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第十六話 【黒斧】のザンジバル

 翌日、【えとらんぜ】のメンバー六人で冒険者ギルドを訪れた。


 目的は、昨日に保留となったクエストの報酬の確認ともう一つ。

 今回のクエストでレベルが100を超えた大河くんの上級職へのクラスチェンジも目的に含まれていた。


 まずは、昨日のクエストの報酬の確認をおこなう。


 「大変お待たせしました。それでは、今回のクエストの報酬はこちらになります」


 そういって受付嬢はカウンターに大量の札束を並べた。


 「今回の報酬は百二十万ゴールドです。お納めください」


 ひゃ、百二十万ゴールド!?そんなにもらえるの!?

 

 ……いや、よく考えたら、キングリザード討伐のクエストで報酬は三万ゴールドだった。

 同じBランクモンスターのレッドトロールを十数体、そしてその親玉でAランクモンスターのギガントトロールも倒したんだ、それくらいはいくのか?


 「一応、クエスト達成の正規報酬に加えて、ボーナスとして、かなり報酬が追加されておりますので」

 「ああ、いつもありがとう、確かに頂いていくよ、これからもよろしくね」

 「これはこれはアルフレド団長、お久しぶりですね、いつもありがとうございます」

 「まあ、たまにはギルドにも顔を出しておかないとね。最近はギルドになにか変わったことはなかったかい?」

 「はい!それは大丈夫です」

 「うん、それはよかった、なにか問題が起こったらすぐに伝えておくれよ」


 アルフレド団長と受付嬢がにこやかに挨拶を交わした後に、私たちはもう一つの用事を済ますことにした。

 大河くんの上級職へのクラスチェンジだ。

 今回のクエスト達成によって、大河くんのレベルが100を超えたことにより上級職へのクラスチェンジが可能となったのだ。


 「さて、次は大河くんのクラスチェンジなんだけど、クリスタルを準備してくれる?」

 「はい!少々お待ちください」


 受付嬢がカウンターへクラスチェンジ用のクリスタルを設置する。

 大河くんがクリスタルに手を触れると、ウインドウが出現した。


 『下級職【拳闘士】から上級職へクラスチェンジが可能です。クラスチェンジ可能な上級職は……【魔拳闘士(マジックグラップラー)】、【大拳闘士(ハイグラップラー)】、【鉄拳闘士(アイアングラップラー)】です。どの上級職へクラスチェンジしますか?』


 ウインドウには三つの上級職が候補先として提示されたようだ。


 「【魔拳闘士(マジックグラップラー)】は、魔法も使用可能な【拳闘士】って感じですね、魔法の力を体に宿して攻撃可能なスキルを習得できます。【大拳闘士(ハイグラップラー)】は、現在の【拳闘士(グラップラー)】の上位互換だと思ってください。格闘術などにさらに強力な補正がつきます。【鉄拳闘士(アイアングラップラー)】は、拳での攻撃に特化したジョブですね、蹴り技などは使えなくなる代わりに、拳での攻撃に大きな補正がつきます」


 受付嬢が提示された上級職の解説をしてくれた。

 なるほどな、上級職といってもそれぞれ特徴があるんだな。

 大河くんはどれを選ぶんだろう?

 

 しばらく、考え込んでいた大河くんがやがて口を開いた。


 「決めました。僕は【大拳闘士(ハイグラップラー)】にクラスチェンジしようと思います」


 大河くんが選んだのは【大拳闘士(ハイグラップラー)】だった。

 【大拳闘士(ハイグラップラー)】は確か、今大河くんが就いている【拳闘士(グラップラー)】の上位互換と説明されていた。


 「僕には【特性・とら】のスキルがあるので、魔法の拳とか、蹴り技を制限されるとなると、逆に戦いにくくなっちゃいそうなので……」

 「うん、僕もその考えには賛成かな。今の大河の戦い方をそのまま強化できるという点ではベストな選択だと思うよ」


 アルフレド団長のお墨付きも出たため、大河くんは【大拳闘士(ハイグラップラー)】へとクラスチェンジすることが決定した。


 『下級職【拳闘士(グラップラー)】から上級職【大拳闘士(ハイグラップラー)】へとクラスチェンジを行います。実行しますか?』


 大河くんは迷わず『YES』と選択する。


 すると、大河くんの体がまばゆい光に覆われ始めた。


 ……やがて、光が収まりクラスチェンジが無事に完了したようだ。


 虎走 大河

 ジョブ : 大拳闘士(ハイグラップラー)

 レベル : 101

 HP : 1468

 МP : 1040

 攻撃力 : 1413

 防御力 : 1004

 素早さ : 1521

 魔法力 : 920

 スキル : 【特性・とら】

       【格闘術レベルМAX】 

 


 大河くんが無事にクラスチェンジを終えたようだ。

 ステータスが軒並み大幅に上昇している。

 大河くんの暴れっぷりにこれから更に拍車がかかると思うと胸熱である。


 「ねえねえ、都ちゃん」

 「ん?どうしたの歩美」

 「いや、私たちも上級職になれたとしたらどんなジョブが候補になるんだろうね?」

 「そうだね、歩美は今は【斧闘士】だから【大斧闘士】とかじゃないの?」

 「なるほど!じゃあ都ちゃんは【盗賊】だから【大泥棒】だね!」

 「だれが大泥棒やねん」


 いや、実際に有り得るのか?

 だとしたら由々しき事態じゃないか、誰が【大泥棒】なんてジョブにつきたいんだ。

 そんな奴が世界を救えてたまるか。

 ……でも一応心構えだけはしておくか、実際そうだったとしたらショック大きそうだし。


 「はい!これでクラスチェンジは終了です、お疲れさまでした」


 そんなことを考えていたら受付嬢がクラスチェンジの終了を告げる。


 「せっかくだから、なにかクエストを受注され――」

 「ゴラアアアアアア!!!!」


 受付嬢が話そうとした声をかき消すように怒号が聞こえた。

 なんか最近こんなパターンなかったか?

 みんなで振り返ると、そこには二人の男性が立っていた。

 一人は黒髪の大柄な男性、もう一人は金髪のひょろっとした小柄な男性だ。


 「おいこら【えとらんぜ】!!!この前はうちのもんが世話になったのう!」


 大柄な男性の方が凄まじい音量でがなり立てている。

 その男性は全身黒い鎧をまとっており、背中に巨大な大斧を担いでいる。

 

 「……あ!?あなたは、ザンジバルさん!?」


 受付嬢が驚いたように名前を呼ぶ。

 そうするとその男は腕組をしながら名乗り始めた。


 「いかにも!俺はザンジバル……クラン【ブラックアックス】の団長にして、【千の武器(サウザンドアームズ)】の七番隊隊長、【黒斧】のザンジバル様よぉ!!!」


 その男は顔を決めながら大声で【黒斧】のザンジバルと名乗った。

 私がその男を見て最初に感じたことは……(濃いなー)だった。

 何というかこの男、全体的に物凄く濃い、顔も声も表情も、なんていうか全てが濃いのだ。

 

 「ああ?なんだてめーは?【ブラックアックス】の団長が何の用なんだ?」


 カグヤさんが眉間にしわを寄せながら詰め寄る。

 あんな大男に全く気後れしないカグヤさんには本当に尊敬しかないな。

 

 「とぼけんじゃねえぞコラァ!!!うちの若いもんが五人ほどお世話になったんだろうがぁ!?俺はその時のケジメをつけにきたんだよぉ!!!」


 相変わらずとんでもない音量で怒鳴り散らしながら、背中の大斧をどん!と床に突き立てた。

 あーあ、ギルドの床にあんな傷をつけて、怒られるぞ……

 濃いだけじゃなくて、無礼なのか、野生のゴリラみたいだな。

 お前のことは「大斧ゴリラ」と名付けよう。

 


 「あの?ザンジバルさん?うちの床にそんな傷をつけてどうなるかわかってるんですよね?」



 案の定、受付嬢がこめかみをピクピク震わせながら問い詰める。

 途端に周囲の空気が張り詰めるのを感じる。

 すると、今の今まで一言も発してなかったもう一人の男が間に入り込んできた。


 「も、申し訳ないですぅ!!ザンジバルさんは、頭に血がのぼると周りが見えなくなっちゃいまして!ちゃんと床は弁償しますんで、どうか勘弁してもらえないでしょうか!?」


 慇懃無礼を地でいくような大斧ゴリラとは対象に、その男はものすごく腰が低かった。

 元々小柄な体型ではあるが、腰が低いためにさらに小さく感じてしまう。


 「おい、アッシュ!仮にも【千の武器(サウザンドアームズ)】の六番隊隊長がこんな奴らにペコペコしてんじゃねえぞコラァ!」

 「いやいやザンジバルさん、ギルドに喧嘩売ってどうするんですか?ギルドは各クランに対してあくまでも中立、そのギルドに嫌われたら、親分たちにも迷惑をかけてしまいます、ほらはやくザンジバルさんもあやまって!」


 アッシュと呼ばれた小柄な男は、大斧ゴリラに謝罪を促す。

 なんだろうこの凸凹コンビは、このアッシュっていう人も【千の武器(サウザンドアームズ)】っていうところの隊長らしいけど、【千の武器(サウザンドアームズ)】っていったい何なんだろう?


 「ああ、君は【千の武器(サウザンドアームズ)】の六番隊隊長、【毒鉈】のアッシュくんだね?一度クラン同士の会合で見たことがある。クラン【ポイズンエッジ】の団長でもある君までいったいどうしたんだい?」


 アルフレド団長が二人に話しかける。

 どうやら、二人とは面識があるらしい。


 「いえいえ、ザンジバルさんがどうしても【えとらんぜ】に対して言いたいことがあるっていうから、心配になって付いてきたんです。案の定、こんなことになって申し訳ないっていうか……」

 「だから、あやまることはないって言ってんだろうが!俺はこいつらに対してケジメをつけにきただけなんだからよぉ!」


 大斧ゴリラを諫めようとするアッシュと、そのアッシュをさらに怒鳴りつける大斧ゴリラ、この凸凹コンビのやり取りに業を煮やしたかのようにアルフレド団長が言葉を続ける。


 「ザンジバルくんだっけ?先日のギルドでの一件のことはアデリナから聞いているよ、確かにうちの団員とそちらの団員でいざこざがあったのは事実のようだね」

 「ああ!そいつらがうちの若い奴らを一方的にぶちのめし――」

 

 「ただし」


 大斧ゴリラが一方的に大声で主張をしようとするところを、アルフレド団長の低くよく通る声が遮る。


 「先に因縁をつけてきたのはそっちだ、うちの団員を獣臭いと侮辱したのもそっちだ。あまつさえ、そっちの団員はアデリナとカグヤに勝てないとわかると、入団したばかりの新人たちに手を出そうとしたと聞いている。どちらに非があるのかは明らかだと思うが?」

 「っぐ!だがよう、先に手を出したのはそっちだろうが!」

 「確かに先に手を出したのはこちらかもしれない、その点のみ(・・)詫びよう。だが、【えとらんぜ】の大事な仲間を獣臭いと侮辱したことは許せない、そっちも謝罪するのが筋だと思うが?」

 

 アルフレド団長に冷静に、だが力強く指摘されぐうの音も出ないようだ。

 顔を真っ赤にしてプルプル震えている。


 「まあ僕も君たちのところのボスとも知らない仲じゃない、どうしても謝罪したくないというのならば…

…そうだね、こうしようか?うちの新人二人と試合でもしてみるかい?」


 ……はい?

 今なんとおっしゃいました?

 こんな強そうな人たちと私たち二人で試合ですと?



 「こんな小娘どもと試合だあ!?自分が何をいってるのかわかってんのか!?」



 大斧ゴリラが目をバキバキに剥き出しながら吠えている。

 おう、その通りだ、アルフレド団長へバシッと言ってやってくれ。


 「もちろんわかってるさ、君ともう一人……そこのアッシュくんでもいい、こっちの都ちゃんと歩美ちゃんとの二対二の試合さ、それでお互い白黒を着けようじゃないか」

 「俺がこんな小娘どもに負けると思ってんのか!?俺をなめてんじゃねえだろうなぁ?」

 「いやいや、なめてないさ、ただし条件がある。一つは、試合を行うのは一週間後、もう一つは【ダルシアン闘技場】での正式な試合として執り行うこと、この二つが条件だ」

 「……本気なんだな?」

 「ああ、もちろん本気だよ、【えとらんぜ】団長の名にかけて、正式に試合を申し込むよ」


 大斧ゴリラはしばらく考え込み、やがて結論を出したようだ。


 「……わかった、だが後悔すんじゃねえぞ、俺はこんな小娘とはいえ手加減はしねえからな!」

 「こっちも全力で戦うことを誓うよ、もう一人はそこのアッシュくんが出るのかい?」

 「いいえ、私はやめておきます。もう一人はザンジバルさんの【ブラックアックス】から選出されては?」

 「ああ、俺もそのつもりだ。よし!それじゃあ詳細な日時はうちのクランハウスへ連絡をよこしやがれ!帰るぞアッシュ!」


 話し合いの内容に満足したのか床に突き立てていた大斧を再び背にかつぎ、ギルドを出て行こうとする大斧ゴリラとその後を追おうとするアッシュ。


 「待ってください!……ああ、床の修繕費は【ブラックアックス】まで回してくださいねぇ!それでは失礼いたしますね!」


 最後まで全方位に謝罪しながら去っていくアッシュ、あの腰の低さは見習うものがあるかもしれない。

 あの人とはそのうち仲良くできるかもしれないな。


 そして、二人がギルドを去った瞬間、アルフレド団長へ全力で異議を唱える。


 「いやいやいやいや、アルフレド団長!なんで勝手にあんなこと決めちゃうんですかぁぁぁぁ!!!あんな大男なんかと試合とか!しかも【えとらんぜ】を代表してなんて、すごい責任重大じゃないですかぁぁぁぁぁ!!!」


 心の底から声を絞り上げながらアルフレド団長へ詰め寄る。

 なぜ私たちが【えとらんぜ】を代表して決闘なんてしなきゃならないのか、そもそも私たちが勝てるわけないじゃないか!

 無茶な約束なのは明白だ。


 「いやいや、二人の力なら絶対に勝てるさ、あと一週間、順調に成長してくれさえすれば全く問題ないよ」

 「ええ、私もそう思うわ、二人なら絶対に勝てると思う」

 「あたしも同感だ、二人とも【えとらんぜ】を代表して試合するんだ、無様な姿は見せるんじゃねぇぞ!」


 アルフレド団長、アデリナさん、カグヤさんの三人は私たちの勝利を確信しているようだ。

 唯一、大河くんだけが憐みの眼差しをこちらに向けているように見えるが……


 「だが、そのためにはあと一週間、死ぬ気でレベルアップしなければならない、早速今日からクエストを受注しまくろう、目標レベルはとりあえず50だね」

 「よし!それじゃあ新しいクエストを受注しようかしら!」

 「ああ!とりあえずギルドにある中で一番厳しいBランククエストを頼む!」



 ここから怒涛のクエスト地獄が始まり、私と歩美の最も長い一週間が始まるのであった……

 

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