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アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第三章

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勇者対魔王

 

 確かに誓約書は拠点内で争わないという内容だが、拠点のすぐそばで戦われるのは困る。拠点が破壊されるようなことはないだろうが、それでなくともルナリアの側近達が大勢いて拠点での商売に影響が出ているのだ。


 ハヤトは戦うなら別の場所でと言おうとした瞬間、そばにいたゴスロリ女性が巨大な黒い鎌を持ってイヴァンに飛びかかった。


「ルナリア様と戦うなんて百年早いんだよ!」


 あまりにも口調が変わったゴスロリ女性を見てハヤトは驚く。


「わりぃが、そっくりそのまま返すぜ。俺の相手をするにはアンタじゃ力不足だ」


 イヴァンはそう言うと、ゴスロリ女性の鎌をエクスカリバーで受け流す。


 そして体勢を崩したゴスロリ女性に目にも止まらぬ連続攻撃を仕掛けた。剣の残像が白い閃光となってゴスロリ女性を襲う。エクスカリバーのウェポンスキル、ホワイトライトニングだ。


 それを食らったゴスロリ女性は瀕死の状態になった。HPバーがミリ単位だ。血が出ることもなく、痛みもないだろうが、見ていて気持ちのいいものではない。


 ハヤトはすぐにゴスロリ女性に近づいて、イヴァンの前に立ち塞がる。


「ここで戦うのもなしだ。誓約書には書いていないが、それくらいはわきまえてくれ」


「……まあ、ハヤトには迷惑を掛けちまってるからな、分かったよ。それなら――」


「待って」


 ルナリアが前に出てきた。拘束されたまま、キリッとした顔になる。


「ハヤトさん。ここでイヴァンと戦わせてほしい」


「え? 嫌だけど」


 その言葉にルナリアは少しだけ涙目になる。


「こ、ここでイヴァンと戦わせてほしい」


「えっと、なんで?」


「私の側近を攻撃しておいてこのまま勇者を見逃すことは魔王としてできない――ううん、友人を傷つけたことが許せない。それに私が勇者と戦わないからハヤトさん達にも迷惑をかけた。この場で因縁を断ち切る」


 ルナリアの言葉に周囲の側近達は感嘆の声を上げる。当事者のゴスロリ女性などは、友達と言われ嬉しかったのか、頬を赤くして感動している感じだ。


 ハヤトとしては、他でやってくれとしか言えないのだが、いつまでも勇者と魔王に振り回されるのも嫌なので、渋々ながらも許可を出した。


 念のためアッシュ達に連絡して来てもらった。何かあった時の抑えだ。


 そしてルナリアがイヴァンに剣先を向ける。拘束はさっき解いてもらっていたので、今、ルナリアは自由だ。


(宝物庫から盗んだ件をうやむやにするという理由じゃないよな……?)


「私が逃げていたせいで、多くの人に迷惑をかけた。来て、勇者。決着をつける」


「いいねぇ、いつもの自信なさげな感じのルナリアも好きだが、そうやって凛々しい感じも悪くないな。そうそう、先に言っておくが、俺が勝ったら話を聞いてもらうぜ?」


 イヴァンも剣先をルナリアに向けた。


「ご主人様はどっちに賭けますか? 私はルナリア様にプリン一個賭けますけど。賭けに勝ったらバケツプリンをください」


「賭けたアイテムに差があり過ぎじゃない?」


「俺は勇者の方が強いと思うが、どうだろうな?」


「兄さんは勇者の方なんだ? なら私はルナリアさんの方にしようかな。私もバケツプリンでお願いします!」


「君達はもう少し緊張感を持ってね。あの二人が拠点の方へ向かってきたら止めてよ?」


 さすがに拠点を破壊するような攻撃はないと思うが、戦うのは勇者と魔王なのだ。何が起きてもおかしくはない。


 そして勇者と魔王の戦いが始まる。


 勇者と魔王の装備はほぼ同じ。性能はともかく、どちらも鎧を着て、片手剣を振るう。盾は持っておらず、片手剣を両手で持つような感じだ。


 ただ、この戦いに関してなら防具は全く関係ないだろう。


 ルナリアが持つ剣はアロンダイト、そしてイヴァンが持つ剣はエクスカリバー。お互いに防御力無視の攻撃を繰り出すので、防具に意味がない。つまり攻撃が何回か当たったら負ける。そういう戦いなのだ。


 このゲームにおける戦いは、本人の身体能力がものを言う。武器から繰り出されるウェポンスキルは特別な効果とダメージが加算されるだけで、命中率が上がるということはない。攻撃を当てるのも躱すのも本人次第なのだ。


(まあ、どっちもNPCだし、身体能力というよりも演算能力の戦いなのかな……どっちが勝ってもいいからとっとと終わってくれ)


 イヴァンとルナリアの剣がお互いにぶつかり弾かれる。どちらもクリーンヒットはない。無傷のまま時間が流れた。


(ルナリアは高スピードで相手を撹乱しながらの攻撃か。イヴァンはほとんどその場を動かずにどっしり構えてルナリアの剣を弾いている――でも、このままならルナリアの勝ちかな)


 ハヤトがそう考える理由。それは武器の耐久力だ。


 お互いの攻撃を剣で受けているため、どちらも耐久力が落ちるのだ。そしてルナリアが持っているアロンダイトはハヤトが一週間前に作り直したばかりの新品と言ってもいい。


 イヴァンの持つエクスカリバーがどうなのか知らないが、一週間前にエシャやアッシュの攻撃を受けて耐久力が減っている。この一週間は謝罪のためにここへ訪れていたので、武器の耐久力は減ったままだと思ったのだ。このまま続けばどうなるか、ハヤトはその未来が予想できた。


 そしてその予想は見事に再現される。


 アロンダイトがエクスカリバーを折ったのだ。


「マジかよ!」


「終わり」


 ルナリアの剣撃が残像を残す動きになり、黒い閃光となる。その閃光がイヴァンを襲った。エクスカリバーのホワイトライトニングと対をなす、黒い刀身の魔剣アロンダイトのウェポンスキル、ブラックスワンだ。


 折れた剣では攻撃を受けることができず、イヴァンはなすすべもなく攻撃を受けて地面に倒れた。


 次の瞬間、ルナリアの側近達から歓声が上がる。


(魔王が勝っていいんだよな? 普通は勇者が勝つもんだけど)


 勝利したルナリアは剣を鞘に納めると、なぜかハヤトの前までやってきた。


「ありがとう、ハヤト。貴方がこの剣を作り直してくれたおかげで勝てた」


「勇者に恨まれるから、そういうことは言わないで」


 倒れたイヴァンの方へ視線をむけると、なぜか上空から光が当たり、羽が落ちてきた。


 その羽がイヴァンに当たると何事もなかったように立ち上がる。どう考えてもその場で復活した。


 この場で神聖魔法の蘇生は誰も使っていない。ハヤトは何が起きたのか分からずに混乱していると、エシャが教えてくれた。


「おそらく不死鳥の羽を持っていたのでしょう。自動的に復活するアイテムです」


「そんなアイテムがあるのを初めて知ったよ」


 イヴァンは立ち上がり、大きく溜息をついた。だが、直後に笑顔になる。


「負けちまったか。まさかエクスカリバーが折れちまうとはな」


「たまたま最近剣を直しただけ。運が良かった。ハヤトのおかげ」


「なら、俺は運が悪かったってことか。ハヤトのせいだな」


(俺を巻き込まないでくれ)


 そんなふうに思っているハヤトをよそに、ルナリアがイヴァンの前に立った。


「私になにか言いたいことがあるの? 勝ったらって言ってたけど、今なら聞く」


「そうか? 負けちまったからちょっと格好悪いんだが、それなら言わせてもらうぜ!」


 イヴァンは大きく息を吸ってから、真面目な顔になった。


「俺と付き合ってくれ!」


「嫌」


 その間、コンマ二秒。勇者の恋は終わりを告げた。だが、イヴァンはそれを悲しむ様子はない。


「そりゃそうだな、弱い男になびく奴はいないか」


「それは関係ない。暑苦しいのが嫌」


「それは死体蹴りだぞ。まあ、俺としても上手く行くとは思ってなかったよ。ただ、ケジメをつけたかっただけだ……強がっているように聞こえるか?」


「そうは思わない。イヴァンには私よりもふさわしい人がどこかにいると思う」


「ありがとよ。生きる希望が湧いて来たぜ。ええと、ハヤト、ちょっといいか?」


 イヴァンはルナリアからハヤトの方へ視線を移す。


「……なにかな?」


「嫌そうな顔するなよ。その、悪かったな、色々巻き込んじまって。それに拠点で暴れたことも」


「その謝罪やお詫びはもう受けてるから、気にしないでくれ。ルナリアさんの方もね」


 二人ともハヤトのその言葉に笑顔になる。そしてギャラリーの拍手の中、勇者と魔王が握手をして解散となった。


(お前ら本当は仲がいいんだろ?)


 勇者と魔王がどういう関係なのかは分からないまま、いい感じに終わったことにハヤトは疑問を抱きながらも、これでこのイベントは終わりだな、と胸を撫でおろした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 勇者は戦闘挟まないとプロポーズすらできないのかヘタレチキンめ そういえば主人公の最高傑作エクスカリバーレプリカだったなぁ……
[気になる点] 次回、エクスカリバーをなおす
[一言] 次回!勇者「エクスカリバー治して!」
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