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アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第四章

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予想がつかないイベント

 

 ワールドアナウンスを聞いたアッシュ、レン、そして傭兵団の全員が動き出した。


 アッシュが申し訳なさそうにハヤトへ頭を下げる。


「こんなときに済まない。俺達は帝都へ行ってくる」


「そうなのか? まだ、全然話をしてないんだが……」


「また改めて宴を開こう。次は俺達が全部やるから」


 アッシュはそう言うと、レン達に向かって「いくぞ!」と号令をかけた。


 レンは「ごめんなさい! 呪いの話はまた今度でお願いします!」と、頭を下げてから傭兵団の皆と拠点を出て行った。


 そしてハヤト達が取り残される。


 ハヤトはこの状況を少しだけ不思議に思う。


 アッシュとレンはドラゴン。そして今はドラゴン達のスタンピード。その戦いに行くのは設定上、仕方がないことだろう。だが、アッシュ達以外はあのアナウンスを聞いても特に動こうとはしていないのだ。


 プレイヤーであるネイ達ならまだ分かる。


 クラン戦争とは違い、スタンピードのイベントには参加するのもしないのも自由なのだ。ドラゴンを倒せば貢献ポイントを貰えるので参加することにメリットはあるが、貢献ポイントに興味がなければ参加する必要はない。


 ただ、この世界の住人は事情が違う。この世界でドラゴンが暴れて困るはずなのに、平然としているのだ。それを確認するために、ディーテに話を聞いてみることにした。


「ディーテちゃん、皆は帝都に行かなくてもいいのかな? とくに動こうとはしていないんだけど」


「場所が場所だけに問題があるのだよ」


「場所って帝都に問題があるってこと?」


「その通り。NPC達――便宜上NPCと呼ばせてもらうが、彼らには所属国という設定がある。王国や帝国、それに魔国や精霊の国などだね。これは所属しているギルドなどで決まるのだが、スタンピードでは所属国の地域でしか戦えないという縛りがある。NPCが全員で戦えるならプレイヤーがいなくてもスタンピードに負けることがないからね」


 ハヤトはプレイヤーには存在しない設定があるのを初めて知った。だが、その説明ではおかしいことがある。


「でも、アッシュ達は? もしかして帝国の所属国だってこと?」


「いや、彼らの所属国は色々だよ。彼らが所属国以外で戦えるのは傭兵だからだ。アッシュ君率いる『三日月の獣』は傭兵団として確固たる地位を築いている設定だ。スタンピードでの戦闘に縛りはないよ。他にも例外はあるがね」


 ハヤトはなるほど、と思う。


 エシャはメイドギルドに所属しているが、メイドギルドの本部は王都だ。レリックのバトラーギルドやマリスのテイマーギルドも同様なので、王国の所属となるのだろう。


「ちなみに王都で被害が出たときもアッシュ達は参加してたのかな?」


「もちろんだよ。だが、強硬派のドラゴンが五体もいたのでは対策なしに勝てるわけがない。しかし――」


 ディーテはそこで言葉を止める。何かを考え込んでいるようだが、ハヤトには理由が分からない。


「しかし、なに?」


「ああ、すまないね。簡単に言うと、不思議なのだよ。ドラゴン達も所属国というか、所属地域の設定がある。そこを離れて戦えるわけがないのだが、昨日は王都で五体の創世龍が暴れた。どうやら私が設定に手を出せないことが影響しているようなんだ」


「……あのさ、この世界を管理しているディーテちゃんにも分からないことがあるって話なの?」


「そういうことだね。実はこのイベントで何が起こるかは私にも予想がつかない。強硬派のドラゴンが勝つとまずいという話をしたが、実はそれが関係している。彼らは本気でドラゴンソウルの秘宝を求めている。あくまでも設定だけでそれほど重要なアイテムではないのだが、奪われたときにどうなるのか微妙なのだ。最悪の場合、彼らの設定通り、ドラゴン達がこの世界を支配するだろう。そうなると、このゲームを遊べなくなるほどの状況に追い込まれる。あくまでも可能性だがね」


 宴をしている場合じゃない、とか、そんなんでいいのか、とは思うが、そうなっている事情にはハヤトも関係している。そもそもディーテがイベントの設定をできない原因を作ったからだ。


(考えなしに傷をつけたのは浅慮だったかもしれないけど、あの時はああでもしないとどうしようもなかったからな……)


 そんなハヤトの考えが顔に出ていたのか、ディーテは少しだけ苦笑した。


「ハヤト君、こうなったのは私の責任なのだから君が気に悩むことはない。だが、助けてくれるならありがたい。可能性とはいえ、問題のある状況にならないようにしておきたいんだ。可能な限りアッシュ君達をサポートして穏健派のドラゴンが勝てるようにしてほしい。あと施設の復興に力を入れてくれれば、秘宝のかけらを奪われることもないはずだ。あれは襲われた町の施設がすべて壊れたときに奪われるという仕組みだからね。すでに一つは奪われているが、残りの三つを守れば大丈夫なはずだ」


「そんな設定だったんだ? なら、町の復興とアッシュ達のサポートを頑張らないとな――あ、しまった、アッシュ達に伝言があったんだ」


「伝言とは?」


「実は昨日、拠点に来る前、王都の破壊された宿から始まったんだよ。そのときに強硬派のドラゴンに会ってね」


「……君はすごいね。タイミングがいいというか悪いというか」


「まあ、それはいいんだけど、アッシュやレンちゃんのお父さんなのが分かったから話をしたんだ。そのときに二人へ伝言を頼まれてね。今日言うつもりだったんだけど、帝都へ行ったから明日以降かな」


 ハヤトのその言葉にディーテは腕を組み、思案顔になる。


「ちなみにアッシュ君の父親、ヴェル君は何と言っていたのかな?」


「ディーテちゃんなら言ってもいいか。アッシュにはドラゴンソウルの秘宝を求めるなって内容だったね。あと、レンちゃんへは兄妹仲良くって言ってたよ」


「……彼がそう言ったのかね?」


「何か問題がある? アッシュ達の設定はよく分からないけど、問題ないんじゃないの? そもそも創世龍と呼ばれるドラゴン達は秘宝を求めて争っているって設定なんでしょ?」


「それはそうだが、秘宝を求めるな、か」


 ディーテはさらに考え込むようにあごに右手を当てている。


 そういうところは人間っぽいと思いつつ、ハヤトは別のことを訊ねた。


「ところでさ、アッシュやレンちゃんの母親はどこかにいるのかな?」


「ずいぶんといきなりな質問だね。その質問には答えられるが、それは仮想現実での話を聞きたいと言うことかね? それとも現実での話かな?」


「えっと、仮想現実での設定は?」


「ドラゴンソウルと呼ばれる秘宝がアッシュ君達の母親の魂という設定だよ。とはいえ、それはただの設定でNPCとしてどこかにいるという話ではないね」


「そういう設定なのか――なら現実は?」


 ディーテは少しだけ口を開いたが、考えるそぶりをしてから、改めて口を開いた。


「私はAIなので、そういうことは気にしないタイプだが、私の口から言うのはどうかと思う。アッシュ君達にとってプライベートなことだからね。どうしても知りたいのなら教えてもいいが」


「あ……確かにそうだね。ごめん、今の質問は忘れて欲しい」


 アッシュ達はNPCではない。彼らには彼らの人生があり、色々な理由から仮想現実だけで生きようとした。母親のことが直接関係するかどうかは分からないが、興味本位で聞いていい話ではない。


 ハヤトはアッシュやレンを友達や親友と思っている。だからこそ、第三者から勝手に話を聞いていいことではない。


「ところで、なぜ急にアッシュ君達の母親のことを聞いたのかね?」


「アッシュのお父さんが言いかけたんだよね、レンちゃんへの伝言で、『母さんに似て美人に』と言ったところで忘れてくれって言ってたけど」


「なるほど。私と同じでうっかりが出たと言ったところか」


「え? どういうこと?」


「いや、なんでもないよ。さて、どうやらネイ君達が話をしたいようだよ」


 ディーテにそう言われてハヤトは後ろを振り向く。そこにはネイ達黒龍のメンバーがいた。


「ハヤト、これから皆でスタンピードに参加しないか?」


「……はい?」


「ハヤトの帰還を祝うパーティだが、もっと派手にやろう。皆でスタンピードに参加して暴れようじゃないか。ハヤトに勝利を捧げるぞ!」


「スタンピードで暴れるのはモンスターであって俺達じゃないからな?」


 ハヤトはそう言いつつも、ディーテの話を聞いた後だと、スタンピードのイベントで負けるわけにはいかないと思い始めている。


 自分は戦えないが、今後もスタンピードが発生するなら、現場で状況を確認し、それを見越した支援をアッシュ達にできるのではないか、という考えもある。


 だが、問題がある。今はハヤトの復帰を祝う宴の最中なのだ。ここにいる皆は所属国の縛りでスタンピードには参加できないため、ここに残るしかないのだ。そんな状況で宴の主役であるハヤトがいなくなるわけにはいかない。


 事情があるので説明すれば納得してもらえるかもしれないが、その事情が複雑な上にどこまで説明していいのか判断が難しい。皆に説明しているだけでスタンピードが終わるだろう。なので、今回は参加できないと判断した。


「いい提案なんだけど、皆を残して参加するわけにはいかないよ」


 ハヤトがそう言うと、エシャが割り込んできた。


「それならこうしたらどうでしょうか? スタンピードは参加しなくても映像で確認することができます。ネイ様達はスタンピードに参加して、ご主人様や私達はそれをここで見るというのは? ネイ様達が活躍すれば、こちらも盛り上がりますし」


 エシャはスイーツばかり食べて会話には参加していなかったが、ハヤトとディーテの会話を聞いていたのだろう。


「おお! それはいい案だ! さすがメイドさんだな!」


 ネイはエシャの提案に乗り気のようだ。そしてハヤトも乗り気になっている。具体的な方法は知らないが、この場所からスタンピードの状況が分かるなら、相手の分析にも役立つし、今後、アッシュ達への的確な支援ができるかもしれない。


 すぐにその案は可決され、黒龍のメンバーは帝都へ向かった。


 そしてパーティの会場である食堂にディーテが巨大なモニターを用意する。するとスタンピードの映像が流れ始めた。


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