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アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第四章

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父親

 

 アッシュ達に簡単な料理を振舞った後、ハヤトは自室に戻りディーテに音声チャットで連絡をいれた。


 それは炎龍エディ・オウルに関しての情報を聞くためだ。この炎龍はモンスターだが、その思考は人間のもの。汎用的なモンスターに使用されている単純なAIではなく、自分の意志でどうとでも戦い方を変えられる。


 炎龍は飛べないタイプのドラゴンだが、もしかなり上空まで飛べるのなら、攻撃の届かない範囲から一方的に攻撃するなどの戦い方もできなくはない。


 さすがにそんな状態にはならないように色々な制限はかかっているだろうが、それらの設定ができるディーテは現状イベントの内容には手が出せない状態となっている。


 アッシュの案は炎龍が炎化する前に倒すという戦い方だが、それはいい考えだとハヤトは思っている。だが、一度目は成功したとしても、二度目以降の戦いがあった場合、最初から炎化する戦い方をされたら詰む。現状、炎化されたらほぼ勝てないからだ。


 そのため、ハヤトは炎龍エディ・オウルに関する情報をディーテから得ようとしている。そしてそういう戦い方をしても大丈夫か相談しようと考えてのことだった。


 仮想現実の管理者にネタバレの内容を確認するような形ではあるが、事情が事情なだけにそんなことも言っていられない、ハヤトはそう思いながらディーテの返答を待った。


 そしてすぐにディーテから応答がある。


「やあ、ハヤト君。どうやら王都や帝都の復興に関して頑張ってくれているようだね」


「復興の貢献ポイントがそこそこ高くて助かってるよ。午前中に喫茶店を休んでいるけど、時給千円くらいは稼げているかな」


 たまに喫茶店のその日の売り上げよりも稼いでしまうところが悲しいところだが、ハヤトは自分の名誉のためにそれは絶対に言わないと心に誓っている。


「それはなによりだ。もういっそのこと、仮想現実で喫茶店をやったらどうかね? 私の方はいつだって歓迎するのだがね?」


「強引な勧誘はしないけど、ちょくちょくそうやって勧誘するよね? まだ諦めてくれないんだ?」


「一度や二度振られたくらいで諦める理由はないよ。無理やり仮想現実に閉じ込めたりはしないが、君の方から望んでくるならこちらも拒否する理由はないからね。もちろん、駄目なら駄目で仕方ないが、もしその気になったらいつでも言ってくれたまえ」


「はいはい。それで、ちょっと真面目な話なんだけど――」


 ハヤトは炎龍対策の話をディーテに聞かせた。


 単純にそういうことをしても問題がないかという確認だ。特に二度目以降の戦いで酷い状況になることは避けたい。


 それにこの戦い方はセシルにしかできない戦い方だ。つまり、プレイヤー達だけでは達成できない方法となる。武器の複数装備などは先行実装として考えられているが、そもそもNPCにしか倒せないというイベントになると、プレイヤーからの反感があるかもしれない。


 そういった危惧を含めてディーテに相談した。


 ディーテはハヤトの言葉を相槌だけで聞いていたが、ハヤトの説明が終わった後に「なるほど」と答えた。


「まず、炎龍に対してはその戦い方で勝利しても問題はない。一度倒してもある程度の期間が過ぎると再度出現するが、二回目の戦いで最初から炎化するということはないね」


「理由を聞いても?」


「簡単に言えば、あれはHPが三分の一以下にならないと発動できないのだよ。たとえ、本人が使いたいと思っても使えるわけではないから安心したまえ。何かしらの対策をしてくる可能性はあるが、最初から炎化はありえないよ」


「そういう仕組みなんだ? でも、今回のイベント、難易度が高くないかな? HPを三分の一まで減らしてからは属性攻撃をしないとダメなんだろうけど、普通の火力じゃ押し切れないって相当な難易度じゃない?」


 ハヤトは最近になって聞いたのだが、このスタンピードのイベントではいまだに防衛に成功したことがないとのことだった。つまり、一度も強硬派のドラゴンを撃退したことがない。


 倒さなくても貢献ポイントが手に入るので、プレイヤー達からはそこまで不満は出ていないようだが、半年近く倒せない状況が続いているので、そもそも勝てないイベントなのでは、と噂されているほどだった。


「確かに難易度は高いね。ただ、そもそも炎龍エディ・オウルは帝都を襲うようなドラゴンじゃなかったはずなんだ」


「え?」


「そもそも帝都は暴龍アグレスベリオン――正確にはアグレス・ベリオンだね。そのドラゴンが帝都でスタンピードを起こすはずだった。彼はあらゆる属性攻撃が効かない代わりに、物理攻撃に弱いドラゴンだ。そして帝都にはセシル君や他の強力なNPC達がいるのだが、そのほとんどが物理攻撃を主体としている。NPC達と協力すれば倒すのは難しくないはず――だった」


「以前言っていた所属地域をドラゴン達が無視しているから難易度が上がっているってこと?」


「その通り。基本的にドラゴン達が暴れる予定の国は、その国のNPC達には弱い形にしてある。それがあるからいままでドラゴンを撃退できた、というストーリーがあったんだよ。だが、それを無視されているので難易度が上がったわけだね」


「もしかして他のスタンピードも同じ感じになっているのかな?」


「察しがいいね。今の状況だとドラゴン達が本来の力を発揮すると、その国のNPC達はほとんど使い物にならなくなる。プレイヤー達だけで倒す必要があるわけだ。ただ、スタンピードはクラン戦争の時のように決まった日に起きるわけじゃない。本来は完全にランダムだったのだが、今だとプレイヤーの少ない時間を狙っていると言ってもいい」


「ええ? 確かにドラゴン達は人間なんだろうけど、プレイヤーが少ない時間を狙うって可能なの?」


 強硬派のドラゴン達の中身は確かに人間だが、彼らの現実はこの仮想現実だけだ。本当の現実からログインしているプレイヤーが少ない時間を狙う、といったことが可能だとはハヤトには到底思えなかった。


「可能ではある、かな」


 なぜかディーテの歯切れが悪い。ハヤトはディーテが何かを隠しているような回答のように思えた。


「なにか隠し事をしてる? 俺にも言えないこと?」


 今回のイベントには色々と問題がある。ハヤトはディーテに手伝って欲しいと言われている以上、たとえ隠し事をされても手伝うつもりだ。だが、イベントに負けると仮想現実で遊べなくなる可能性があると言われているなら、可能な限り情報を知っておきたい。


 アッシュ達の母親のようにプライベートのことなら聞くこともないが、ゲーム上の設定や、何か問題があるようなことなら情報を共有しておくべきだろう。ハヤトはそう考えた。


「ディーテちゃん」


 ハヤトが名前を呼ぶと、ディーテは「分かった、説明しておこう」と言い出した。


「前々回のクラン戦争で成績上位者にはシステムを改変するほどの褒美を与えたという話は知っているね?」


「もちろん。エシャのスキル上限解放やセシルの装備のことだよね? でも、なんの話?」


「順番に話したいからまずは聞いて欲しい。そして私は彼、彼女達の要望を全て叶えた。もちろんそれに見合ったリスクやデメリットを与えた上でだがね」


 ハヤトはそれも知っている。エシャやセシルの褒美にはそれに見合うようなリスクが存在しているのは先ほど聞いたばかりだ。


「当然、アッシュ君達にも褒美を与えている。彼らは当時『ドラゴンソウル』と呼ばれるクランに所属していてね。褒美としてドラゴンに変身できるようになりたい、という願いだった。デメリットとしては、クランのメンバー半分が敵対関係になるという形だ。ちょうど現実の記憶を失うからね」


「そういう形だったんだ? でも、よくそんなデメリットでアッシュ達は了承したね。仲間だったんだよね?」


「敵対関係になるとはいっても殺し合いをするわけじゃない。クラン名だったドラゴンソウルを奪い合うという形で争うというだけだよ。お互いに嫌うような形ではなくライバルのような関係と言えばいいかな。設定上、強硬派と穏健派に分けたがね」


「その割にアッシュは父親を嫌っているように思えるけど」


「いいところに目を付けたね。実はドラゴンになりたいという願い以外にも、もう一つ願いを叶えている相手がいる。私はその願いを聞き入れた。そのデメリットに影響されているんだ」


「……それが誰かを聞いても?」


「情報は共有しておくべきだろうね。願いを叶えてあげた相手、それはヴェル・ブランドル君だ。その願いと引き換えに、アッシュ君に嫌われるという形になっている。それ以外にも、その願いに関しては誰にも言えないという制限があるがね」


「それはまた……それで、その願いについても聞いていいのかな?」


「もちろんだよ。簡単にいえば、彼は現実の記憶を持っている」


「……え?」


「ヴェル君の願いは、現実の記憶を忘れないことだった。彼は現実の記憶をもったまま、この仮想現実にログインしていると言えばいいかな。エシャ君とは違って記憶があってもログアウトはできないがね」


 当時は資源枯渇の時代。生きることに絶望している人が多かったとハヤトは聞いている。だからこそ、現実を忘れ、仮想現実だけで生きることを選択した。それが今のNPC達だ。


 だが、アッシュやレンの父親であるヴェルは記憶をなくさずに仮想現実だけで生きている。ハヤトにはその理由が分からない。


「その理由は?」


「アッシュ君とレン君が心配だったんだろうね。二人が――いや、レン君がこの仮想現実に残ろうとして、それにアッシュ君が同意した。ヴェル君がどう思ったのかは知らないが、二人を残して自分だけ現実に戻ることはできなかったんだろう。たとえ設定上、敵対関係になったとしても、これからも二人を守るためにこの仮想現実に現実の記憶を持ったまま残った。実際に聞いたわけではないが、私はそう思っているよ」


「あのさ、言いたくないんだけど、ディーテちゃん、ひどくない? そんないいお父さんなのに、敵対関係にした上に、アッシュからは嫌われる設定って。他のデメリットじゃ駄目だったの?」


「それを言われると耳が痛いのだがね、当時の私は感情プログラムがまだ不完全だった。あの頃、アッシュ君とヴェル君は同じクランだったが、結構な頻度で喧嘩をしていたのだよ。今思えばあれは喧嘩じゃないね。アッシュ君が、何事にも無気力だったヴェル君に発破をかけていたのだろう。それに気づかずに、親子に何かしらの確執があると思ったから、まあいいかな、と思ってね」


「そう言われちゃうと何も言えないんだけど」


 ディーテのあの頃というのは百年前だ。AIであるディーテもその頃はまだ生まれたばかりで、未完成であったと推測できる。たとえ人だとしても他人を完全に理解することはできない。その頃のディーテにそこまでの人間関係を見抜くことは不可能だったと言える。


「さて、長くなってしまったが、ドラゴン達がプレイヤーの少ない時間を狙えるというのはヴェル君がいるからだろう。スタンピードの設定上、AM1:00からAM7:00までは発生しないが、最近はそれに近い時間や、社会人が少ない昼間にスタンピードが発生している。それにここ半年のスタンピードの発生時間を確認したのだがね、あらゆる時間帯に満遍なく発生させているようだったよ。おそらく、この半年でどの時間帯ならプレイヤーが少ないのか調べていたのだろうね」


 ハヤトは心の中で溜息をつく。ヴェルは現実の記憶を持っている。その知識を使ってスタンピードのイベントを勝とうとしているのだ。それは紛れもなく強敵だろう。


 ただ、ハヤトには疑問に思うことがある。


「なんでヴェルさんはこのイベントに本気で勝とうとしているのかな? ディーテちゃんの話だと、アッシュに嫌われているとしても、ヴェルさんは二人を大事に思っているんだよね?」


「問題はそこなんだ。私も今それを調べている最中でね。過去のログやらなにやらを全部見直しているんだよ。設定を変えることはできないが、事情が分かれば交渉することも可能かもしれないからね。だからしばらくはハヤト君達を手伝えない。ただ、情報に関してはいくらでも提供するから何かあればすぐに聞いてくれたまえ」


「分かったよ。ならそっちもなにか分かったらすぐに教えて」


 ディーテから了解の返事があると音声チャットが切れた。調査を再開したのだろう。


(炎龍の話を聞くだけだったのに、色々な情報が出てきたな。ヴェルさんのことはアッシュやレンちゃんには言えないから、エシャに相談してみるか。それにしても色々と大変なイベントになったなぁ)


 ハヤトはそんなことを考えながら部屋をでて食堂に向かった。


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