ではなく、2×2×4×3×2の96倍のダメージを叩き出す。


 数値だけ見ればかなりの値だが、実際にこれをやれるかどうかは難しい。


 前回はうまくいったが、炎龍は広範囲のスタンやノックバックの状態異常攻撃をしてくる。ノックバックやスタンは相手の攻撃をキャンセルする。ダメージ向上系のウェポンスキルも同じようにキャンセルできるため、それをセシルが受けると一瞬で水の泡だ。


 ウェポンスキルにもクールタイムがあるため、次に条件が揃うには時間がかかる。そしてセシルは複数の武器を装備したり、どんな武器も装備したりできるという恩恵の代わりに、指輪や腕輪を装備できず、アイテムバッグも利用できない。


 料理や薬は団員から手渡ししてその場で飲食することは可能だが、指輪や腕輪が装備できなければ状態異常の無効化はできない。


 今回の作戦でハヤトが一番に懸念していることだ。


(炎龍のHP三分の一以上を一撃で減らす。実際の数値は分からないけど、おそらくいけるはずだ。それに一撃で倒せなくても数ミリ残るくらいなら属性攻撃で押し切るのも可能だろう。問題はスタンやノックバックだよな。本当に気を付けてくれよ)


 ハヤトはそう考えながら状況を見守った。


 そしてアッシュからセシルにやってくれとの言葉がハヤトにも聞こえた。


 セシルは「よっしゃあ!」と言って帝都の外から炎龍がいる広場に走り出す。


「セシル! ドラゴンロアのクールタイムを考えろ! 早すぎる!」


 建物の屋上から全体を見渡しているのでハヤトはある程度状況が分かっている。あと十秒くらいでドラゴンロアのクールタイムが終わり、周囲にスタンをまき散らす状況だ。


 ドラゴンロアの効果範囲はほぼ帝都全域。絶対に巻き込まれる。だが、ハヤトの言葉はセシルには届かなかったようで、移動を止める様子はなかった。


「仕方ありませんね」


 エシャはベルゼーブを構える。そしてスコープをのぞき、セシルに標準を合わせた。


 クリティカルショットやデストロイではなく、普通の攻撃。それをセシルに向けて撃ったのだ。


 当然、本人に当てるのではなく、その地面に何発も当てるようにして警告をした。


「うお! エシャ! 何しやがる! まだ変なことはしてねぇよ!」


「まだってなんですか。早くその場から離れてください、ドラゴンロアが来ますよ」


「あ、やべ」


 セシルはすぐさまその場から元の場所へ戻る。その直後に炎龍がドラゴンロアによる咆哮を放った。


 セシルはそれに巻き込まれることはなく、ウェポンスキルは維持したままだ。


「今度は早く行ってください。羽ばたきをする前に当てるんですよ。大体、なんで先にウェポンスキルを使うんですか」


「助走をつけて一撃を入れた方が格好いいだろ? おっしゃ! 行くぜ!」


 セシルはドラゴンイーター・レプリカを肩に担ぎながら走りだした。


 ハヤトは大きく息を吐いて落ち着くが、広場の状況に問題があるように思えた。


(あれ? 広場に人が多すぎないか? 炎龍までたどり着けるか?)


 このゲームでは人を押しのけることも可能だが、それにはSTRが影響する。


 セシルの場合、複数装備している武器の性能によりステータスが向上しているため、STRで負けることはないだろうが、それでも何人もいれば炎龍にたどり着くまで時間がかかる。


「アッシュ! ネイ! セシルの道を開けてやってくれ! 西から広場に向かってる!」


 二人から「任せろ!」との声が届き、数秒後に広場にいた人が北と南に分かれた。アッシュ達が何を言ったのかは分からないが、広場では中央に炎龍がいて、広場に東西を結ぶ一本の道ができる。


「な、なんだ?」


 その光景に炎龍も不思議そうな声を上げた。だが、次の瞬間には顔が引きつる。西からセシルが凶悪そうな笑みで走って来たのだ。


 セシルはすぐに広場に足を踏み入れ、一直線に炎龍へ向かった。


「消し飛べ、オラァ!」


 炎龍のひっかき攻撃による迎撃をかいくぐり、セシルのドラゴンイーター・レプリカによる袈裟斬りが炎龍の腹部にヒットする。


「ぐぼぁ!」


 攻撃をうけた炎龍が広場からはじかれるように勢いよく吹っ飛び、地面を転がった。炎龍はなんとか立ち上がろうとするも、その場に倒れた。そして光の粒子になって体が消えていくようなエフェクトを出す。


 全員がぽかんとするなか、広場ではファンファーレと共に花火が上空にあがった。


「炎龍エディ・オウルの討伐に成功しました。スタンピード参加者には貢献ポイントとドラゴンソウルのかけらが授与されます。繰り返します――」


 ワールドアナウンスが聞こえた。その直後に広場では大歓声が起きた。この半年近く、一度も倒せなかった炎龍を倒せたのだ。大半のプレイヤーは半ば諦めていたので、その喜びは計り知れない。


 そして、それを見ていたハヤトにも貢献ポイントとドラゴンソウルのかけらが手に入った。


「これがドラゴンソウルのかけらか」


 かけらは手のひらに乗る程度の大きさで長細いクリスタルのようなものだった。特に何か変わった様子はない。ハヤトはそれをアイテムバッグへ戻す。


「どうやら作戦は成功だったみたいだね。それじゃアッシュ達と合流して拠点に戻ろうか」


「その前に確認したいのですが、貢献ポイントはもらえました? 私はNPC扱いなのでもらえませんでしたけど」


「え? ああ、うん、一度も攻撃していないのに結構もらえたよ」


「なるほど、なら今日は焼肉ですね。カルビとロースをお願いします」


「それって、現実の話?」


「もちろんです。賞金が出るんだからお祝いしましょう。チョコパフェパーティでもいいですけど」


「それはちょっと。よし、夜は焼肉にしよう。たまには贅沢してもいいよね。でも、まずは喫茶店の仕事ね。午後から頑張るよ」


 両手をあげてガッツポーズするエシャを微笑ましく思いながら、ハヤトはアッシュ達に音声チャットを送るのだった。


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