第十九話 第一試合 斬姫 VS 紅蓮魔導士
【ダルシアン闘技場】ではとある試合が始まろうとしていた。
本日予定されている三試合の内の第一試合、【ダルシアン王国】所属の冒険者 対 【マゼンティア公国】所属の冒険者の戦いのゴングが鳴ろうとしていた。
既に会場には満員の観客が入っておりボルテージが最高潮に上がっている。
私たちも試合を見学するために闘技場の袖に移動してきた。
『ダルシアン闘技場へお越しの皆様ぁ!!!本日はよくぞお越し頂きましたぁ!!!【ダルシアン王国】対【マゼンティア公国】の対抗戦!!!これより第一試合を開始いたしまぁす!!!』
会場内に大音量のアナウンスが流れ始める。
……ていうかここってアナウンスまでいるの?
異世界だよね?
あのマイクってどうやって動いてるの?魔法か?魔法なのか?
『それでは早速、選手に入場して頂きましょう!!!赤の門から入場してくるのはぁぁ!!!【マゼンティア公国】からはるばるやってきたぁ!!!Aランククラン【爆炎師団】所属ぅ!!!【灼熱】のブランドルゥゥゥ!!!』
赤コーナーから入場してきたのは、深紅のマントを羽織った魔導士風の男。
男が両手を天にかざした瞬間、巨大な爆炎が舞い上がり、その光景を目にした観客たちから大歓声が上がる。
【灼熱】のブランドル、炎関連のスキルを所持するものばかりが集まった【爆炎師団】においてエース格と言われる猛者である。
ジョブは【紅蓮魔導士】、様々な炎の魔法を扱い、数々の強敵を焼き尽くしてきた、凄腕の冒険者だ。
「……ふん、無駄に騒がしいな、まあすぐに俺の炎で黙らせてやるさ」
【灼熱】のブランドルは不適に笑いながら試合の相手を待つ。
『続きましてぇ!!!青の門から入場してくるのはぁぁ!!!【ダルシアン王国】の精鋭集団!Aランククラン【ライジングフォース】所属ぅ!!!【斬姫】ニーナァァァ!!!』
アナウンスが名前を呼んだ瞬間、会場のボルテージが一気に最高潮に達し、爆音のような歓声が上がる。
反対側の青コーナーから入場してきたのは、アイドルのような衣装を身を纏った美少女だった。
姿を現した瞬間、ファンであろうか、大歓声に交じって黄色い歓声が飛び交い始めた。
その美少女は一見してアイドルの姿には似つかわしくない背の丈ほどもある大剣を担いでいる。
その美少女が声援を送る観客席に手を振りながら入場してきた。
【斬姫】ニーナ、【ダルシアン王国】においてトップクラスの勢力を誇る【ライジングフォース】において、若手の中では抜きん出ていると噂されている実力派の冒険者だ。
比類なき美貌を誇りながら、実力も【ダルシアン王国】のトップクラスに分類されるため、【ダルシアン王国】内外に数えきれないほどのファンを持つ。
「さあて、いっちょやったりますか」
ニーナは舌なめずりをしながら、試合相手のブランドルを見つめる。
『さて、両者出そろったところで、ルールの説明を行います!!!』
アナウンスによるルールの説明が入った。
・試合会場は特殊な結界に囲まれている。
この結界の中では、万が一、死亡に繋がる傷を負った場合は即座に回復されるが、試合会場外へ飛ばされ、その場で負けとなる。
・結界は非常に強固であり、観客先への攻撃は全て防がれる。
・道具の使用は禁止されている。装備やアクセサリーの類は問題無く使用できる。
要約するとこんな感じだった。
なるほど、ちゃんとこの試合では死人とか出ないようになってるんだな。
それなら安心だ。
『それでは、第一試合を開始いたします!!!』
アナウンスに合わせて両者が戦闘準備に入る。
ブランドルは両手に炎を纏い相手に手の平を向けている。
ニーナは背中の大剣を手に取り、上段に構えた。
『第一試合ぃい!!!開始ぃいいい!!!!』
アナウンスの合図と共にガァァァァンという銅鑼の音が爆音で鳴らされ、試合が開始された。
――その瞬間、爆発音と共に闘技場の中央に巨大な火柱が舞い上がる。
ブランドルが強力な炎の魔法を放ったようだ。
凄まじい轟音が響き渡り、辺りは熱気に包まれる。
一瞬これではニーナの生存は絶望的では?と観客たちが考えた刹那――
一筋の剣閃が走り、火柱を両断する。
「ぬう!?」
ブランドルが驚きながら咄嗟にその場から後ろに飛び去った瞬間に目の前を剣の切っ先が通過した。
「あれー?確かに首を斬り飛ばしたと思ったのになー?」
あれだけの炎の中を無傷で切り抜けたニーナ、あどけない笑顔を振りまきながらも凄まじい殺気を放っている。
「凄いですね、ブランドルって人の魔法も凄かったですけど、あのニーナって人の動きも全く見えませんでした」
「まあ、二人ともそれぞれの国の代表に選ばれるくらいの冒険者だしね。さすがにこんな大規模なイベントに変な冒険者は連れてこないわよ」
アデリナさんの言葉に、私たちは大丈夫なのか?と疑問が湧いたが口には出さなかった。
そうこうしているうちに試合は新たな局面を迎えそうだ。
「次はこっちからいきますよー!【風刃乱舞】!!」
ニーナが大剣を物凄い速度で何度も振り抜く。
その度に巨大な風の刃が発生し相手に向かっていく。
数え切れないほどの刃が格子状に飛んでいき逃げ場を無くす。
このままではブランドルに小間切れになる以外の未来は存在しないように思えたが――
「【火蛇豪炎流】!!!」
ブランドルが両手に炎を纏い、闘技場の床に打ち付ける。
その瞬間、足下が割れ、二匹の炎の大蛇が出現した。
炎の大蛇はそのままブランドルを守るように立ちはだかり、全ての風刃を消滅させた。
幾重もの刃で体を削られ、幾分小さくなったが、ブランドルはそのまま炎の大蛇をニーナへけしかける。
「……やりますねぇ!」
二匹の炎の大蛇の攻撃を身を翻しながら避ける。
上手くに攻撃を避けたが、まるで本当に生きているかのようにしつこく襲い掛かってくる。
「ええい!うっとうしい!【瞬殺横一文字】!!!」
ニーナが目にも止まらぬ速さで横薙ぎの剣撃を放つ。
凄まじい剣閃が炎の大蛇たちを斬り裂き、消滅させた。
「スキありぃ!【獄炎刃】!」
そこへブランドルが炎の剣を出現させて突っ込んできて斬り掛かる。
ニーナは咄嗟に大剣で受けるが、体勢が悪く弾かれてしまう。
大きく仰け反ってしまったニーナにブランドルが迫る。
「とどめだぁ!【炎魔爆龍覇】!!!」
恐らくブランドルの必殺技であろう、巨大な炎の龍がニーナを嚙み殺さんと大口を開けながら突っ込んでいく。
炎の龍はそのままニーナを飲み込み焼き尽くそうとして……爆散した。
そこには、髪の毛を逆立て凄まじい形相でブランドルを睨み付けるニーナがいた。
「……ふう、ふう、【狂化形態】発動!!」
一瞬で姿が消えたと思った次の瞬間、ブランドルの背後で剣を構えているニーナがいた。
「なにぃ!?【爆炎弾】」
咄嗟に炎の魔法を放つが、ニーナが剣を振り抜く方が一瞬早く、ブランドルの右腕が宙を舞った。
片腕を失いながらも全力で回避し、何とか致命傷を免れ距離をとった。
「貴様ぁ、許さんぞ……」
「はぁ……はぁ……この姿になっちゃうと手加減できないんだからねー、気を付けてよ!」
そう言いながら、大剣を上段に構えるニーナ、その大剣に風が集い始め、螺旋状の竜巻のような状態を作り出す。
いつしか竜巻は目視では確認が難しいほどに加速している。
「ふん……これだけは使うまいと思っていたがな……【召喚・火炎魔神】
ブランドルを中心に禍々しい魔法陣が展開され、そこから巨大な炎を纏った魔神が出現してきた。
『ガアアアアアアアアアア!!!!!』
凄まじい咆哮を上げた瞬間、周囲に炎の渦が巻き起こる。
やがて、その魔神はブランドルの背後で力を蓄え始めた。
どうやらお互い、奥の手を発動し、次の一手に勝負を賭けるようだ。
「【狂化・修羅風刃】!!!」
「焼き尽くせぇ!!!【火炎魔神】!!!」
闘技場の中心で巨大な風の刃と、炎を纏った魔神が激突する。
凄まじい爆発音と暴風が吹き荒れ、強固な結界で守られている観客たちも身をすくめてしまっている。
二人の冒険者の奥の手同士の激突は、この世のものとは思えないほどの光景を作り出してしまった。
……やがて、激突によって発生した粉塵が落ち着き、闘技場の視界がマシになってきた時に目に飛び込んできたのは。
体を両断されたブランドルと……
大剣を力の限り振り抜いた状態で、何とか立っているニーナの姿があった。
『第一試合、勝者!【斬姫】ニーナァァァァ!!!!』
アナウンスが勝利を告げた瞬間、会場に割れんばかりの大歓声が響いた。
「ふう、またつまらぬ物を斬ってしまった」
妙なセリフを吐きながら大剣をしまうニーナ。
【ダルシアン王国】と【マゼンティア公国】の対抗戦の第一試合は、【ダルシアン王国】の【斬姫】ニーナに軍配が上がった。
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