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第二十三話 第二試合 えとらんぜ VS ブラックアックス③ 決着!

 さて、あの大斧ゴリラも覚悟を決めたようで、全力の一撃を放つべく集中している。

 斧を担ぎ上げながら目を閉じて闘気を練っているようだ。

 恐らく次の一撃は【ランドインパクト】だろう。

 さっきと同じく、岩塊や粉塵を巻き上げて、こちらにダメージを与えると共に、スキをついて大技を叩きこんで仕留めるつもりなんだろう。


 「来るなら来やがれ……」


 もうこちとらとっくに覚悟はできている。

 さっき歩美と話した作戦を確実に実行するために、頭の中で何度もリハーサルを繰り返している。


 やがて、大斧ゴリラがふうっと一息吐いた直後に両目をかっ!と見開き――


 「いくぞこらぁぁ!!!【ランドインパクト】!!!」


 大きく振りかぶった大斧を地面に叩きつける。

 一度、掘り返された地面のため、さっきよりは幾分、小規模ではあるが、こっちを殺傷するには十分な量の岩塊と粉塵が舞い上がりながら向かってくる。


 「歩美ぃ!いくよぉ!」

 「うん!【剛角牛(バッファロー)】!!!」


 ここで歩美が使用したのは、ダメージを十分の一に軽減する【牛の角を蜂が刺す(プロテクトゾーン)】ではなく【剛角牛(バッファロー)】だった。

 スキルを発動した瞬間、歩美に巨大な角が生える。

 以前発動した時よりも角が大きく立派になっているのは、レベルが上がったからだろう。


 「せーのー!!【突進】!!!」


 岩塊の嵐が迫ってきた瞬間、歩美が【突進】を使用する。

 【剛角牛(バッファロー)】を発動中のみ使用できる、相手を必ず吹っ飛ばすスキルだ。

 吹っ飛ばす相手は……私だ。

 歩美は私へ向かって突進し、その大きな角で私を上空へ跳ね上げた。



 舞い上げられる岩塊や粉塵に紛れて凄まじい速度で闘技場の上空へ飛ばされる私。

 空から見下ろすと、ちょうど歩美が迫りくる岩塊や粉塵に巻き込まれるのが見えた。

 少し離れたところで、また大斧を振り上げて力を溜めている大斧ゴリラが見える。

 どうやら奴は私が上空に飛ばされたことには気付いていないらしい。

 また粉塵が晴れた瞬間に大斧を放り投げて仕留めるつもりなのだろう。


 「よし……【火鼠(バーニングマウス)】」


 地上の状況を確認したところで【火鼠(バーニングマウス)】を使用する。

 体が炎のようなエフェクトに包まれ、ステータスが上昇すると共に、体にスリップダメージが入り始める。

 一撃目の【ランドインパクト】とさっきの歩美の【突進】で体力は大幅に減少している。

 私はそのまま落下態勢に入る。

 目標はもちろん大斧ゴリラ、もといザンジバルだ。


 「いやぁ、私って確か高いところ苦手だったんだけどなぁ」


 レベルが上がった成果か、スキル【特性:ねずみ】の効果か、ジョブ【盗賊】の恩恵か、いつの間にかこんな上空に打ち上げられても恐怖心をほとんど感じなくなっていた。

 体勢を整えながらザンジバルに向かって一直線に進む。


 (65,64,63……)


 目の前にウインドウを表示し、リアルタイムに減少していくHPをチェックしながら落下していく。

 重力のままに落ちていく私の速度はどんどん上がっていき、いつしか凄まじい速度でザンジバルに突っ込んでいく。


 いつでも攻撃ができるように【毒鼬】を手に取り体勢を整えながら、残り十メートルほどの距離まで近付いた瞬間、ザンジバルがこちらに気が付いた。


 「な、なんだぁ!?」


 一瞬の混乱の後に、放り投げるつもりだった大斧を持ち換え、迎撃態勢に入った。


 「【ハードスマッシュ】!!!」


 スキルを発動しながらこちらに向かって大斧を打ち上げてくる。


 (56,55,54……)


 私は減少していくHPをチェックしながら【毒鼬】を振りかぶる。


 「間に合えぇぇぇぇ!!!」


 私が心の底から叫んだその瞬間―― 


 『スキル【窮鼠猫を噛む(ファイナルリベンジ)】を発動しました』


 HPが一割を切ったことにより、待望のスキルが発動し、私の体に青い光のエフェクトが宿る。

 この瞬間、私の攻撃力は千倍となった。


 「おりゃああああああ!!!!!」

 「どらあああああ!!!!!」


 全力で振り上げられたザンジバルの大斧と、落下しながら振り下ろされた私の【毒鼬】が交差した瞬間――


 凄まじい衝突音と共にザンジバルの大斧が跡形もなく砕け散った。


 「なにぃ!?」


 信じられないものを見たような表情で叫ぶザンジバル。

 当然だ、今の私の攻撃力は軽く90万を超えている。

 はっきり言って桁が違うのだ。

 私の一番のぶっ壊れスキルが発動してしまえば、まず勝てるものはいないだろう。


 「がああああああああ!!!そんな馬鹿なああああああ!!!!」


 大斧を破壊し、そのまま【毒鼬】がザンジバルの肩口にめり込み、左右に両断した……というか勢いのまま吹き飛ばした。

 私は、上空から落下してきたスピードを維持したまま、さながら隕石の如く地面に衝突した。

 凄まじい轟音と共に、【ランドインパクト】で抉られた地面を更に破壊する。

 

 『スキル【泰山鳴動して鼠一匹(アブソリュートガード)】を自動発動します』

 

 ウインドウにスキルの自動発動が表示される。

 どうやら、落下による即死ダメージを無効化してくれたらしい。


 やがて、巻き上げられた粉塵が晴れていくと、衝突により発生した巨大なクレーターの中心に私はぽつんと立っていた。


 「はあ、なんとかなったか……」


 その瞬間、観客席から今までで最大の大歓声が巻き起こる。

 

 「すげえ!勝っちまいやがった!」

 「何だ?最後の一撃は!?あんな威力の一撃見たことねぇ!」

 「やっぱり【えとらんぜ】の団員は化け物揃いだぜぇ!!!」


 観客たちが思い思いの言葉でこちらを讃えてくる。

 しばらく歓声を浴びながら勝利の余韻にひたっていたが――


 「そうだ!歩美は!?」


 【ランドインパクト】に巻き込まれた歩美の安否を確認していなかった。

 急いで、最後に歩美を確認した辺りまで走っていくと。


 「み、みやこちゃーん、たすけてー」


 降り積もった砂塵に埋もれたピンク色の物体から、聞き慣れた声が響いてきた。


 「あ、歩美!無事だったんだね!」

 「まあ、ぶじっていうか、うごけないー」


 すぐに、ピンクの物体を掘り起こし、歩美を引き起こす。


 「はあ、助かったー。あのまま埋もれて死ぬかと思ったよ」

 「ありがとね、歩美のおかげで勝てたよ!」

 「いやいや二人の力でしょ!やっぱり私たちが二人揃ったら絶対に負けないんだね!」


 満面の笑みの歩美と二人で抱き合いながら勝利を分かち合う。


 そうだ、私たちは二人揃ったら絶対に負けないんだ。


 こうして、異世界での初めての対人による試合は、見事勝利を収めて終了となった。

 

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