第五話 【えとらんぜ】
「私たちのスキルが世界を救う?……そんなことがあるんですか?」
「ええ、間違いないわ、だから私たちは同じようなスキルを持つ人たちを集めているの、これがあなたたちを勧誘する理由よ」
何ということだ。
あの偉そうなお爺さんたちに役立たず役立たずと言われまくってたのに、今は世界を救うスキルだと言われている。
とんだドンデン返しだ、感情が追い付かないぞこれ。
「まあ、驚くのも無理はないわ。私たちも最初はこのスキルを獲得した時は、周りから野蛮だの役立たずだの、散々言われたもの」
「ああ、だがアデリナの【特性・ひつじ】にしてもあたしの【特性・うさぎ】にしても使いこなせば、とてつもなく強力なスキルだ、都と歩美の【特性・ねずみ】と【特性・うし】も同じだろう」
……確かに、こんな私たちでもあんな恐ろしい地獄サソリを倒せたんだから、このスキルは非常に強力なんだろう。
名前は可愛らしいのにわからないものだな。
それにしてもカグヤさんの【うさぎ】とアデリナさんの【ひつじ】――
言っちゃ悪いが、二人ともタイプは正反対とはいえ、立派な大人の女性という感じなので【うさぎ】と【ひつじ】と言われると、全然似付かわしくないように思えるが、またそのギャップが……
「それにしてもスキルの名前がお二人のイメージと合わないけど、またそのギャップがかわいいですねー」
歩美が普通に言っちゃった。
「……そう?それ褒めてるのよね?」
「い、いや!すいませんすいません!この子思ったことをそのまま言っちゃうんです!」
私が必死にフォローするが……
「あっははは!そうだよな、こんな堅物女に【ひつじ】なんて似合わないよなぁ!?これは傑作だぜ!」
カグヤさんが私のフォローを秒で帳消しにしてくる。
「あら?歩美ちゃんは、あなたみたいな野蛮な女に【うさぎ】なんて似合わないって言ったのよ?ねえ歩美ちゃん?」
「あん?誰が野蛮女だこらぁ!違うよなぁ歩美ぃ!?」
「え?ちょ、い、いえいえー、あわわわ、都ちゃん助けてぇ……」
二人に詰められた歩美が小動物みたいに震えながらこっちに助けを求めてきた。
すまん、無理だ。
骨は拾ってやるからな。
「……まあそのことに関しては後でゆっくりと聞くことにして、話を元に戻しましょうか」
……後でゆっくり聞くんだ。
「ええと、とにかくあなたたちのスキルはずっと私たちが求めていたものなの。だから私たちはあなたたちをクランに迎え入れたい。もちろん、入ってくれたからにはクランの仲間としてし最高の待遇をさせてもらうわ」
「ああ、同じクランの仲間になったからには家族も同然、命を懸けて守ってやるぜ!」
カグヤさんが胸をドンと叩きながら力強く宣言する。
あかん、惚れそうや。
「……お話はわかりました。一つお願いがあるんですが……」
「何?遠慮なく言ってね」
「はい、歩美と二人で相談させてもらってもいいですか?正直、こっちの世界に来てから色んなことが起こり過ぎたので、一度二人で落ち着いて相談したいなって……」
「ええ、わかったわ。それじゃあ私とカグヤは別の部屋にいるから、気の済むまで二人で話してちょうだいね、決まったらこの呼び鈴を鳴らしたら戻ってくるわ」
「何か困ったことがあったら何でも言ってくれよな!」
そう言って、アデリナさんとカグヤさんは別室へと移動していった。
リビングに二人で残された私と歩美は、顔を見合わせて今後に関して相談することにした。
「……はああ、やっと落ち着いたね」
「ほんとに疲れた……ちょっと前までのんびり女子高生してたのに、急展開すぎるわ……」
二人きりになった途端に疲れがどっと押し寄せ、ソファーに深く身を沈める。
思い返せば、急にこの異世界に召喚として呼び出され、役立たずと追放されたと思ったら、こんなところでクランに入るか入らないかの相談をしているのだ。
「ところで、どうする?アデリナさんたちの誘いの通り、クランってのに参加したい?」
「んー、私は都ちゃんのやりたい通りでいいかなー」
「またあんたは……そんな風に人任せばかりだとこの先もっと苦労するよ、ただでさえ異世界なんてわけがわからんことになってるのに」
「んー、都ちゃんはどう思う?」
都は基本的にこういう時には私の意見に従うスタンスを崩さない。
まあ、私のやりたいようにできるのは良いのだが……
「一応、私としては、クランに参加した方がいいと思う。私たちは今は家無し一文無しのただの女子高生だ。クランに参加すれば、少なくとも食べることには困らない気がする」
「なるほどー、確かに!ご飯にありつけるなら、私は是非参加したいなー」
やはり、歩美は食欲基準か、この万年食べ盛りっ子め。
「じゃあ、とりあえずアデリナさんたちには、クランに参加したいって伝えようか、私呼んでくるね」
私はアデリナさんが置いていった呼び鈴を鳴らした。
チリーンと小気味いい音がして、すぐにアデリナさんとカグヤさんがリビングへ戻ってきた。
「呼び鈴を鳴らしたってことは、意見がまとまったってことね?」
「はい、相談は終わりました」
「そう、それでは返事をきかせてもらえるかしら?」
私は、アデリナさんの目を真っ直ぐ見据えて返事をした。
「はい、私と歩美はこちらのクランにお世話になりたいです。是非クランに入れて下さい」
私の返事を聞いたアデリナさんはにっこりと微笑み……
「ええ、ありがとう、今日からあなたたちは同じクランの仲間だわ」
そう言いながら両手を広げて言葉を続けた――
「ようこそ、クラン【えとらんぜ】へ!」
これが私たちが【えとらんぜ】へ加入した瞬間だった……




