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アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第四章

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帰還の宴

 

 ハヤトは拠点の自室にあるベッドで目を覚ます。


 午前中はメイドギルドの依頼で復興用のアイテム作成と納品を行い、午後は現実で喫茶店の仕事をしていた。そして改めてログインをした。


 それはエシャも同様。隣の部屋で目を覚ましたところだろう。


 ハヤトは少しだけエシャのことを考える。


 エシャはハヤトと同じようにプレイヤーとしてログインしているが、NPCの扱いなのだ。それは今でも変わっておらず、名前も黄色表示であり、プレイヤーのような制限はない。


 以前は一日中店番を頼んでいたが、今は現実の方で働いてもらっているので、エシャというキャラクターがこのゲームの世界からいなくなる時間がある。


 それに対してメイド長などは不思議に思うことはないそうだが、拠点の店番がいないというのは、生産職のハヤトとしては問題だ。


 今後はオークションのシステムを活用する、という手段もあるが、せっかく拠点には店舗がある。別のメイド、もしくは商人ギルドからちゃんとした人を雇おうかと思い始めた。


 とはいえ、すぐにという話ではない。ハヤトがいない半年の間に拠点にある売り物はほとんど売ってしまい、最近は休業中だ。改めて店の商品を補充しなくてはならない。


 まずはそこからだな、と考えたところで、エシャが遠慮することなく部屋に入ってきた。


「そろそろ皆さんが来ますから早めに準備をしないといけませんよ」


「そうだね……あのさ、ゲームではそうやって入って来てもいいんだけど、現実ではやめてもらっていい?」


「やましいことがなければ問題ないはずです」


「やましくなくても嫌なんだってば」


「善処します。さあ、皆さんが来る前に準備しましょう。それと料理を楽しみにしています。今日はリミッターを解除するとだけ言っておきましょう」


「そのリミッター、いつも壊れてるよね?」


 そんな会話をしてから、ハヤト達は食堂へ移動し、宴会の準備を始めるのだった。




 それから一時間後、拠点に続々と人が集まってくる。


 最初に来たのはアッシュとレン、そして傭兵団のメンバーだ。


 レンはハヤトを見て笑顔になった。


「ハヤトさん! おかえりなさい!」


「ただいま、レンちゃん。アッシュや傭兵団の皆さんも」


 アッシュは何も言わずに少しだけ微笑んでから、ハヤトに近寄り肩に右腕を回した。


「帰ってくるのが遅いぞ。ディーテから色々聞いてはいたから心配はしてなかったけどな」


 そう言った後、アッシュは左腕の拳でハヤトの胸を軽く叩く。


「痛――くはないけど、ダメージを受けたから気を付けてくれ。あと、エシャの前でそういう行動は良くない」


 エシャがものすごい目力でハヤトとアッシュを見ていた。一瞬でも見逃すまい、そんな目だ。


 そんなエシャを見ていたレンが、何かにひらめいた顔をした。そして小さな声でハヤトにささやく。


「私もこの半年で成長しました。ハヤトさん、これはエシャさんの嫉妬ですよ! 兄さんと仲良くしてるから、ちょっとジェラシーを感じてるんですよ! モテモテですね!」


 それはない。ハヤトはそう思ったが言わなかった。ちょっと乾いた笑いが出ただけだ。


 そして他のメンバーもやってくる。


 レリック、ミスト、マリス、ルナリア、ディーテ、そしてクランのメンバーではないが、関わりがあった人達も来ている。


 まずはネイ達、黒龍のメンバー。ハヤトの事情を知っているのはネイだけだが、復帰の宴をするとハヤトが声を掛けていた。


 そしてメイド長とメイド達。メイド長には別の目的があるが、メイド達は今回ハヤトが一日だけ雇った。立食形式なので料理の準備などをしてもらうためだ。さすがにメインの自分が宴中も準備をしているのはどうかと思ったからだ。


 あと黒薔薇十聖の一人であるゴスロリ服を着た女性。魔王城の奥へ行くときに手伝ってもらったので、ルナリアに頼んで連れてきてもらったのだ。


 ほかにもマリスがペット達を連れてきているので結構な人数になった。


 そして全員がハヤトを見る。


 まずはハヤトの言葉だ。今回のメインとも言うべき、ハヤトの帰還。その主役からの言葉がなければ始まらないだろう。


 ハヤトは右の人差し指で頬を掻きながら照れ臭そうにする。


「えっと、ただいま。皆のおかげで少しだけ夢を叶えられたから戻って来たよ」


 ハヤトがそう言うと、皆、言葉は違えどおかえりという旨の言葉を投げかける。そして宴が始まった。




 ハヤトは一人一人に感謝の言葉を伝えるために歩き回った。


 最初はレリックとミストのところへ足を運ぶ。二人は笑顔でハヤトを迎えた。


「おかえりなさいませ、ハヤト様」


「ようやくお戻りになりましたね」


「レリックさん、ミストさん、お久しぶりです」


 ハヤトは頭を下げた。


 最後のクラン戦争で別れてからベッドで寝ているところしか見ていない。その後は掲示板に別れの挨拶を書いただけだ。


 久しぶりに会う二人は何も変わっていなかった。当然と言えば当然なのだろうが、あのころとはハヤトの状況が違う。二人とも人間であることに、より一層、懐かしいという気分になった。


 レリックは笑顔でハヤトを見つめる。


「先ほどおっしゃっていましたが、夢は叶えられたのでしょうか?」


「夢の一部は叶えられた、と言ったところですね。まだまだ途中ですよ」


 喫茶店を開くことができた。それはスタートでしかない。これから一人でも多くの人をもてなして、さらに喫茶店を安定させる必要がある。エシャの言う、世界一の喫茶店は無理だろうが、気持ち的にはそれを目指してはいる。


「喜ばしいことです。ところで、こちらの拠点にはずっとおられるのですか?」


「ええと、午前中と夜だけは拠点にいます。それ以外はちょっと別の場所でやることがありまして」


 別のところとは現実での喫茶店だが、ハヤトはそれを言うことができない。レリック達は人間ではあるが、人間だったころの記憶はなく、この世界だけが彼らの現実なのだ。


 そこに現実の話を持ちこむのは彼らの記憶を刺激することになる。エシャの例もあるように、記憶を取り戻すことが悪いわけではない。だが、記憶を取り戻した後、どうなるか分からないのだ。


 ハヤトがディーテから聞いた話では、錯乱状態になる可能性もあるとのことだった。そのためにAI保護というシステムはあるが、記憶を取り戻すような現実の話は極力避けてくれと言われている。


「少しでも拠点にいらっしゃる時間があるならありがたいことです。不躾な話ではあるのですが、また執事として雇っていただけると思っても?」


「ええ、もちろん。また色々とお願いすることがあると思いますが、ぜひ、雇わせていただきますよ」


「ありがたいことです。では、またよろしくお願いします」


「……あの、それでですね、さっそくレリックさんにお願いがありまして」


「なんでもおっしゃってください」


「実はメイドギルドのメイド長さんと時間を取って一緒に食事をしてもらいたいのです。できれば今日も可能な限り話をしてほしいのですが」


「メイド長様と? 理由を伺ってもよろしいでしょうか?」


「ええと、メイドギルドとバトラーギルドには表向き確執はないとされていますが、ライバル的な関係ではあると思うのですね」


「確かにその通りではありますね」


「そういう状況を改善したいとメイド長さんが言っていまして、まずは多少なりとも関わりのあるレリックさんとお話をしたい――らしいんです。メイド長さんには色々とお世話になったので、なんとかしてあげたいのですが、どうでしょうか?」


 当然、それは嘘の理由だ。単にメイド長がレリックと食事をしたいだけ。だが、それを直接言うのは照れるので、メイド長自らが理由を考えたのだ。


「そういうことでしたら、こちらからもお願いしたいですね。ドラゴンが襲ってくるような状況ではギルド同士が争っているわけにもいきませんから。ならさっそく話をしてきます。ミスト様、少し外しますね」


「ええ、どうぞ。ゆっくり話をしてください。ワインの話はまた今度と言うことで」


 レリックはハヤトとミストに頭を下げると、メイド長の方へ歩いていった。


 そしてこの場には、ハヤトとミストが残される。


「あまり詮索はしませんが、本当にギルド間の確執に関する話をしたいとメイド長が言ったのですか?」


「……そういうことにしてもらえると助かりますね」


「なるほど。では、この話はこの辺で。それにしてもハヤトさんが戻ってきてくれて助かりました」


「なにか困ったことがあったんですか?」


「魔国でもドラゴンが暴れまして、私の屋敷が被害を受けたんですよ。その時に棺桶が壊れてしまいまして。またお願いしてよろしいですかね? もちろん、対価は払いますので」


 ミストの住んでいる屋敷が壊れたと言うことは何かの施設なのだろうかとハヤトは考える。ただ、どんな施設なのか想像できない。それは後で聞くとして、それよりもまずは返事だと口を開く。


「ええ、もちろん。でも、材料は持ち込みでお願いしてもいいですか? さすがに魔樹を大量に集めるのは難しいので」


 ミストは「もちろんです」と言って、病弱そうな顔で微笑んだ。


 その後はミストと健康グッズや屋敷の話をした。


 聞いたところ、ミストの屋敷は吸血鬼が集まるヴァンパイアサークルと呼ばれる施設の一つだった。不老不死を求めるサークルなのだが、最近は健康グッズの品評会になっているとのことだった。


 特に知りたい情報ではなかったが、ハヤトが作成した健康グッズの評判がいいらしい。


 ハヤトにとってはどうでもいい話と言えるが、そんな話をまたできるのがハヤトには嬉しい。


 ハヤトが喜びを感じている間に、夜がゆっくりと更けていく。だが、宴はさらに盛り上がりを見せていた。


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