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第二十一話 第二試合 えとらんぜ VS ブラックアックス ①

 「なんだぁ!?あの装備は?あいつら、やっぱり俺たちをなめてやがるのか!?」

 「あららぁ、綺麗なピンク色ですねぇ、あんな色の甲冑を装備した冒険者なんて初めて見ましたね……」


 ザンジバルとゴードンは、歩美の装備を見た瞬間に驚きと共に呆れたような感情を抱いてしまった。

 装備というものは冒険者の格を体現するものというのが、この世界の常識だ。

 あんな全身ピンクの装備を着用していたら、間違いなく不真面目な冒険者と印象を受けるものも少なくない。

 例え、どんな優秀な冒険者だとしてもだ。

 都はともかく、歩美の装備に関しては、そういう意味でもデメリットしかない。

 生粋の冒険者のザンジバルとゴードンはどうしてもそのような印象を抱いてしまった。

 

 「確か、【えとらんぜ】の装備を請け負ってるのは【金剛工房】の奴らだったろ!?あいつらは腕は確かなはずだ、それがあんなふざけた装備を作るようになっちまうなんて……やっぱり【えとらんぜ】と関わるとろくなことにならねぇなぁ!」

 「まあまあ、確かにあんな感じの色物装備を作るとなると評判が落ちてしまいそうな気はしますが……【金剛工房】製の装備ならば、見た目はふざけてても性能は確かなものと考えておいた方がいいかもしれませんね」


 【金剛工房】は、冒険者の中では優れた品質の装備を生産できることで名の知れた工房だ。

 増してやSランククラン【えとらんぜ】ご用達の工房ということで、他国である【マゼンティア公国】までその名は響き渡っている。

 その【金剛工房】が製作したであろう装備である。

 見た目は尖っているが、性能に関しては舐めない方が得策だろう。

 ゴードンの指摘は至極ごもっともであるが……


 「ふざけんじゃねぇぞ!!!あっちから試合を申し込んでおいて出て来るのはあんな色物かよ!!!性能もくそもあるか!!!試合が始まった瞬間、最速でぶちのめしてやるからなぁ!!!」


 完全に頭に血が上ってしまったザンジバルの耳には入らない。

 相手のスキルの詳細がわからない以上、慎重に試合に入ることが一番の得策であるのは間違いないとゴードンは考えているが、肝心のザンジバルにそのことが伝わらないし、上手く伝えられたとしても、本人に全くその気がないのではその意味がないのだ。


 (参ったなぁ……こうなったら……はぁ……嫌になるな……)


 ゴードンは最悪の事態も想定しながら、憂鬱気味にため息を吐き出した。


 ◆◆◆◆


 「あれぇ?都ちゃん、相手の人たち何か叫んでない?何だろうねぇ?」

 「あんたってある意味すごいポジティブだよねぇ……」

 「えー?そうだね、よく言われるよ!」

 「ですよねー」


 完全に相手は、歩美の装備を見て怒り散らかしているのだが、本人には全く自覚がないらしい。

 まあ、私たちの作戦的には二人揃って突っ込んで来てくれた方が都合が良いので結果オーライなのだが。

 とりあえず、私たちの得意戦法に当て込んでしまうのが一番勝率が高いのだ。

 そのためには、二人揃って突っ込んできてもらうのが有難い。

 頼むぞ、大斧ゴリラとそのお供の人よ。


 『それではこれより第二試合を開始いたします!!!』


 いよいよ、試合開始のアナウンスが始まった。

 私は【毒鼬】を、歩美は【闘斧:桃獄】を構える。

 相手の方も、それぞれ武器を構えるのが見えた。


 『第二試合ぃい!!!開始ぃいいい!!!!』


 アナウンスが叫んだ瞬間、銅鑼が鳴らされ、試合が開始された。

 その瞬間、ザンジバルが大斧を担ぎ上げてこちらに向けて突撃しようと、力を込めたのが見えたが――


 「【ダブルトマホーク】!!!」


 それよりわずかに早く、ゴードンが両手の斧をこちらに放り投げてきた。

 放たれた二つの斧はブーメランのように回転しながらこちらへ向かってくる。


 「うおっとぉ!?」


 私と歩美が二つの斧の投擲を避ける。

 私たちの方がステータスで劣っていることもあり、当たれば一撃で致命傷にもなりうる威力を秘めているが、いきなりの遠距離攻撃ということもあり、苦も無く避けることができた。

 斧は激しく回転しながら旋回し、ゴードンの手元に戻る。


 ゴードンのジョブ、上級職【双斧闘士(ツインアックスマン)】は両手斧での攻撃を得意としている。

 基本的には近接攻撃がメインであるが、今回の試合の初手としてゴードンが選択したのは、まさかの遠距離攻撃だった。

 この選択に納得がいかないのものが一人。


 「おおい!なにをみみっちい攻撃してやがんだこらぁ!!!」


 ザンジバルが目をバキバキに剝きながら、味方であるはずのゴードンへ向かって怒鳴っている。

 試合開始直後に突っ込んで瞬殺するつもりが、まさかの初手遠距離攻撃を放たれたことで、水を差されたため怒りを隠せないでいる。


 「いやぁ……あはは、つい」

 「なに笑ってやがるんだこらぁぁ!!!もう我慢ならねぇな!あいつらをぶっ飛ばした後で覚えてろよこらぁ!!!」


 一瞬の戸惑いはあったものの、ザンジバルの怒りは止まらない。

 むしろ、火に油を注ぐ結果になってしまったようで、増幅した怒りを勢いに変換し、都たちに襲い掛かろうとしていた。


 (やっぱりこれじゃぁ無理か、少しは冷静になってくれたら良いと思ったんだが……仕方がないか……)


 ゴードンは観念したかのように苦笑いを浮かべると、その足でザンジバルよりも早く都たちに突貫してきた。


 「【双斧乱舞(ツインアックスロンド)】!!!」


 両手の斧に闘気を纏わせつつ、物凄い速度で振り回しながらこっちへ向かってくる。

 嵐のように踊る二つの斧に巻き込まれれば、瞬時に小間切れにされてしまうことは間違いない。


 「な!?待てこらぁ!」


 またもや虚を突かれたザンジバルは茫然としている。

 自ら突っ込んでいくつもりが、先を越されてしまったため、動き出しが遅れてしまったようだ。

 さっきの遠距離攻撃といい、全く二人の意思疎通ができていない。

 普段冷静なゴードンらしからぬ行動の連続に、さすがのザンジバルも違和感を感じてしまっている。


 「都ちゃん!突っ込んできてるの一人だけだけど、作戦通りやっちゃうね!」

 「うん!仕方ないよ!お願い!」

 「【牛歩戦術(ディレイゾーン)】!」


 十分に引き付けてから、歩美が【牛歩戦術(ディレイゾーン)】を放つ。

 射程距離に入ったのを確認してからスキルを発動したため、即座にゴードンの動きが鈍くなる。

 さっきまで目視できないほどの速度で振り回されていた斧がまるでスローモーションのように鈍くなってしまった。


 「な……なんだとぉ!?」

 「なるほど……参ったな、これでお陀仏確定だなぁ」


 目をひん剥いて驚いているザンジバルと、冷静に自分の状況を俯瞰で見ているゴードン。

 相手の射程距離内で、こんなスローモーションな動きを晒してしまった自分に待ち受けている運命は一つしかないだろう。


 「【鼠算(インフィニットゲージ)】、【針鼠(ヘッジホッグ)】!……からのぉ【鼠花火(コンボスター)】!!!」


 ゴードンの動きが鈍くなったのを確認した瞬間に、スキルを発動する。

 今や主力となったスキルコンボだ。

 レベルが上がったことにより、【針鼠(ヘッジホッグ)】の効果も上がっている。

 両手におびただしい量の針が出現し、攻撃力を上昇させている。

 そのまま、【鼠花火(コンボスター)】の効果で体を回転させてながらゴードンへ向かって突っ込んでいった。


 「いや、まさかここまでとはなぁ……ザンジバルさんうまくやってくれるかなぁ?」


 ゴードンは自らの運命はあきらめつつ、残るザンジバルに対しての心配をしながら、都のスキルを受けた。

 回転しながら数多くの針で切り裂かれたダメージが、【鼠算(インフィニットゲージ)】の効果で雪だるま式に増えていく。

 そのまま、約十秒ほどでゴードンのHPを削り切り、ゴードンは粒子となって消えていった。


 その光景の一部始終を見ていた、闘技場の観客たちは、一瞬何が起こったか理解できず、会場に沈黙をもたらした後に、思い出したかのように割れんばかりに声援を出し始めた。


 「な、なんだ今のは!?」

 「すげー!!!あの【双斧】のゴードンを一瞬で倒しちまうだと!?」

 「ただの色物コンビじゃなかったのか!?やっぱり【えとらんぜ】は化け物揃いだぜぇ!」


 観客たちは口々に驚嘆の声を発するが、【えとらんぜ】のメンバーは冷静に状況を達観していた。


 「まずいなぁ、あれでザンジバルの奴にネタがバレちまったな」

 「ええ、本当は二人まとめて一網打尽にしたかったんだけど、あれじゃぁ対策されてしまうかもしれないわね」


 アデリナとカグヤが、心配そうにつぶやいている。

 今まで都と歩美のコンビネーションは初見の相手に対しては無類の強さを誇ってきた。

 今回の試合でも【ブラックアックス】側にはスキルの詳細はバレていないので、二人まとめて突っ込んできた場合は、歩美の【牛歩戦術(ディレイゾーン)】からの都のスキルコンボで一瞬で勝負をつけられるはずだった。

 だが、結果としてゴードンだけしか倒すことはできず、ザンジバルが残ってしまった。

 レベルやステータス的には圧倒的に向こうが上である。

 スキルに対して対策を打たれるだけで勝率は劇的に下がってしまう。

 それこそが【えとらんぜ】側がもっとも恐れていたことであった。


 「……なんだ今のスキルは?ゴードンが一瞬でやられちまうとはな……」


 不安は的中し、あれだけ激高していたザンジバルがすっかり落ち着いてしまっている。

 自らの右腕であるゴードンが、なすすべもなくやられてしまった様子を見て、さすがに頭が冷えたようだ。


 これこそが、ゴードンの命懸けの策だった。

 ゴードンは、都と歩美のスキルの詳細こそ知らないが、低レベルの割りにBランクやAランクのクエストを苦も無くクリアしてしまう新人の存在は知っていた。

 噂ではあるが、高ランクのモンスターをも一撃で葬ってしまうらしいという情報も得ていた。

 そのため、頭に血が上ったザンジバルが試合開始直後に一方的にやられてしまう可能性に関しては、誰よりも不安視していたのである。


 昔から、共に戦い続け、ザンジバルの思考に関しては熟知している。

 また、ゴードンはザンジバルの戦闘力に関しては誰よりも信頼している。

 そのため、自らが率先して突撃することにより、都と歩美のスキルの情報を引き出し、なおかつザンジバルの頭を冷やすことに成功した。


 「ちっ!ゴードンのやつめ、最初から言ってくれればわかるだろうが!」


 ザンジバルが憎々しそうに吐き出すが、言ってもわかってもらえないことをゴードンは理解しきっていた。

 頭に血が上り切ったザンジバルは誰のいうことも聞かないことを長年の付き合いでわかっていたが故の行動だったのである。


 「まあ……お前の犠牲は無駄にはしないがなぁ!!!」


 【黒斧】のザンジバルは、勝利を確信したかのような顔付きで、都と歩美を睨みつけた。


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