第三十話 アデリナの本気
カグヤとノーマ卿の戦いの決着が着きかけていた頃より、少し時は遡って、闘技場の別の場所では……
アデリナと邪獣へ変貌したゼブル卿が対峙していた。
翼の生えた大きな蜥蜴へと変貌したゼブル卿は、牙を剝き出しにしたり、長い舌を出し入れしたりしながら激しく威嚇している。
「こんなところで蜥蜴退治とは参ったわね……」
そうつぶやきながら、武器であるライフル銃を構える。
そのライフル銃の銃身は、鮮やかな緋色をしており、見た目からして普通の銃とは一線を画している。
その名も【緋雷震】。
カグヤの【金星、銀月】と同じく【金剛工房】のゴルディ工房長に「二度と同じものは作れない」と言わしめるほどの最高傑作である。
緋色の鱗を持つサラマンダーと雷竜の素材にて作られたその銃は比類なき威力を誇り、数々の強敵を倒してきた。
あまりの威力にアデリナが本気で戦うと決心した時以外は、使用を自粛しているほどである。
その【緋雷震】の銃口を向けられたゼブル卿は、訝しげにアデリナを睨み付けていたかと思うと、次の瞬間には翼を広げて上空へ飛び立った。
上空からアデリナの位置を確認した後に、大口を開け激しい炎を吐き放った。
咄嗟に火炎へ向けて【緋雷震】による銃撃を放つ。
凄まじい威力の銃弾が炎を貫きかき消してしまう。
銃弾は速度を維持したまま、ゼブル卿へ迫るがギリギリの所で回避されてしまった。
ゼブル卿は、その銃弾の威力に驚いたのか、更に高度を上げその長い体をくねらせながら左右に飛び回っている。
ノーマ卿と同じくマグナスに徹底的にステータスを強化されているため、そのスピードは凄まじくアデリナと言えどもそう簡単には銃弾を当て難いほどの動きを見せている。
「……厄介ね、こうなったら……」
無策で銃弾を放ち、無駄に消費してしまうことを嫌ったアデリナは一つのスキルを使用する。
「【金毛羊】」
その瞬間、アデリナの体が黄金に輝き始める。
黄金の輝きはいつしか、激しく瞬き始め雷のように変化していく。
最終的には黄金の雷を纏った状態になった。
金毛羊 : 【特性:ひつじ】を持つものが習得できるスキル、自らの体に雷光を宿すことができる。発動中はHPが減少していく。
スキルの力で激しく瞬く雷光を纏った瞬間からアデリナのHPが減少を始める。
都の【火鼠】と同様に発動と引き換えにスリップダメージが入るタイプのスキルの様だ。
全身に雷光を瞬かせた状態で【緋雷震】を構えゼブル卿に照準を合わせる。
「さて、行くわよ!【雷閃弾】!」
銃口から放たれた弾は今までとは明らかに違う黄金に光り輝く銃弾だった。
ゼブル卿はすかさず旋回し、銃弾を回避するが――
銃弾から四方八方に雷光が飛び出し、周囲を埋め尽くした。
縦横無尽に走り回る無数の雷光から逃れる術はなく、当然ゼブル卿も雷光を受けてしまう。
「キシャアアアアアア!!!」
体中に無数の雷光を受け感電しながら激しく痙攣するゼブル卿。
雷光が体を貫く度に苦痛を味わうかのようにのたうち回っている。
当然、その隙を逃すようなアデリナではなく……
照準を十分に合わせ放たれた二発の銃弾が、それぞれゼブル卿の片翼と頭を貫いた。
普通ならば間違いなく即死だろう。
そのまま真下に急降下を始めるゼブル卿。
【緋雷震】を肩に担ぎながら落下していくゼブル卿を注意深く観察していたアデリナは何かに気付く。
「……やはり、再生している?」
アデリナの見立て通り、銃弾によって破壊された片翼と頭が少しずつ復元していた。
元から備えていた自然治癒能力がマグナスの魔法によって大幅に強化された結果として、ほぼ即死レベルの攻撃を受けても治癒してしまえるレベルの再生能力を得るに至ったというわけだ。
地面に激突する前に完全に再生を終えてしまったゼブル卿は、再び羽根を羽ばたかせ上空に舞い上がる。
「あの再生能力は厄介ね、こうなったら跡形も無く吹き飛ばしてやるしか……」
アデリナがゼブル卿の打倒方法を思案していたその時……
周囲が黄金の魔力で満たされ始めた。
「……これは?アルフレド団長の【軍神馬】!……これなら!」
途端に体中から力が湧き上がってくるのを感じる。
アルフレドの【軍神馬】の効果で全てのステータスを十倍に強化されたアデリナにとって、もはやゼブル卿は脅威でも何でもなかった。
【緋雷震】を構え、ゼブル卿を狙い銃弾を放つ。
ゼブル卿は今までのように素早く旋回し銃弾を回避しようとするが、予測よりも遥かに早い速度の銃弾に羽根を撃ち抜かれてしまった。
「!?」
【軍神馬】の効果により弾丸の速度も強化されたため、今まで避けられていた銃弾をまともに喰らってしまったことに驚愕の表情を浮かべるゼブル卿。
翼を撃ち抜かれたため、まともに飛行できず落下を始める。
慌てて羽根を再生させようと力を込めるが、その間にも放たれた無数の弾丸がゼブル卿の体中のいたるところを貫き、再生を邪魔してくる。
そのまま地面に激突し大ダメージを負ってしまったゼブル卿。
「これでとどめよ、【緋雷金剛砲】」
アデリナが【緋雷震】へ魔力を集中し、引き金をひいた瞬間、黄金の雷光を纏った極太のレーザーが放たれた。
そのまま地面に激突し一時的に行動不能となっていたゼブル卿をのみ込んでいく。
「ギギギシャァァァァ…………」
ゼブル卿は苦し気な断末魔を上げながら跡形も無く消し飛ばされ、残ったのは細長い尻尾の先の部分だけである。
「さすがに、これでは再生できないでしょうね」
アデリナが勝利を確信したその瞬間――
尻尾の先端が突然ピクリと動き出し、ドス黒い邪悪な魔力を放ち出した。
「な!?そんな!これは……!?」
更には、急速に再生を始め出す始末、とてつもない速度で再生されていくゼブル卿を見ながら、明らかに今までとは様子が違う光景に思案するアデリナ。
「これは……他の誰かのスキルで再生させられている?……一体誰が……」
悪夢の戦闘はまだまだ終わらない。
少しでも面白いと思って頂けましたら、評価をお願いします。下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります。
ブックマークも頂けると非常に喜びますので、是非宜しくお願い致します。
良ければ、感想もお待ちしております。
評価や、ブックマーク、いいね等、執筆する上で非常に大きなモチベーションとなっております。
いつもありがとうございます。




