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第二十九話 カグヤの本気

本日2話更新です!

 カグヤの目の前には、醜く肥え太った二足歩行の大猪が立っていた。

 口からはだらしなく涎を垂らし続けており、無駄に荒い息遣いと相まって、とてつもなく醜悪な雰囲気を醸し出してしまっている。

 ついさっきまで、人々から賢者と呼ばれる存在だったとはとても思えない状態だった。


 「ちっ……本当に気持ち悪いな。こんな奴の相手をしなきゃなんねぇのか」


 吐き捨てる様につぶやくカグヤに向かって、ノーマ卿が突っ込んでくる。

 知性など微塵も感じさせないような勢いのみの突進のように見えたが、マグナスによって、ステータスを大幅に強化されただけあって、そのスピードは目を見張るものがあった。


 「おっと、さすがに早いな……【双破斬】!!!」


 辛うじてジャンプでかわしながら、双剣で二つの斬撃を放つ。


 「ブホオオ!!!」


 【双破斬】はノーマ卿の体に二筋の傷をつけたが、大きなダメージまでには至らない。

 防御力までかなりの強化を施されているようだ。


 「まじで、Sランクモンスター並みに強化されてやがるぜ!」


 苛立ちを見せるカグヤを前に、ノーマ卿が奇妙な動きをし始める。

 腹や喉が激しく脈動を始めたかと思うと、口の中に手を突っ込み始めた。

 どうやら何かを吐き出そうとしているようだ。

 

 「ゴボボボォ!!!」


 やがて、グロテスクな音を響かせながら、何か棒状のものを吐き出した。

 胃液のような緑色の液体にまみれていたそれは、骨で作られた剣のような形をしていた。


 「き、気持ち悪いな!ひょっとしてそれを武器にして戦うのかよ!ってかくせえ!」


 カグヤの嫌な予感が的中したようで、ノーマ卿は液体にまみれたそれを構えて武器に使用するつもりのようだ。

 それは、【邪骨の大剣】と呼ばれる一部のモンスターのみが体内で生成できる武器だった。

 その武器の性能は、モンスターのランクによって決まる。

 つまり、現在はほぼSランク相当のステータスを誇るノーマ卿が生成した【邪骨の大剣】は、凄まじい性能を持っていると見て間違いないだろう。


 「しゃらくせえなぁ!今度はこっちから行くぜ!【二兎を追う者は(デュアル)一兎を得ず(シャドウ)】」


 スキルを発動し、二人に分身したカグヤは勢いよく駆け出した。

 

 「そらよぉ!」「そいやぁ!」


 二人のカグヤが小気味よく掛け声を発しながら、ノーマ卿へ斬撃を放つ。

 【邪骨の大剣】を振り回しながら、懸命に剣撃をガードするが、相手は二人、次々にガードをすり抜け、ノーマ卿の傷を増やしていった。

 ノーマ卿はダメージを喰らい続けているのが悔しいのか、憎々し気に叫びながらカグヤを睨みつけている。


 痛みに耐えかねて苦し紛れに【邪骨の大剣】を思いっきり薙ぎ払ってくる。

 二人のカグヤは大ぶりの隙を逃がさず、懐に潜り込む。


 「「【双月極輪舞】」」


 二人のカグヤが同時に双剣術のスキルを放つ。

 両手の剣を華麗に舞うように回転させながら、何度も何度も斬り付ける。

 さながら、二つの月が合わさるかのような軌跡を描きながらノーマ卿の体を斬り刻んだ。


 ……しかし、倒しきれない。

 ノーマ卿は一連の攻撃を受けて、全身血みどろだがまだまだ余力がありそうに振舞っている。


 「あれ?」

 「これでも倒せないってか……」


 ノーマ卿の想像以上の頑丈さにうんざりする二人のカグヤ。

 渾身のスキルを叩き込んだにも関わらず、HPを削り切れなかったことに多少の驚きを見せている。

 思ったよりも骨が折れるかもしれない……

 そんなことを考え始めたその時――


 周囲が黄金色の魔力に包まれた。


 「これは……団長の【軍神馬(スレイプニル)】か!」


 瞬間、全身から力が漲ってくる。

 それも信じられないほどのレベルでだ。


 軍神馬(スレイプニル) : 【特性:うま】を持つものが習得できるスキル、一定の範囲内の味方の全てのステータスを十倍にする。効果範囲は使用者のレベルによって変動する。一日に一度だけ使用可能。


 「……これならもう負けることはねぇな!覚悟しな、豚野郎!」


 アルフレドのスキルによって、全てのスキルが十倍となったカグヤにもはや怖いものはない。

 十倍に強化されたスピードのままに、凄まじい速度でノーマ卿へ向かって駆け出す。

 二人のカグヤが疾風の如く、向かっていく。

 ノーマ卿はカウンターを取ろうと【邪骨の大剣】を突き出すが、あまりのステータス差に当たる気がしない。

 既にカグヤが通り過ぎた空間を【邪骨の大剣】が通り過ぎるのみだ。


 「さっさと片付けるぜぇ!【月の兎(ムーンラビット)】」


 スキルを発動した瞬間、二人のカグヤの体が光のエフェクトを放ち出す。


 「行くぜぇ!【超重力(メガグラビトン)】発動!」


 ノーマ卿の周囲一帯が円型にミシリと音を立てながらクレーターの様に陥没した。

 当然、その中央のノーマ卿も身動きが取れず、地面に這いつくばるように押しつぶされている。


 「ブゴォ!?ブゴオオオ!!!」


 慌てふためきながら抵抗をするノーマ卿を見ながら、二人のカグヤは同時にジャンプする。

 軽やかに宙を舞いながら、双剣を構え――


 「「とどめだぁ!【双月超重断】!!!」


 強力な重力波をまとった二人のカグヤは、とてつもない勢いでノーマ卿へ向けて急降下を始める。


 「「おらあああああああああああ!!!!」」


 そして、二人同時に双剣を振りかぶり、ノーマ卿へ叩き付ける。


 超重力を乗せた一撃の重量は果てしなく、凄まじい勢いでクレーターが拡大していき、中央のノーマ卿は完全にひしゃげてしまった。


 完全に勝負は着いた。カグヤがそう確信した瞬間――


 「グハア……イタイ、タスケテクレェ……」


 カグヤの耳に届いたのは、悲痛な嘆きの声。


 「まさか、最後に意識が戻ったのか?」


 「イ、イタイイ、カラダガウゴカナイ……シ、シシニタクナイイ……」

 

 「もうどうにもならないな、せめて最後は人間の意識のまま死なせてやるよ」

 カグヤは、【二兎を追う者は(デュアル)一兎を得ず(シャドウ)】を解除し、一人の姿に戻った後に、とどめを刺すべく剣を振り上げた。


 その時、突然ノーマ卿の体がドス黒い魔力を放ち始めた。


 「な、なんだ!?まだ何かあるのかよぉ!」


 闘技場にカグヤのうんざりした叫び声が響き渡った。

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