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第二十七話 第三試合の顛末

 あの刹那とかいう召喚者の馬鹿みたいな威力の魔法を苦も無く防いでしまったアルフレド団長、やっぱり化け物だった。

 そりゃぁ、アデリナさんとカグヤさん(大河くんも片足突っ込んでるが)みたいな化け物二人を束ねて【えとらんぜ】の団長をやってるんだから化け物に違いないだろう。


 そのアルフレド団長が何やら槍を天に掲げている。

 

 「目覚めろ……【聖槍・ルーンヴェルド】!!!」


 そう叫ぶと、槍がキィィィィンと甲高い音を出しながら、更に眩い光を放ちだした。

 観客たちもあまりの眩しさに、闘技場を直視できないでいる。


 「な、なにが起こっているんですか!?」

 「あれは、アルフレド団長が【聖槍・ルーンヴェルド】を覚醒させたのよ」


 アデリナさんが解説してくれているうちに、光が収まる。

 そこに出現したのは、先程までは打って変わって、神々しく進化した光の槍だった。


 「あの形態を見たのは久しぶりだな、とにかくもう刹那とかいう女に勝ち目はねえな」


 カグヤさんがニヤリと笑いながらアルフレド団長の勝利を予言している。

 実際、あの光の槍からは、凄まじいまでの力を感じる。

 何かこう、この世のものではないみたいな。


 「都ちゃん、歩美ちゃん、よく見ておきなさい、あれがこの世界で最強と言われる力を持つ【神器】の一つよ」

 「【神器】ですか?」

 「ええ、この世界に数えるほどしかないと言われる【神器】の一つがあの【聖槍・ルーンヴェルド】よ」


 【神器】かぁ、これまた大層な名前が出てきたな。

 世界に数えるほどしかないような武器を持っているなんて、やはりアルフレド団長はすごいや。


 「ふん、そんなはったりが通用するもんか!【地裂修羅葬】!!!」


 三度、刹那が杖を振るい魔力を集中させ、杖を地面に突き刺すと、大地が轟きだした。

 大地震でも起こったかのように闘技場の地面が隆起、あるいは陥没し、アルフレド団長を呑み込もうと暴れ出した。


 「これなら、どんなにその槍が凄かろうと――」

 「【天翔馬(ペガサス)】」


 その瞬間、アルフレド団長の背中に一対の銀白の翼が出現し、上空へ飛翔した。


 「「と、飛んだぁぁ!?」」


 私と歩美で盛大にハモりながら驚いた。

 もう、この試合で驚くの何回目だろう。

 ちょっと疲れてきたわ。


 とにかく空に飛んでしまえばどれだけ大地が荒れ狂おうが関係がない。

 上空から刹那の姿をしっかりと見据え、【聖槍・ルーンヴェルト】を構えると、物凄い速度で突っ込んでいく。


 「くっ!【六重防護障壁・獄門】!!!」


 すかさず、刹那が防御用の魔法を発動する。

 アルフレド団長と刹那の間に、濃密な漆黒の魔力で作られた障壁が六つ出現する。


 アルフレド団長は意に介せず、槍を正面に付き出しながら突進していく。


 「はああああああ!!!!!」


 そのまま、一つ目の障壁と接触した瞬間、バリンッ!!とガラスが割れるような音がした。

 【聖槍・ルーンヴェルト】が障壁を突き破った音だ。


 アルフレド団長は勢いを微塵も緩めず、第二、第三の障壁も破っていく。

 障壁は残り半分、そこで刹那が再び動き出した。


 「くああああ!止まれえええ!!!」


 苦悶の表情を浮かべながら、残りの障壁へ向けて杖を突き出した。

 途端に、元々かなりの密度で固められていたと思われる漆黒の障壁が更に、ドス黒く、色濃くなっていくのがわかる。


 「あいつ、魔力を無理矢理継ぎ足して障壁を補強してやがる、どれだけ出鱈目な魔力量をしてやがるんだ……」


 カグヤさんが驚くほどの芸当というわけか。


 だが、【神器】を振るうアルフレド団長の突進は止まらない。

 刹那の補強により、更に硬度を増したはずの四つ目の障壁を瞬く間に突き破ってしまった。


 続いて五つ目、さすがに今までよりも抵抗をしているが、障壁の中央から光の槍の穂先がねじ込まれていき、破壊してしまった。


 最後の六つ目の障壁に刹那は更なる魔力を補充して、アルフレド団長を食い止めようとする。


 ――しかし、無情にもアルフレド団長の攻撃は、障壁の中央に大穴を開け、勢いよく破壊してしまった。


 「がはぁ!」


 かなり無理をしてしまったのか、刹那は咳き込み、口から血を吐き出した。

 どうやら魔力を注ぎ込みすぎて体に負担が掛かり過ぎたらしい。


 吐血して、身動きが取れない刹那に向かって全ての障壁を突破したアルフレド団長が槍の切っ先を向けたまま、迫っていく。


 「く、くそぉ……」


 刹那は観念したかのように目を瞑り、覚悟を決めた次の瞬間、【聖槍・ルーンヴェルト】が刹那の持っていた【黒死王の杖】に突き刺さった。


 「……え?」


 意外な出来事に、刹那を含めた闘技場中の人間が呆気にとられた瞬間――


 『ガアアアアアアアアアアアアア!!!!!』


 とてつもない大音量の咆哮が闘技場に響き渡った。


 どう(たと)えれば良いのだろう、醜悪、不快、異様、不気味、それら全てが当てはまりそうな、絶望的な咆哮だった。


 咆哮とほぼ同時に【黒死王の杖】から邪悪な漆黒の魔力が噴出し始める。


 「な、なんなのこれは!?動けない!?」


 魔力は刹那の体に纏わりつき、体を拘束し始めた。

 ――と同時に刹那が装備していた黒いローブや指輪からも同じような漆黒の魔力が噴出してくる。


 「やはり、その杖に潜んでいたか……【黒死王・ディミトリス】!」


 鋭い視線を送りながら【聖槍・ルーンヴェルト】を突きつけるアルフレド団長。 

 すると、大量の魔力はやがて形を作り始め、人の顔のようなものになった。

 

 『ぐふふ……やはり【神器】の持ち主にはばれてしまうのか。せっかくもうすぐで完全体として復活できたものを……』

 

 【黒死王・ディミトリス】と呼ばれた存在は、低く野太い声を発する。


 「一体何なのこれは!?こんなの聞いてないわよぉ!助けて……マグナス様ぁ!!!」


 漆黒の魔力に取り込まれてしまい、かろうじて顔だけが出ている状態の刹那が悲壮な声で助けを求めている。

 マグナスというのは【マゼンティア公国】側の付添い人だろうか?


 『この小娘の魔力を少しずつ取り込んで、もう少しで完全体になれたものを……まあ良いわ、足りない分はこの小娘の体を直接取り込んで補うとするか……』

 「……やはり、そうだったか、この子が放つ魔力の節々にとてつもなく邪悪な気配が感じられたが……お前のような邪悪な存在が封じられた呪具を装備していたなんて……いったいどういうことなんだ?」

 「し、知らないわよぉぉぉ!杖もローブも指輪も、マグナス様から渡されたもので……何か悪いことを企んでいる【ダルシアン王国】を懲らしめるのに手を貸して欲しいって、マグナス様がぁぁあ!!!」


 刹那が呪詛を吐き出すかのように、驚愕の事実を語りだす。


 「そうか、マグナスが……【マゼンティア公国】の【三大賢者】の一人が――」

 「おっと、話はそこまでだ」


 アルフレド団長の話を遮るように、突如目の前に出現したのは三人の賢者だった。

 どうやら闘技場の結界を飛び越えて瞬間移動してきたらしい。


 「やあ、久しぶりだねマグナス……やっぱり君が黒幕だと思ってたよ、まさかこんな強引な手段を取るとまでは予測できなかったけどね」

 「ふん……いささか予定と違うがな。まあ良い、間も無く【黒死王・ディミトリス】は完全復活し、この国で存分に暴れてくれるだろうよ!」

 「最初から【黒死王・ディミトリス】の復活が目的だったんだね」

 「ああ、そうさ。この魔力だけは妙に高い召喚者の小娘に【黒死王】が封印されている装備をつけて戦わせれば、魔力を吸収しそのうち復活するかと思っていたが、貴様に装備を破壊された時は正直、肝が冷えたぞ。まあ、結果は良い方向へ転んだがな。装備を破壊されたタイミングで不完全とはいえ【黒死王】が復活してくれた。後はこの小娘を取り込めば完全復活できるだろうさ!」

 「そ、そんなぁ……」


 冷酷な笑みを浮かべながら残酷な事実を明かすマグナスの言葉に、刹那が絶望の表情を浮かべながら目から涙を零している。


 『ぐふふふ……絶望しておるなぁ、この絶望が更なる魔力を我に与えるのを感じるぞ』

 「わ、私は……ただこの世界で……し、幸せになりたかっただけなのにぃ……』


 とうとう刹那の顔が全て漆黒の魔力に取り込まれてしまった。

 その瞬間、漆黒の魔力が勢いよく脈動し始め、いつしか人の形を形成していく。

 ……そして、最終的には一人の魔人の姿となってしまった。


 『ぐふふふふ、ようやく復活できたぞ』


 「くはははは!これでこの国も終わりだぁ!」


 【黒死王・ディミトリス】が復活し、マグナスが醜悪な高笑いを上げている。


 「黙れよ……てめえはぁ!」

 「さすがに堪忍袋の緒が切れたわね……ただでは死なさないわよ」


 そこへ、アデリナさんとカグヤさんが出現した。

 二人は、私たちに観客の警護と周囲の警戒を任せた後に闘技場の袖からカグヤさんの【兎跳び(ラビットジャンプ)】で瞬間移動していったのだ。

 二人は既に武装を終えている状態で、怒りの表情を浮かべている。

 間違いなく本気で戦う気だ。


 『緊急事態です!会場の皆様は速やかに避難してください!試合は中止と致します!もう一度言います!会場の皆様は速やかに避難してください!』


 避難を促す緊急事態のアナウンスが入り、観客たちは我先にと逃げ出し始めた。

 暴動が起きないように警備兵が懸命に誘導している。

 【ダルシアン王国】側の王族やセフィーネ王女は、近衛騎士弾が警護しながら避難させているようだ。


 「ふん……おめおめと逃がすかよ、ここの国の奴らは皆殺しにするからな……【召喚・アークデーモン】!!!」

 

 マグナスが魔法陣を展開し、無数の悪魔たちを召喚した。


 「行けい!この会場の者どもを残らず殺してしまえ!」


 号令と共に悪魔たちが会場の観客たちに襲い掛からんと一斉に飛び立ち始めた。


 会場には結界が展開してあるため、悪魔たちはたどり着けないはずだが……


 『ふん!小賢しいものが貼ってあるなぁ!こんなものはぁ!!!』


 【黒死王・ディミトリス】が大口を開けると、周囲の結界が吸い込まれ始め、みるみるうちに結界が消滅していった。

 全て結界を吸い込んでしまった後に、そのまま極彩色の球体を観客席に向けて勢いよく吐き出した。


 「まさか!結界を魔力の塊に変えて放ったのか!?」


 まだまだ避難しきれていない観客席に向かって球体が飛んでいく。

 このままでは観客たちに多大な被害が出るかと思われた瞬間――


 「【虎砲(タイガーキャノン)】!!!」


 大河くんが手から衝撃破を放ち、球体を弾き飛ばした。

 球体は角度を変えながら闘技場の上空へ飛んで行き……大爆発を起こした。


 「よくやった、大河ぁ!」


 危機を救った大河くんをカグヤさんが親指をサムズアップしながら褒め称えている。


 一方、マグナスに放たれたアークデーモンたちが観客席に襲い掛からんとしていたが――


 「【炎魔爆龍覇】!!!」

 「【風刃乱舞】!!!」


 どこからか放たれた火炎の蛇が、無数の風の刃が次々とアークデーモンたちを倒していった。


 「ふん、我が国の賢者がなぜこんなことをしているのだ?恥を知れい!」

 「まあ、こいつら全員斬ってしまえばOKなんでしょう?」


 第一試合で戦った、【灼熱】のブランドルと【斬姫】ニーナだった。

 少し前までは敵同士だった二人が、観客たちを守るために肩を並べて戦っていた。


 「まあ、試合は私の勝ちだったけどねぇ。足を引っ張らないでね?」

 「な!?言われるまでもないわぁ!」


 さらに他の場所で観客たちに襲い掛かろうとしたアークデーモンには――


 「【ビッグトマホーク】!!!」 

 「【ツイントマホーク】!!!」


 巨大な漆黒の大斧と、二振りの手斧が旋回しながらアークデーモンたちを残らず切り刻む。


 「何だこいつらはぁ!?どうなってんだこらぁ!」

 「まあまあ、ザンジバルさん、とにかく観客たちに被害が出ないように、とっととこいつら倒しちまいましょ」


 第二試合で私たちと戦った、【黒斧】のザンジバルと【双斧】のゴードンだ。

 よく見ると、【ブラックアックス】のクランメンバーたちも従えている。

 彼らも、観客たちを守るべく、アークデーモンと率先して戦っている。


 他の場所でも、闘技場にいた冒険者たちがアークデーモンと戦いながら、観客たちの避難に尽力しているのが見えた。

 

 「私たちも、一緒に戦おうよ、都ちゃん!」

 「うん、そうだね!行くよ、歩美!」


 私と歩美も、助力となるべくアークデーモンに向かって走り出す。

 これだけの戦力がいれば、何とかなるはずだ。

 観客たちの犠牲を少しでも減らすべく、全員一丸となって戦い始めている。


 

 その光景を見ながらアルフレド団長がにやりと笑みを浮かべ。


 「さあ、そろそろこっちも決着を着けようか!」


 力強く【神槍・ルーンヴェルト】を構えた。

 

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