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アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第三章

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協力の要請

 

 やることは決まった。ディーテを説得する。そのために色々と準備をしなくてはならないが、それは一日では終わらないだろう。


 ハヤトはそう考えて、まずはネイに連絡を入れた。


 音声チャットの申請を送るとすぐにつながった。


「ハヤト? どうかしたのか? 今日はクラン戦争の最終日だろう?」


「ネイ、頼みがある」


「ど、どうしたいきなり。ハヤトの頼みならなんでも聞いてやるが」


「なら頼む。これから言う場所に行ってやって欲しいことがあるんだ」


「分かった。なんなのか分からないがハヤトの頼みなら聞いてやるぞ!」


「ありがとう。まずファクトリーの第四セクターにある居住スペースに行って――」


「待て待て待て! 行く場所って現実の場所か!?」


「そうだ。詳しく説明している時間が惜しいから色々と省くが、今、俺はログアウトすると二度とこのゲームへログインできない」


「……は?」


「俺はまだこのゲーム内でやらなきゃいけないことがある。ログアウトするわけにはいかないんだ」


 ネイからの返答はない。信じてもらえないのかもしれないが、ハヤトはそのまま続けた。


「ヘッドギアにはセーフティが掛かっていて、俺の体が衰弱すると強制的にログアウトする仕組みになっているらしい。それを避けたい。だから俺の体にエネルギーチューブを打ち込んで欲しいんだ」


 一日に三本打てば生きるのに十分な栄養を取れるエネルギーチューブ。それをハヤト本体へ注入して欲しい。それがハヤトの頼み。


「ネイ、こんなことを頼めるのはお前だけだ。もちろん、黒龍のメンバーも同じだけど、その中でもネイを一番信頼してる」


「ハヤト……」


「それに、ネイは地球生まれだろ? ファクトリーのスペースコロニーへ行ける第七サテライトステーションに一番近い」


「ち、違うぞ、私はセントラルみたいな都会で働くキャリアウーマンだ!」


「その嘘はもういいから。それにセントラルで働けるような奴はそもそも地球生まれなんだよ……ネイ、聞いてくれ、俺はファクトリーの出身――つまり労働階級だ。ネイは資本家階級の生まれなのかもしれないが、頼む、どうか俺の頼みを聞いてほしい」


 そもそも賞金が必要ないようだったネイはおそらく資本家階級だとハヤトは睨んでいる。それならば、ハヤトのような労働階級の頼みなど聞く必要はない。


 本来なら話すらできないほどの階級の差があるのだが、たとえそうであっても、ハヤトはネイに頼むしかなかった。


 ネイは沈黙している。


 駄目か、とハヤトが諦めた瞬間、声が聞こえてきた。


「ハヤト、何を言ってる。私達は友達だろ? 二年以上も一緒に遊んできたじゃないか。いまさら階級が違うくらいで私達の友情は変わらないぞ!」


「ネイ……」


「場所を言ってくれ。我が財団が責任を持ってハヤトの本体を保護しよう! 一週間だろうと一ヶ月だろうと手厚く保護するぞ!」


(財団って言ったか? どこのお嬢様だ……いや、だが、それならそれで助かる。体と強制ログアウトの心配をしなくていいならこちらに専念できる)


 ハヤトはネイに住所を伝え、さらにゲーム内でやって欲しいことがあるから戻ってきて欲しいとも伝えた。また、元黒龍のメンバーに連絡をしてお願いをした。


 エシャから渡された紙に書かれている武器を作るための材料を集めて欲しいというお願いだ。


 黒龍のメンバーは人が好すぎるのか、それともハヤトとの友情があったからなのか、特に何も言わずにハヤトの頼みを聞いた。すぐに集めると言ってそれぞれが行動してくれたのだ。


(皆には感謝してもしきれないな。オフ会をするって話もあったし、俺が全額おごらないとな。それだけじゃ足りないけど)


 ハヤトは皆に心の中でもう一度だけ感謝をしてから、今度はメイドギルドへ向かうことにした。




 王都にあるメイドギルド。いつも通りではあるが、クラン戦争中ということもあり、プレイヤーの数は少ない。ほとんどがNPCだった。


(エシャはメイド長と戦っていたはずだ。だが、エシャは俺を助けに来てくれた。どういう状況で来れたのかは分からないけど、少なくともエシャは勝ったんだよな? クラン戦争が終わっていればメイド長がいるはずなんだが)


 ハヤトはそう思いながら、喫茶店の中へ入る。


 そしてウェイトレスをしているメイドに話を聞いた。ハヤトの予想どおりメイド長はすでに戻っているようだ。


 ハヤトは会いたい旨を伝えると、そのウェイトレスに連れられて、メイド長のいる執務室へ通された。


 メイド長は椅子に座ったまま、笑顔でハヤトを出迎えた。


「いらっしゃいませ、ハヤト様。今日のクラン戦争はお疲れさまでした」


 ずいぶんとメイド長の機嫌が良いことに少々不安を覚えるが、ハヤトは話を切り出した。


「メイド長さん、俺はメイドギルドにとって救世主なんですよね?」


「とうとうお認めになりましたか――分かりました、エシャを差し上げます」


「いや、そうじゃなくて」


「いいのです。分かっております。今日のエシャは大変真面目でしたからね。何事かと思いましたが、そういうことでしたか」


 ハヤトはメイド長が何を言っているのか分かっていない。そもそもエシャが真面目だったと言うのはどういう意味なのだろうか。


「えっと、何の話をされているのですか?」


「エシャを引き取るというお話ですよね? 今日、クラン戦争中にエシャが言っておりました。ご主人様のところへ行くので、見逃してほしいと。もちろん許可しましたとも」


 それは意味が違う。ハヤトはそう思ったが、そのままにした。説明している時間が惜しいのだ。


「えっと、それは後で話をするとして、実はお願いがあってきました」


「なんでしょうか? 結婚式場なら手配しますが」


「そうじゃありません。噂を流してほしいのです」


「噂とは?」


「魔王城でイベントがあるとありとあらゆる場所でそういう噂を流してほしいのです。メイドさんなら世界中にいる。その皆さんが噂を流せば、だれもが魔王城へ行くでしょうからね」


 ディーテは魔王城の奥にある場所にいる。だが、魔王城は凶悪なモンスターの巣窟であり、ハヤトと黒龍のメンバーだけで行くのは不可能だ。かといって、ハヤトが他に頼めるプレイヤーは黒龍以外にはない。


 ならば、と思いついたのが、魔王城でイベントが発生したという嘘の情報を流すことだ。そうすれば、大量のプレイヤーがその場所へ行くのは間違いない。その団体に紛れて魔王城の奥へ行くという作戦だ。


 そしてその嘘の情報を流すのに最適なのは、メイドギルドのメイド達。そう考えてハヤトはここまで来たのだ。


「ハヤト様? それは本当にある話なのですか?」


「いえ、嘘の噂です」


「それはさすがにできません。それが嘘だと分かったらメイドギルドが批判されてしまいます」


「そこを何とかお願いします。そうだ、俺を主犯にしてメイドギルドは騙されたという形にしてください、それなら――」


「騙された、という時点でメイドギルドの評判が落ちてしまうのですよ。そもそも、なぜ魔王城でイベントが発生したという嘘を吐くのですか?」


 ハヤトはメイド長に事情を話して良いものか迷った。


 そもそもメイド長が神――ディーテの側である可能性もあるのだ。本当のことを言ってディーテに情報を流されてしまっては困る。いまさら魔王城のモンスターを強くするなどという嫌がらせはしないと思うが、極力こちらの行動は知られたくない。


 メイド長はそんなハヤトの気持ちを察したのか、笑顔で頷いた。


「なにか言えない事情があるのですね? そしてそれにはエシャが絡んでいると見ましたが、どうでしょうか?」


「どうして――」


「メイドの勘、でしょうか。ハヤト様は先ほどからとても焦っているように見えます。それはエシャが関係しているからだと思っただけです」


 間違ってはいない。確かに焦っているし、エシャ絡みだ。ただ、メイド長の目を見ると、なにか生暖かい感じがした。なにかとてつもない勘違いをしているような気もする。


 ハヤトはどうしたものかと考えたが、迷っていても仕方がないと頷いた。


「その通りです。詳しくは言えませんが、どうしても魔王城でイベントがあるように仕向けて欲しいのです」


「……分かりました。そういうことでしたら、メイドギルド主催のイベントを行いましょう。なにか賞品を出すことで本当のイベントにしてしまうのです」


 運営ではなく、プレイヤーが主催するイベントというのは他のオンラインゲームでもよく見かける行為だ。今回はNPCが主催だが、それほど違いはない。


 ハヤトはそれなら魔王城にプレイヤーが集まるだろうと喜んだ。


「ありがとうございます!」


「お待ちください。ただ、やるなら別の問題を解決しなくてはいけません」


 喜んで頭を下げるハヤトをメイド長が止める。


「イベントの賞品、これをメイドギルドで用意することが難しいのです。生産スキルを極めているハヤト様なら何かお持ちでないですか? できれば、食べ物や武具ではなく、もっと記念品になるようなものが良いのですが」


「記念品、ですか――記念になるかどうかは分かりませんが、魔王のサイン色紙があるのですが、これならどうでしょうか?」


 魔王ルナリアのサイン。捨てられない属性を持つアイテムだが譲渡は可能だ。


「ずいぶんとレアなアイテムをお持ちですね。これなら魔国にいる人達が間違いなく欲しがるでしょう」


(そうかプレイヤーじゃなくて、NPCでもいいのか……よく考えたらプレイヤーは別に欲しくないよな、これ)


 メイド長はハヤトからルナリアのサイン色紙を受け取ってから頷いた。


「分かりました。これを賞品としてイベントを開催しましょう。では、どんな形式のイベントにしますか?」


「どんな形式とは?」


「イベントには色々と種類があります。モンスターを倒すというのが一番よくある形でしょう。もしくはモンスターが落とすアイテムを集めるなどですね」


「でしたら、落とすアイテムを集める形でお願いします。できれば、魔王城だけで落とすアイテム、そして幅広いモンスターを倒す形にしたいのですが、そんな都合のいいアイテムはありますか?」


 ハヤトの目的は魔王城の安全確保だ。特定のモンスターだけ倒されて、他のモンスターが放置されるようでは意味がない。


「となると、デーモンホーンあたりでしょう。魔王城は悪魔系のモンスターが大半ですので、それを最も多く集めた方に魔王ルナリア様のサイン色紙を差し上げるということで調整します。期間はどれくらいにしますか?」


「三日でお願いします」


「承知しました。すぐにそういう告知を出しますので」


「よろしくお願いします」


 これで準備の一つが整った。そう思ったところでメイド長に止められた。


「ハヤト様、今回のこれは、私への貸し、だと思いますが、いかがでしょうか?」


「え、ええ、そうですね。感謝しています」


「感謝は不要ですが、褒美は必要です。はしたないメイドだとお笑いください」


「褒美?」


「素敵な男性と二人きりでお食事でもしたいな、と」


「……うちのクランに素敵な執事がいるのですが、どうでしょう?」


「さすがは救世主様。素晴らしい洞察力です」


(それで分からない奴の方がどうかしてる。レリックさんには悪いけど、後で頭を下げよう……というか、エシャ以外の皆はどうなったんだ? それも確認しておかないとな)


 その後、細々としたことはメイド長に任せて、ハヤトは施設を出た。


 それから三十分後、ゲーム内の全世界に向けてクラン戦争終了記念イベントが開催されるとメイドギルドから周知された。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 最終章であるかのような展開。 この続きがまだまだあるのだから、作者様の想像力ってスゴイわ!
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