第二十五話 まさかの第三試合
なんと、アルフレド団長が連れてきた女性は、この国の王女様だった。
「はじめまして、私はセフィーネ、この【ダルシアン王国】の王女を務めております」
その女性は、優雅な動作で私たちに向かって深々と一礼し、とても澄んだ声色で挨拶をしてきた。
あかん、緊張で頭が真っ白だ。
生まれてこの方、偉い人っていうと、校長先生くらいしか話したことがないのに、いきなり王女様ってか?
さっきは、疲れてるから気を遣う人は遠慮したいとか言ってたけど、気を遣うところか、逆に振り切って有難いわ。
有難すぎて頭が真っ白になっとるわ。
「あわわわわ、都ちゃん、どうしよう?」
心配するな、私もどうしたら良いかわからん……とりあえず挨拶しないと。
「あ……ご、ごご丁寧に……ありがとうございまふ!」
はい噛んだー。アウト―。もう無理―。
緊張しすぎて口の中がカピカピに乾いてるし、もう無理だわ。
「セフィーネ様、こちらは都さんと歩美さんです。我ら【えとらんぜ】の新規参入メンバーです」
アルフレド団長がにこやかに助け舟を出してくる。
とても流暢にそして穏やかに、私たちを紹介してくれる様子は、ほとんど貴族だった。
「ええ、存じております。先程の試合を拝見しまして、とても感動しました。我が【ダルシアン王国】の代表として勇敢に戦って頂き、お礼を申し上げますわ」
「い、いえいえいえいえ!そ、そんな王女様に感謝されるなんて!私たちはただ戦っただけですから!」
物凄く挙動不審になりながら両手をぶんぶんしながら否定する私の姿に、王女様は少しくすっとした後に、穏やかな口調で話し始めた。
「いいえ、あなた達のような勇敢な女性の方々が国を代表して戦っている姿は、我が国の民たちに大いなる勇気を与えてくれることでしょう。そのようなことが、私には王女としてとても有難く嬉しいのです」
どうしよう?
王女様が私たちに惜しみない賛辞を贈ってくれている。
本当に夢でも見ているのか?
アデリナさんたちも、啞然とした表情でこのやり取りを見ている。
ということは、王女様がこんなところまでやってくるのは、本当に珍しいことなんだろう。
「さて、アルフレド団長、この後の第三試合が終わったあとに、改めて【えとらんぜ】の皆さんとお話がしたいのですが大丈夫ですか?」
「はい、問題ございません」
「わかりました、それでは第三試合後にこちらから遣いの者を出しますので、よろしくお願いします」
「はっ!」
「それではご武運を祈りますね」
そう言い残して、セフィーネ王女様は控室から去っていった。
そして、控室のドアがバタンと閉まった直後に――
「どういうことですか!?アルフレド団長!?」
「本当に心臓が止まるかと思ったぜ!」
「王女様が来るなら来るって言っといてくださいよ!」
他の三人が、アルフレド団長をガン詰めし始めた。
いきなりの王女様訪問はそれくらいのイレギュラーな事態だったらしく、あのアデリナさんまでもが狼狽しきっている。
「いやぁ、悪かったね、黙ってたわけじゃないんだ。いきなり王女様の訪問が決まってね、君たちに伝える暇がなかったんだ」
爽やかな笑顔で追及を避けるアルフレド団長。
「それにこの後の第三試合のあとに招待も頂いたしね。またその時に話そうか」
……そうだった。
この後にまた王女様からご招待を受けたんだった。
そう思うとまた緊張してきたなぁ……
ん?そういえば。
「そういえば、第三試合の出場者って一体誰なんですか?」
「ん?ああ、確か【マゼンティア公国】は超級職の凄腕が出てくるらしいよ」
「超級職ですか!?」
アルフレド団長の回答に驚きの言葉が入っていた。
超級職だって!?
確かアデリナさんやカグヤさんが就いてbいるジョブの最高到達点のことだ。
ということは、【黒斧】のザンジバルや【灼熱】のブランドルよりも間違いなく強いはずで、下手をしたらアデリナさんやカグヤさんと同格の相手ということだ。
「って、【ダルシアン王国】側の代表は誰なんですか!?」
対するこっちの代表もそれ相応の相手じゃなければ太刀打ちできないはずだ。
思わずこちら側の代表について質問してしまったが――
「まあ、それは試合になればわかるかな、楽しみにしておくと良いよ」
これまた爽やかに質問をかわされた。
なんだよ、それくらい教えてくれてもいいじゃん。
「さて、僕は少し用事があるからこれで失礼するよ、皆はもうすぐ始まる第三試合を観戦してくると良いよ」
そう言い残して控室を出ていくアルフレド団長。
言いつけの通り、皆で第三試合を観戦するために闘技場の方へ移動することにした。
◆◆◆◆
闘技場へ移動してくると、ちょうど選手入場のタイミングだったらしい。
私たちの戦いで徹底的に破壊されてしまった闘技場も、完璧に修復されている。
この短時間でどうやったんだ?と思ったら、アデリナさんが教えてくれた。
どうやら、岩石魔法の使い手が常駐しているらしく、これくらいの状態ならばすぐに直してくれるらしい。
『大変長らくお待たせしましたぁ!!!これから本日の最後の第三試合を開始しまぁぁす!!!』
待ちに待ったアナウンスが流れ始めると観客たちから再び大歓声が起こり始める。
聞くところによると、第三試合の選手は、観客たちにも知らされていないらしく、このタイミングで初めて明かされるとのことで、どんな選手が入場してくるのか、その期待感も込みでとてつもない熱量が闘技場に渦巻いている。
『それでは選手入場です!!!赤の門から入場してくるのはぁぁ!!!【マゼンティア公国】代表!!!【魔導王】……如月 刹那ぁぁぁぁ!!!!』
アナウンスと共に入場してきたのは、私たちと同い年くらいの女性だった。
っていうか、名前を聞く限り……
「まさか!?召喚者なの!?」
名前の感じからして、間違いなく異世界からの召喚者だ。
恐らく【マゼンティア公国】の賢者たちが召喚して、追放されなかった人なのだろう。
ということは、かなり強力なスキルを持っている可能性が高い。
「へえ、まさかここで召喚者を当ててくるとはな」
「大方、こちらへの力の誇示か、はたまた召喚者のテストか……いずれにしても碌なもんじゃないわね」
カグヤさんとアデリナさんが話しているが、私と歩美は驚きすぎて口が開きっぱなしだ。
確かに私たちの召喚時に、他にも召喚されたものがいるというのは聞いていたが、こうして実際に異世界で見かけることになるとは思わなかった。
「あ、あの……【魔導王】ってそんなに凄いジョブなんですか?」
歩美が質問をする。
「ええ、魔術師系統の最高峰の一角に位置すると言っても過言ではないわ」
「試しにステータスを鑑定してみるか」
そう言ってアデリナさんとカグヤさんが鑑定を行うと。
如月 刹那
ジョブ :魔導王
レベル : 511
HP : 3760
МP : 5216 +1990
攻撃力 : 990
防御力 : 2180 +1560
素早さ : 2370
魔法力 : 5338 +2300
スキル : 【魔導王の素質】
【魔力補正LvМAX】
【遠距離攻撃力補正LvMAX】
【火炎魔法LvMAX】
【氷結魔法LvMAX】
【雷撃魔法LvMAX】
【岩石魔法LvMAX】
【水撃魔法LvMAX】
【暗黒魔法LvMAX】
【障壁魔法LvMAX】
【状態異常魔法LvMAX】
【回復魔法LvMAX】
装備品 : 黒死王の杖
黒死王の魔法衣
黒死王の指輪
……うわぁ、めちゃくちゃ強い。
同じ召喚者だとは思えないくらいに強い。
正直、アデリナさんとカグヤさんと比較するとステータス的には多少劣るような気もするが、それでも十二分に強いといえる。
私たちでは逆立ちしたって勝てないだろう。
そう思わせるほどの数値を誇っている。
「いや、こんな強い人と戦うなんて、一体誰が……」
これだけの強敵と戦うのだ、それこ最低でも超級職についていなければ相手にならないだろう。
しかし、アデリナさんとカグヤさんはここにいる。
この【ダルシアン王国】にそれだけの強さを誇る人が他にいるのだろうか?
そう思っていると、アデリナさんが口を開いた。
「誰があの【魔導王】と戦うかって?あなたたちが知っている人物の中で一人だけ太刀打ちできそうな人がいるじゃない」
アデリナさんが言うにはその人は私たちが知っている人らしい。
いや、全くわからないけどなぁ。
「都ちゃん、わかる?私には全然わかんないや」
歩美も同じく、誰かわからないようだ。
本当に一体誰なんだ?
歩美と一緒に首をひねっていると、選手入場のアナウンスが入る。
とうとう正解がわかると思い、私たちは聞き耳をたてた。
「続きましてぇぇ!!!青の門からの選手入場です!【ダルシアン王国】代表は……この人だぁぁぁ!!!」
なんと今回は、アナウンスも出場選手の名前を紹介しなかった。
サプライズか?サプライズってやつか?
観客たちも期待に胸を躍らせ、もう待ちきれないという感じで歓声を上げ続けている。
やがて、青の門から一人の選手が入場してきた。
その選手は、男性で。
赤い長髪に凛々しい顔をした騎士のような出で立ちで。
胸を張り、爽やかな笑みを浮かべながら堂々と入場してきた。
どこかで見たことのあるその顔は……
「「あ、アルフレド団長!?」」
思わず、歩美の声とハモってしまうほど驚いてしまった。
【ダルシアン闘技場】で行われている、【ダルシアン王国】と【マゼンティア公国】の対抗戦、三番勝負、謎に包まれていた三番目の戦士は――
さっきまで一緒にいた【えとらんぜ】団長【アルフレド・シュヴァル】、その人だった。
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