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アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第四章

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半年ぶりの仮想現実

 

 ハヤトの目の前には拠点が無事に存在していた。


 ハヤトが推測した通り、破壊されるのは施設のみで民家やプレイヤーの拠点は破壊の対象外。むしろ、壊れたらクレームが発生するレベルだといってもいい。久しぶりに帰ってきた拠点ががれきじゃなくて良かったと思いながら、ハヤトは拠点を見上げた。


 半年ほど来れなかった場所だが、当時と何も変わっていない。ハヤトはその事実に嬉しくなる。今は夜なので今度はちゃんと昼間に見ようと思いながら入口へ向かう。


 ハヤトは東側にある食堂への入口に近づいた。


 扉についている小さな窓からは光が漏れている。エシャは先にログインしており、中で待っているとのことだった。


 一度だけ深呼吸をしてから扉を開けて中へ入った。


 そこにはメイド姿のエシャがいる。ハヤトを確認すると、笑顔で頭を下げた。


「おかえりなさいませ、ご主人様」


「えっと、ただいま」


 久々に見るエシャのメイド姿。服以外は現実の姿と変わらないのだが、なぜかこちらのほうがしっくりくる。


 現実でのエシャは喫茶店での仕事を無難にこなしていた。客が少ないと言うこともあったが、ネイ達を相手に普通の接客だったと言える。だが、それが逆に違和感を覚えたほどだ。


(そういえば、給料は軌道に乗ってからでいいって言われてるけど、衣食住を全部用意してあげないといけないんだよな。賞金の残りはまだあるけど、このままじゃ減る一方だ。なんとかしないと)


 そんな現実の世知辛いことを考えていたが、ふと別のことを思った。


「俺のことをまたご主人様って呼ぶの?」


「仮想現実内ではそうします。いきなりハヤトと呼び捨てにしたら、他の人達がびっくりすると思いますよ。とくにレン様が。あとそんなことしたらメイド長が怖いので」


 確かにそれはあるな、とハヤトは納得した。


「やあ、ハヤト君、こっちの世界に戻ってこれたようだね?」


「ディーテちゃん」


 入ってすぐの場所にエシャがいたため気づかなかったが、この場にはディーテもいた。椅子に座り、テーブルにあるコーヒーを飲んでいたようだ。


 そのディーテが椅子から立ち上がり、ハヤトの前に立つ。


「メールでやり取りはしていたが、改めて会えると嬉しいものだね。あの粋なセリフを言ったおかげかな?」


「そうだね。俺もこうやって直接会えるのは嬉しいよ」


「エシャ君に感謝だね。彼女がプログラマーだったおかげでハヤト君の生体認証のデータを直せたんだからね」


「そのあたりの話は聞いたよ。色々と驚きだね」


 その言葉にエシャが少しだけドヤ顔をするが、すぐに真面目な顔になる。


「そんなことはどうでもいいのでチョコパフェをください。正当な報酬だと思います」


「ものを頼むときにベルゼーブを構えるのはやめてくれる? それで何度か倒されてるから怖いんだよ。ちょっと待って。久しぶりだけど作ってみるから」


 ハヤトは倉庫へ行き、チョコレートパフェの材料をアイテムバッグに入れて戻ってきた。そしてハヤトのメインウェポンと言ってもいい「アダマンタイトの包丁・極」を取り出す。


 メニューからチョコレートパフェを選ぶと、虹色の光があふれ、最高品質のチョコレートパフェが出来た。最初の作成で最高品質なのは縁起がいいとハヤトは嬉しくなる。


「はいどうぞ」


「これを食べないと一日が終わりません。では、ディーテ様と話を続けてください。私はこれを堪能していますので」


「現実でも食べているのに、仮想現実でも食べたいの?」


「仮想現実ならいくらでも食べられますので。それに太らない」


「エシャ君、酷なことを言うようだが、この世界のキャラクターは太るぞ? きちんとカロリー計算されてそれが反映される仕組みだ」


 ハヤトはその言葉で思い出す。メイドギルドに連行されたときの主な原因がそれなのだ。


「知ってます。ですが、仮想現実なら効率的に体重を落とせるので問題ありません。現実ではそうもいかないのでメインはこっちで楽しむのです。では、これ以上邪魔をしたらデストロイなのでご注意ください」


 エシャはそう言うとチョコレートパフェを一度掲げてから食べ始めた。


 ディーテはすこし呆れた顔をしたが、すぐに笑顔になってハヤトの方を見た。


「まあ、エシャ君は放っておこう。では、話をしたいのだが、構わないかね?」


「もちろん。少しだけエシャから聞いたけど、俺の力が必要ってどういうこと?」


「まずは椅子に座ろうか……そうだね、簡単に言えば、ハヤト君の生産系スキルが必要なのだよ。事情に関してはこれから説明しよう」


 ディーテの話はこうだ。


 現在、「アナザー・フロンティア・オンライン」ではスタンピードというイベントが発生している。スタンピードとは集団暴走というような意味で、このゲーム内ではモンスターが大量に町へ押し寄せる現象を指す。


 過去にも何度か行われたイベントではあるが、今回、そのモンスターはドラゴンであり、この数ヵ月、主要な町や都市を襲っていた。


 プレイヤーは襲われている町でドラゴンを倒し、防衛することが目的となる。


 防衛には成功することも失敗することもあるが、今回のイベントは従来と違い、成功、失敗にかかわらず、町の施設が破壊されるギミックがある。


 プレイヤーが建てた拠点や民家などは破壊対象外となっているが、色々な機能がある施設は破壊の対象となっており、施設の耐久力がなくなると壊れる。


 そうなるとプレイヤーは必要な施設が使えない。


 ただ、破壊された施設を直すことができる。それには生産系スキルが必要になるのだ。


「つまり施設の修復に力を貸してほしいのだよ。施設が破壊されたままだと、ゲームが苛酷になるだけだからね。私としてはそれくらいのことになっても構わないのだが、大半のプレイヤーにとって過酷すぎるゲームは嫌だろう?」


 町の施設がないということは色々な制限がされる。


 クラン設立の申請ができなくなる、買い物ができなくなる、またテイマーはペットの預け入れができなくなる、など様々だ。


「事情は分かったけど、なんで施設が壊れるように設定されているのかな? ディーテちゃんなら壊れないように設定すればいいんじゃないの?」


 ディーテはこの仮想現実を管理しているAIだ。どのような設定が可能なのかハヤトは知らないが、色々なことができるのは知っている。ハヤト自身に空を飛べる設定をすることができるほどなら、破壊できなくするくらいの設定も可能なのではと思ったのだ。


「そうしたいのだができないのだよ。こういってはなんだが、ハヤト君のせいだと言えるだろうね」


「なんで?」


 ディーテは少し笑って右手の手のひらをハヤトに見せた。傷も何もない綺麗な手だが、言わんとしていることはハヤトにも分かった。半年前、「AI殺し」でディーテに攻撃したことは当然ハヤトも覚えている。


「ハヤト君にプログラムの一部を壊されたからね、機能が一部制限されているのだよ。今回のイベントや、私のスキル設定など色々と制限されてしまったから、そういう設定ができないのだ。もちろんできる事もあるのだが、主にイベント関連と私が操っているこのディーテのキャラ関係の設定はほぼ無理だ。さすがのエシャ君もそこまでは直すことができなくてね、自動修復を待つしかないのだが、二、三十年はかかる見込みだ」


「そうなんだ……でもさ、それを俺のせいにする? 確かにやったのは俺だけど」


「それは私のせいだという意味ですか?」


 いつの間にかチョコレートパフェを食べ終わったエシャが、ジト目でハヤトを見ている。


 たしかに「AI殺し」の製造方法を教えたのはエシャだが、ハヤトはそんな風には思っていない。


「いや、エシャじゃなくて、ディーテちゃんの自業自得――」


「やれやれ、ハヤト君は男性なのに女性の責任にする気かね?」


「ええ……?」


 ハヤトが困惑すると、ディーテはこらえかねたように笑い出した。


「いや、なるほどね、ハヤト君の困った顔や驚いた顔を見たいというエシャ君の気持ちがわかったよ。これは癖になる」


「分かってくれますか。何かこう、困ったお犬様を見る感じでゾクゾクしますよね?」


「エシャにはもうチョコレートパフェを作らない。あとディーテちゃん、俺のアイテムバッグにはたくさんのAI殺しがあるとだけ言っておくよ」


「調子に乗って本当にすみませんでした」


 エシャはすぐに頭を下げた。チョコパフェは強い。


 ディーテも笑っていたが、頭を下げる。


「それは怖い脅しだね。すまない、もちろん冗談だよ。こうなったのも全部私の責任だ。とはいえ、私にはもう自分のスキルをいじる機能がない。なので、あらゆる生産系のスキルを持つハヤト君の力を借りたいということなんだ」


「それはいいんだけど、他にも生産系スキルを持っているプレイヤーは多いと思うんだけど? それに町の復興システムってどういうものか知らないけど、俺一人じゃ無理でしょ?」


「まあ、そのあたりはおいおい説明するよ。それに今回のイベントは強硬派のドラゴンが勝つとまずいんだ。その説明をしたいが、今日はもう時間が遅いからやめておこう。ここからはハヤト君の帰還を喜びたいのだが構わないかな? 他にもあれからどんなことがあったか説明したいからね。もちろん、ハヤト君のことも聞きたい。メールでやり取りはしていたが、直接聞かせて欲しいんだ」


 ハヤトはその言葉に頷く。


 半年ぶりに戻ってきた仮想現実。今はその喜びを噛みしめよう。ハヤトはそう思いながら、日を跨ぐ時間になるまでこれまでのことを語り合った。


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