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アナザー・フロンティア・オンライン ~生産系スキルを極めたらチートなNPCを雇えるようになりました~  作者: ぺんぎん
第一章

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デストロイ

 

 開始と同時に敵陣に配置されたメンバーが可視化する。ハヤトが調べておいた通り、ドレスの女性をガードするように八人のプレイヤーがゆっくりと進行してきた。そしてその一団の後方にいるのがレオンだ。


 ハヤトはレオンへ視線を向ける。現実なら見える距離ではないが、これはゲーム。視点を拡大することで、レオンの武器を確認した。


(ちゃんと装備しているようだな)


 レオンの腰にある剣を確認して、ハヤトは安堵した。言葉で聞いてはいても見るまでは安心できなかったのだ。


「ハヤトさん、砦に閉じこもってどうしたんですか? 八百長だと思われたくないので出てきてくださいよ」


 レオンからの音声チャットが届く。明らかに挑発しているが、そんな挑発に乗るハヤトではない。


「悪いね。メテオスウォームが怖いからここでしばらく待機するよ。隕石が降る日は外に出るなってよく言われているから覚えておいたほうがいいよ」


 そんな話をしている間にドレスの女性はハヤト達の陣に入って来た。そしてすぐに魔法を使い始める。


 相手がフィールドにいようがいまいが関係はない。この戦術は相手を砦の中に釘付けにすることが重要なのだ。当然相手がフィールドに一切出てこなければダメージを与えられず最終的には引き分けになるが、それならそれでやり方を変えるだけの事。レオン達が数人で直接砦に乗り込むという方法に変わるのだ。個人の戦闘力に自信のあるレオン達だからこそできる戦い方だろう。


 ハヤトは魔法が使われたと同時に時間を数え始めた。エシャで何とかならなかった場合にはアッシュ達に突撃してもらうしかない。魔法の発動時間を確認して、安全な時間がどれくらいなのかを調べるためだ。


「長いですね。もうやっていいですか?」


「時間を計ってるからちょっと待って」


 エシャの言葉を遮り、時間を計る。そして魔法の行使から三分、メテオスウォームが発動し、空から直径十メートル程度の火の玉がハヤト達の陣に降り注いだ。


(動画で見たときの時間よりも早い。俺が見たのは数回前のクラン戦争だったから、それ以降に発動時間を短縮する装備をさらに装備したか。面倒だな。それにメテオスウォームの魔法は威力もそうだが、見た目が怖い。痛みがないのは分かっていても、間近で見たら恐怖で体がすくんで動けなくなる。ヴァーチャルリアリティってこういう部分でも影響があるよな。派手な魔法ほど当たりやすいって言うのは間違いじゃない)


 現実ではないと分かっていてもリアルな物を見たらそれなりの状態になる。派手、もしくは巨大なエフェクトを持つ魔法は相手をすくませる効果もあるのだ。


 メテオスウォームの魔法が終わったと同時に、ドレスの女性は何かしらの飲み物を飲み、また魔法を使い始めた。


(これ以上、魔法の発動時間を短くする装備はないと思うが、念のためもう二、三発撃たせるか? 突撃の振りをして揺さぶりをかけるのもアリだな。それに魔法を使わせることでMP回復の飲み物を使わせることが出来る。もしかしたらクラン戦争中にMP切れを狙える可能性もあるか?)


 ハヤトが色々と考えを張り巡らせていると、いきなりエシャが目の前に現れた。


「うお!」


「ご主人様、そろそろ攻撃してもよろしいでしょうか? MPが減ってないのでメロンジュースを飲めないのです。あと早くバケツプリンを食べたい」


「目的と手段がちょっと――いや、かなり間違っていると思うけど。いや、そうだね。相手の防御がどんな感じなのか確認しておきたいかな。うん、攻撃をよろしく」


「かしこまりました」


 エシャは砦の屋上にある手すりまで近寄り、右足を手すりにかける。そしてベルゼーブ666・ECカスタムを取り出した。


(エシャのクリティカルショット。前回のクラン戦争では一撃で相手を倒した。でも、あれは防御力が全くなかったからだろう。ドレスの女性も防御力は低そうだが、周囲のプレイヤーは重装備で防御力が高そうだ。技の名前のとおり致命的なダメージを与えられるだろうか? 射程範囲は自陣全体のようだが、基本的に遠距離攻撃は相手と離れるほどダメージが減る。向こうはギリギリの位置にいるし、下手したらダメージなしってことも考えられるな)


 そんなことを考えていたハヤトだったが、ふと、おかしなことに気づく。なぜかアッシュ達がエシャから離れたのだ。


「あれ? みんな、なにしてるの?」


「ハヤト、そこにいると危ないぞ。ダメージはないと思うが」


「危ない?」


「デストロイ」


 ハヤトが言葉を言ったと同時に、エシャも言葉を発した。その瞬間、ベルゼーブの銃口から相手に向かって、大きさの異なる魔法陣が十個並ぶ。


「え? なにあれ?」


 ハヤトが以前見たクリティカルショットは魔法陣が一つだった。それがなぜか複数あることにハヤトは異様な不安を覚える。


 次の瞬間、大砲の発射音と言ってもいいほどの音が聞こえ、弾らしきものが発射される。その反動でエシャの持つ銃の銃口が上に跳ね上がった。そしてエシャ自身もその反動で後ろへ滑るように後退する。ハヤトもそのときの衝撃で少しだけ吹き飛ばされた。


 銃から放たれた弾らしきものは、並んでいた魔法陣を突き破り、一直線にドレスの女性へ向かう。そして数秒とかからずに、盾役のモヒカンとドレスの女性を撃ち抜いた。


 二人は悲鳴を上げる間もなく、光の粒子となって消える。当然、敵陣はパニックになっていた。


 エシャはそれを確認した後、アッシュのほうを見た。


「ではアッシュ様、残りはよろしく頼みます。私はこれからおやつタイムなので」


 そしてエシャはアッシュの返答を聞くこともなくバケツプリンを食べ始めた。


「よし、それじゃ俺達はフィールドに出て残りを一掃するぞ。ただし、レオンには手を出さないようにしろ。アイツは俺が相手をする。レンとレリックは後から来てくれ。二人はレオンが一人になってからだ」


「うん、呪うのは最後だから、それまで我慢するよ。そして活躍したら私もデザートを食べる!」


「かしこまりました。アッシュ様達もご武運を」


 アッシュ達が話を進めている間にようやくハヤトは放心状態から回復した。


「うぉい! ちょっと待て! あれなんだ!? 二人とも貫いたぞ!」


 ハヤトの言葉に全員が一瞬だけ止まる。だが、アッシュは「説明は任せた」と言い、団員を連れて屋上からいなくなってしまった。


「え? おかしいよね? 重装備の相手を貫いて、さらには普通にドレスの女性も倒したんだけど?」


 このゲームの常識ならハヤトの驚きは大げさではない。重装備をしている相手を一撃で仕留めるなど、防御力無視のエクスカリバー・レプリカでも不可能なのだ。しかも遠距離攻撃。アッシュのドラゴンブレスも似たようなものだが、こんなことが可能なら絶対に運営に文句を言うレベルだ。


「ハヤト様、落ち着いてください。あれはエシャのデストロイというウェポンスキルです。効果は全MPを消費して直線上の相手を倒す、ですね。当たれば確殺という攻撃ですが、クールタイムが長いのが玉に瑕でしょう。時間制限のあるクラン戦争では二回が限度と言ったところでしょうか」


「むしろあれが二回も使えるっておかしいよね? おかしいって言ってくれる? 大体、確殺って言葉が出てくること自体がおかしくない?」


 ハヤトはレリックにすがるような顔をした。いままで考えていた作戦が何だったのかという程の威力なのだ。しかも、自分以外は知っていたように思える。そんなものがあるなら最初から言っておいて欲しかったとハヤトは思った。


「ハ、ハヤトさん! あ、あれは何ですか! い、一体、どんな攻撃を!」


「ちょっと黙って。いま、それどころじゃないから」


 ハヤトはレオンからのチャットを雑に扱う。実際にそれどころじゃないのだ。接続を切ることはなかったが、ミュート状態にしてレオンの声が聞こえないようにする。そして改めてレリックのほうを見た。


 レリックは柔和な笑顔でハヤトのほうを見る。


「これが殲滅の女神と言われたエシャの技なのですよ。砦の屋上から面倒な相手を確殺する。エシャの射程範囲内で発動まで時間のかかる魔法を使うなど、倒してくれと言っているようなものです」


「俺を含めて誰もがそんなこと知るかって言いそうだけどね。でも、みんなは知ってたわけ? なんで黙ってたの? 一応このクランのリーダーなんだけど、そう思ってるのは俺だけ?」


「エシャから秘密にするように言われまして。それは良くないと言ったのですが、言ったら使わないと脅されたのです。おそらくハヤト様を驚かせたかったのかと」


 ハヤトはぐるりと首を動かし、エシャを見る。


 エシャはモグモグと口を動かしていたが、ゴクンと飲み込んだ後、ハンカチで口を拭いた。そしてキリッとした顔になり、ハヤトのほうへ左手を出して親指を立てる。


「ご主人様の驚く顔が見たくて口止めしました。あと、この一週間、色々な作戦を考えながら苦悩するご主人様を眺めてゾクゾクしておりました。お恥ずかしい限りです」


「よし、来月は別の仕事を探せ」


「そんな殺生な! 役に立ちます! 役に立ちますから! なんならもう一発撃ちますから! それに私をクビにしたら、今度はドジっ子メイドを送り込みますよ! 私のあらゆる権限を使って!」


「そっちの方がマシに見える――はぁ、まあ、もういいよ。おかげでやりやすくなったとは思うから。それじゃ、今度はアッシュ達を援護してくれる? バケツプリンのおかげでMPは徐々に回復してるよね? え、全然足りない? メロンジュースを飲みたくて嘘ついてない?」


 そんなことはないと言い張るエシャはアイテムバッグからメロンジュースを取り出して美味しそうに飲み始めた。


 ハヤトはやれやれと思いつつも心境は複雑だった。


(規格外なのは知ってたけど、これって大丈夫かね。また運営にメールしておかないとな。バランス調整が失敗しているレベルじゃなくてバグだよ。このゲームは分からないけど、明らかにバグなのが分かってて使うのは処罰対象になることが多いから、デストロイという技は運営の回答があるまでは封印だ)


 ハヤトがそんなことを考えている間に、フィールド上ではアッシュ達の戦いが始まっていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] なんていうか、主人公の情報収集能力の無さが凄い。 いつまで経ってもメインストーリーやら世界観やら調べないし、 3年前の優勝者と知ってれば、いくらでも調べられると思うけど。
[一言] こんにちは、更新ありがとうございます。 デストロイ。 漢のロマン(笑)ですね。 メイドの前は何をしてたのかすごく気になります。 美味しいものにありつけなくて、グータラしていただけの様な気がし…
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