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アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第二章

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クラン管理委員会と吸血鬼

 

 うつ伏せに倒れたハヤトは仰向けになりながら自分の足を見る。


 何かに躓いたというよりも、明らかに足首を掴まれたという感触だからだ。そしてそれは正確だった。灰の中から手がでており、ハヤトの足首を掴んでいたのだ。


「なんだ!? 手!? モンスター!?」


 ハヤトは混乱する。先に聞こえた声といい、この灰は何かおかしいということは理解しているのだが、気が動転して考えがまとまらなかった。


 直後、ハヤトの背後で拠点の入口にある扉が開く。


「うるさいです。おやつ時間を邪魔する奴は誰であろうとデストロ――何をされているんですか、ご主人様。そういえば、拠点のトレードでネイさんのところへ行ったんですよね? 拠点の所有者が変わらないのですが、何か問題でもありましたか?」


「それ以前に俺の足に問題があるよね?」


 まったく慌てないエシャの言葉で冷静さを取り戻したハヤトはエシャに足元を見るように促す。エシャは灰から手が出てハヤトの足首を掴んでいるのを確認すると少しだけ嫌そうな顔をした。


「倒しきれませんでしたか。それじゃもう一発撃っておきましょう」


 エシャはそう言って、銃を取り出した。そして灰から出てきた手に狙いをつける。


「その状態だと俺の足にも当たるよね? だいたい、これが何なのか知ってるの?」


「ええ、吸血鬼の成れの果てですね。さっき、ここを訪ねてきたので、銃をぶっぱなしました。どうせ拠点は移るし、灰はそのままでいいかなと放置しておいたのですが」


 吸血鬼。ヴァンパイアと呼ばれる人の生き血を吸う人型のモンスターだ。普通の人間よりも強いのだが、弱点も多く、状況によって脅威が変わるので、狩ったり狩られたりしている。


「ま、待ってくれ。自分はモンスターじゃないです。クラン管理委員会の者なので助けてください」


「モンスターはみんなそう言うんです」


「いや、よく考えたらモンスターはしゃべらないから。ちゃんと話を聞いてみよう」


 エシャはちょっとだけ嫌そうな顔をしたが、銃口を灰の手からどかした。ハヤトはそれを確認してから、灰に向かって話しかける。


「えっと、クラン管理委員会の人なのですか?」


 クラン管理委員会についてはハヤトも良くは知らない。クランを運営している組織から選任されたメンバーで構成されているとのことは聞いているが、具体的な活動内容はあまり知られていないのだ。


「ここはクラン『ダイダロス』の拠点で間違いないですよね?」


「ええ、そうですけど、何か御用ですか?」


「ご主人様。地面から生えた手に話しかけているのは、とてもシュールです。面倒なので灰を拠点に入れてしまいましょう。太陽が当たらない場所でトマトジュースでも振りかければ復活しますので」


「吸血鬼がトマトジュース好きってネタは古典すぎない? でも、それでいいならやってみよう。エシャ、ホウキとチリトリを持って来てくれる? 灰を集めるから」


「場所を知らないのですが、どこにありますか?」


「……メイドだよね?」


「掃除をしないメイドってギャップ萌えだと思いませんか?」


「マイナス方向へのギャップは萌えないと思うよ……それはともかく、ホウキとチリトリは階段横の物置にあるから持って来てくれる? あと、灰を入れる箱もお願い」


 ハヤトはエシャが持ってきたホウキとチリトリで灰をかき集め、それを箱に入れた。その箱を拠点の中へ運び、トマトジュースを振りかける。


 本当にこれでいいのかと疑問に思ったのもつかの間、灰がみるみるうちに人型になり、そこに貴族風の服を着た男性が現れた。


「いやぁ、助かりました。最後の力を振り絞って足を掴んでよかったです。あのままだったら夜になるまで復活できませんでしたからね」


 見た目とは裏腹に軽いノリの吸血鬼。顔の血色が悪く、コームオーバーの髪の毛も真っ白ではあるが、二十代前半くらいの男性だ。


「まず、ご挨拶を。ミスト・アーガイルと申します。先ほども言いましたが、クラン管理委員会の者です。吸血鬼ではありますが、魔法の力で死を超越しただけなのでモンスターではなく人間ですよ。なので日光やニンニク、十字架には弱いですが、頑張れば耐えられます」


(吸血鬼なのに人間なのか……魔法で死を超越したということは、死霊魔法のあれか。たしかアンデッドになる魔法があった気がする)


 死霊魔法とはゾンビやスケルトンなどのアンデッドを使役する魔法だが、そのスキルを100にすると自らがアンデッドになれる魔法が使えるようになる。


 ただし、その場合、特定の方法でしか人間に戻れない。神聖魔法がスキル100で使える解呪の魔法でのみ元に戻れるのだ。


 なお、死霊魔法と神聖魔法は相反する魔法として両方を覚えることは出来ない。人間に戻るには別のプレイヤーにお願いするしかないのだ。ちなみに、NPCの教会へ行くと有無を言わさず浄化してくる。


「えっと、そのミストさんがここに何の用? というか、なんで灰に?」


「灰になったのは、そちらのエシャさんに撃たれたのです。至近距離で三発もクリティカルショットってひどくないですか?」


「ご主人様、そんな目で見る前に私の言い分を聞いてください。誰かが来たと思ったら吸血鬼だった。なら銃で撃つのは正しい対処です。何も間違ったことはしておりません。最近ストレスが溜まっていたので、その解消のために話も聞かずに撃ったとも言えますが些細なことです。そしてかなりスッキリしたと報告させていただきます」


 そのストレスの原因を聞くわけにはいかないと話を進めることにした。とくにミストという男性が怒っているという訳でもないので、なかったことにしようとハヤトは考える。


「灰だった事情は分かりました。それで一体どういう御用でしょう? っと、その前にそちらの椅子にお座りください」


 ハヤトはミストに座るよう促した。そしてテーブルにコーヒーを置く。


 応接室という部屋はないが、入口から入ったすぐの部屋は食堂を模した場所となっている。入口から最も手前にある椅子に座ってもらい、ハヤトは長机を挟んでその正面に座った。エシャに関しては特に座るわけでもなく、ハヤトの右後ろに立っている。


 椅子に座ったミストは少しだけ周囲を見渡してから「ほう」といい、笑顔になってハヤトのほうを見た。だが、すぐに真面目な顔になる。


「ではさっそく話をさせてもらいますが、あるクランから貴方達がクラン戦争で変なことをしたとの通報がありまして、それを調べにきました」


 ハヤトは心の中で「来たか」とつぶやく。


 昨日、ログアウト後、運営にエシャのデストロイに関してメールを送った。あの攻撃力はバグじゃないのか、使ってしまったが問題ないのか、という内容だ。一応、レンのドラゴンカースについても問い合わせをしている。あれがないとそもそも剣を奪い返せなかったので、ダメと言われても困るのだが、それでも念のために確認した。


 翌朝、その件に関する返答のメールが届くが、以前と同じ文面だった。


「ゲーム内で可能な行為は本人の責任においてすべて許容されます」


 つまり、バグではない。バランス調整に失敗しているわけでもなく、それが仕様なのだ。だが、仕様とは言ってもこのゲームの場合、使っていいかどうかはまた別問題。ゲーム内のルールで問題扱いされる可能性はあるのだ。


 このミストと言う男性が来たのはその調査だとハヤトは考えた。


「変な事とは具体的にどんなことでしょうか?」


「通報してきたクランはハヤトさんが昨日戦った『殲滅の女神』です。なんでも、重装備の戦士を砦からの攻撃で倒されたとか。さらにはその戦士が守っていた魔法使いも倒すほどの威力だったと聞いております。なにか不正な行為があったのでは、との訴えですね」


 ハヤトはエシャのほうを見る。だが、エシャは特に気にする様子でもなくすまし顔で立っていた。自分から言うつもりはない、という態度が見て取れたのでハヤトは自分からミストへ説明することにした。


「あれはエシャのデストロイというウェポンスキルです。相手クランは不正と言ったようですが、何も変なことはしていませんよ。それに威力だけでいえば、メテオスウォームと大差ないと思いますが?」


 まずは変なことはしていないと回答をする。そして他の魔法との比較することで問題はないというアピールをした。発動時間やクールタイムに違いはあるが、お互い似たようなもの、というイメージを与えるためだ。


 だが、そんなことをせずともミストは普通に納得した。


「ああ、エシャさんのデストロイですか。それなら致し方ないですね。相手は初めて見た攻撃なので不正と言ったのでしょう」


 ミストのデストロイを知っている口ぶり。エシャの名前が有名なのは前回優勝クランのメンバーだったからだろうが、その技まで有名なのだろうかとハヤトは考える。


「もしかしてミストさんもデストロイという技をご存じなのですか?」


「ええ、それはまあ。かなり有名ですから」


 ハヤトは念のため確認しておこうと考えた。特にゲーム内で不正でなければ、これからはどんどん使ってもらうつもりだからだ。だが、念のためになぜ有名なのかは知っておく必要がある。


 ハヤトは笑顔でミストを見た。


「恥ずかしながら自分は知らなかったんですよね。クラン戦争で使われたときは驚いてしまったのですよ。そんなに有名なのですか?」


 ミストはハヤトの右後ろにいるエシャをチラッと見てから、ハヤトのほうへ視線を移した。ハヤトの方からはエシャが見えないが、ミストがエシャに言ってもいいかどうかの視線を送ったのだろうと予測する。


 そしてミストは少しだけ笑ってから口を開いた。


「前回のクラン戦争はトーナメント方式だったのですが、その決勝でエシャさんがデストロイを使ったのですよ」


「ああ、そういうことですか。実は前回のクラン戦争のことを何も知らないのです。その時は結構驚かれたのですか?」


「すごかったんですよ。決勝は勇者の率いるクランと魔王の率いるクランの戦いだったのですが、お互い未覚醒の状態で普通に戦っていたんです。ですが、戦いの最中、お互いが記憶を取り戻した感じになりましてね」


(ネイに話を聞いておいて良かった。今初めて聞いたら驚きで話が頭に入ってこないところだ……あれ? でも、ちょっと話が脱線してないか? 勇者と魔王の話になってるぞ? それがすごいってだけの話か?)


 ハヤトが不思議に思っているのには気づかず、ミストは話を続けた。


「お互いがそれぞれ勇者と魔王を自覚して口上を述べている時に、エシャさんは二人まとめてデストロイで倒しましたからね。驚きましたよ」


 ハヤトも驚いた。というよりも呆れた。


「そんなことしたの?」


 少しだけ咎めるようなハヤトの言葉ではあったが、エシャはなぜか自慢げだ。


「戦いの最中に話なんかしているのが悪いのです。勇者とか魔王とか私には関係ないので、邪魔だから二人とも消えてもらいました。勇者も魔王を道連れにしたのですから本望でしょう。肉を切って骨も断つというやつです」


「初めて聞く言葉だね」


「まあ、それでエシャさんの名前は有名になりましたね。勇者と魔王を倒した初めての人間だ、と」


「照れます」


「褒めてるかな?」


「おっと、その話はどうでもいいですね。まあ、そんなわけで、エシャさんのデストロイなら当然の結果でしょう。クラン管理委員会には問題なしと伝えておきますよ。むしろ、通報をしてきたクランのほうが前々回の戦いで工作員と取引をしたという話がありますからね。どちらかといえば、そちらの方が問題でしょう」


 ハヤトはミストの言葉に胸を撫でおろす。


 委員会のお墨付きならこれからも利用が可能だからだ。現在のプレイヤーには誰にも真似が出来ない行為なので、ばれたらやっかみを受けそうだが、勝つためにこれからもバンバン使ってもらおうとハヤトは考えた。


「ところでハヤトさん、クラン名の『ダイダロス』とはどういう意味なのですか?」


「え?」


 安心したところへの急な話の振りにハヤトは一瞬何を聞かれているのか分からなかった。


「ああ、突然すみません。仕事が終りましたので、ちょっと雑談でもと思ったのですが。この質問は委員会とは全く関係ありませんよ」


「そうですか。えっと――」


 答えようとしたが、ハヤトは言葉を詰まらせる。


 ダイダロスとはゲームの外、つまり現実に存在する神話に出てくる職人の名前だ。その名前を使っているのだが、それをNPC相手にどう説明していいのか分からなかったのだ。


 ハヤトがどう説明するべきかと考えていたら、エシャが口を開いた。


「大昔の神話に出てくる職人の名前ですよ。ミノタウロスを閉じ込めた迷宮を作った職人の名前と言えばわかりますか?」


「ああ、なるほど。なんとなく聞いた覚えがあったのですが……でも、なるほど。職人ですか」


(なんで分かる? このゲームにも現実の神話の情報があるってことか……?)


 ハヤトは不思議に思ったが、よく考えたら、マンガ肉やバケツプリン、さらには銃があるような世界なのだ。色々な情報がゲームの中に存在しているのだろうと考えを改める。


「職人というのはハヤトさんのことですよね? 少しだけクランとメンバーのことを調べさせてもらいましたが、ハヤトさんは生産系スキルだけでスキルを構成しているとか。だから職人の名前であるダイダロスというクラン名にしたと?」


「まあ、そうですね」


 ハヤトは自分が生産系を極めた職人だと自称しているので、それにあやかった名前を付けたのだ。あと、語呂がいいという程度の理由だ。


「ハヤトさん。木工スキルも100あるということでしょうか?」


 木工スキル。それは木材を使って色々な物を作り出すスキルだ。主に家具を作れるのだが、他にも木製の弓や矢、ウッドシールドなどの装備品を作成することが出来る。だが、木製の装備は金属製の装備よりも性能が悪いため、木工スキルを取るなら鍛冶スキルを取るプレイヤーが大半だ。


 そんな人気のないスキルではあるが、当然ハヤトは木工スキルを持っている。


「木工スキルも100ありますよ」


「やっぱり。もしかしてこの拠点にある家具はすべてハヤトさんが?」


「ええ。全て自分が作りました」


「素晴らしい! もしかしてすべての家具を最高品質でそろえているのですか? なかなか出来るものではありませんよ。実は椅子に座った後にそれらに気づきまして、内心驚いていたのです」


 素晴らしいとミストに褒められて、ハヤトは満更でもなかった。


 家具に特別な効果はない。拠点に置いてあったとしても戦いが有利になるわけでも、ステータスが向上するわけでもない。一応、罠を仕掛けることで開けると特別な効果を発揮する箱なども作れるが、ダメージは微々たるものだ。しかも箱を開けたところで中にあるアイテムが取れるという訳でもないので、プレイヤーは箱を開ける理由がない。使うとしたら、クランメンバーへのイタズラくらいだろう。


 そんな理由から木工スキルはあくまでも趣味のスキルというのがプレイヤー達の共通認識だ。効率を目指すプレイヤーなら完全に捨てるスキル。さらに家具は品質を上げても何の意味もない。品質が上がっても家具の形が変わるわけでもなく、アイテムの情報として品質が星いくつ、というのが付くだけだ。


 そんな状況にもかかわらず、拠点に置いてある家具はすべて星五。ハヤトが無駄にこだわった結果だった。


 それを褒められてハヤトは嬉しくなる。


「ミストさんは分かってくれますか。確かに内装にこだわったところで意味があるわけじゃないんですけど、それくらいの心の余裕は欲しいですよね」


「ええ、分かります。この拠点にある家具は配置もいいですね」


「私にはいまいち分かりかねますね。正直なところ、机や椅子なんてダンボールやミカン箱でも問題ありませんよ」


「エシャとは永遠に分かり合えないって思ったよ……」


「まあまあ。それでハヤトさん。実はハヤトさんを職人と見込んでお願いしたいことがありまして」


 職人と言われてハヤトはさらに嬉しくなる。自分でもちょろいと思いつつも、すでにお願いを聞く気マンマンだった。


「なんでしょうか? 自分にできる事ならやりますよ。もちろん対価は頂きますが」


「もちろんです。実は棺桶を作ってもらいたいのです。星五で」


「……棺桶? 亡くなった人を埋葬するときに使う棺桶ですか? 確か遥か昔に使われていたと聞いた気がしますが」


「ええ、寝具として使っていた棺桶が壊れてしまいまして。棺桶が変わってからよく眠れないんですよ。以前は星四の棺桶だったのですが、最近は品質の高い棺桶がなくて。それに品質の悪い棺桶だと肩こりが酷くなるので大変なんですよね」


「……ベッドで寝ればいいのでは?」


「いやぁ、吸血鬼なので棺桶のほうが落ち着くんですよね。どうでしょう? 木材はこちらで用意しますので、ぜひ作ってもらえませんか?」


「……えっと、作り方を知らないので」


「ああ、それなら大丈夫です。材料をお教えしますね」


(知りたくない)


 ハヤトはそう思いつつも、ミストから紙を受け取る。それを読んでから木工スキルを使えるノコギリを取り出して使用すると、制作メニューに棺桶が追加されていることを確認できた。


「どうでしょうか? 作れるようになったと思うのですが」


「不本意ながら作れますね」


「ならお願いします! 最近睡眠不足で体調が悪いんですよ!」


「体調が悪いどころかアンデッドですよね?」


「アンデッドなのに体調が悪い……これはギャップ萌えですね。勉強になります」


「微塵も萌えないけどね」


 そんなことを言いながらも、ハヤトは思案する。


 取引が出来るならクランのメンバーにすることも可能だからだ。次の相手はまだ決まっていないので、対策のための人材というよりは単純に強いメンバーを迎えたいとの思いがあった。これから相手にするのはAランクでもさらに上位のクランとなる。戦力は少しでも増やしておきたいのだ。


 アッシュ率いる団員達も強いのだが、彼らは特別な力は持っていない。エシャやアッシュのように何かしら強力な力を持っているNPCだと戦いに幅が出そうなので、そういった特別なNPCをクランに入れたいとハヤトは考えている。以前、アッシュが言ったように、連携や何やらの問題はあるだろうが、クラン戦争までは一ヶ月近くある。それまでアッシュ達と共に調整してもらえばいいだけの話だ。


 ハヤトは目の前のミストを見る。


(それはそれとして根本的な問題があるよな。ミストさんはクラン管理委員会に所属している。そもそもクラン戦争に参加してもらうことは可能なのだろうか? まずはそこからか。それに強さも分からない。アンデッドになっているから死霊魔法がスキル100なのは分かるんだけど、それ以外のスキル構成が強いのかどうかは何とも言えない……ここは普通に聞くか)


「ミストさん、ちょっと聞きたいんですけど」


「なんでしょう? 身長でしたら180なのでその大きさで作ってもらえれば。あと、バロック調の棺桶にしてください」


「いや、そうじゃなくて、実はうちのクランは強い人を募集してるんですよね。もし、ミストさんが強くて、うちのクランに入れるようならそれと交換条件にしたいかな、と。クラン管理委員会に所属しているようですが、うちのクランに入ることは可能ですか?」


 ミストは「ふむ」と言って考え込んでしまった。何を考えこんでいるのかハヤトには分からなかったが、色々とあるのだろうと答えを待つ。そんな状況で口を開いたのはエシャだ。


「ご主人様、もしかして吸血鬼をクランに入れる気ですか? 若い女性の生き血を吸う吸血鬼ですよ? かわいくてひ弱な私がクランにいるのですから危険じゃありませんか?」


「ひ弱ってところに全く共感できないんだけど? それにさっき返り討ちにしたんだよね?」


「つまり、かわいいは同意、と」


「そういう罠を張るの、やめてくれる?」


 そんな話をしながらハヤトはふと思う。


 エシャの機嫌が良くなっていることに気づいたからだ。少なくともこの拠点を出たときのエシャは明らかに機嫌が悪かった。もしかするとミストに銃をぶっ放したことで多少は気が晴れたのかなと考え、目の前の吸血鬼に感謝した。


 そのミストは視線を下に向けて考え込んでいたが、ハヤトのほうへ顔を向ける。


「クラン管理委員会のメンバーがクラン戦争に参加するのは許可されていません」


「そうですか……それは残念です」


「ですが、委員会を辞めればいいだけの話です。私がクランへ加入したら、棺桶を作ってくれるのですね?」


「その前にミストさんが強ければ、ですけどね。というか、棺桶のために委員会を辞めるんですか?」


「実は健康オタクなので棺桶にはこだわりたいのですよ。星五ならその価値はあります」


「健康オタクな吸血鬼……これが本物のギャップ萌え……!」


「そういうのはもういいから」


 ハヤトがそう言うと、エシャが「冗談はさておき」と言いだした。


「ミスト様と戦ったことはありませんが、間違いなくお強いですよ。不死十傑の一人というか、そこのメンバーをまとめていたリーダーですから。そして、そのミスト様を倒した私は――ご主人様ならお分かりですね? 有能なメイドにおやつの種類を増やしてもいいんですよ? むしろするべきと助言させていただきます」


(後半は無視しよう。でも、不死十傑か……それが何なのかは知らないけど、確かネイの話にも出てきたような? それのリーダーなら確かに強そうだ。まあ、リーダーでも俺みたいに弱いという可能性はあるだろうけど、生産職でもなければ問題ない……はずだ)


「自分でも強い方だとは思いますよ。それでどうでしょう? 棺桶を作ってくれたら、委員会を辞めてクランへ入りますよ?」


 ミストはそう言って、血の気のない顔でニコリと微笑んだ。


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― 新着の感想 ―
エシャがメイドになって 転職雑誌おかれても クビにならなかった理由を知りたいですねぇ どう考えても傭兵ギルド?やろ スキル構成といい サーチ&デストロイな性格といい
[良い点] 勇者と魔王をダブルキルした狙撃手のデストロイ……有名になりますよね。 さすが発見&デストロイ(orクリティカルショット)のエシャですね。
[気になる点] 会話の中に幾つか有りますが、追々わかる事でしょうから気になりません! [一言] マイナス方向のギャップ萌え代表 《ドジっ娘》(ただし、用法用量を間違えるとマジヤバい)
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