第十三話 やるぜ、Aランクモンスター!
そいつらは突然現れた……
山奥から突然聞こえてきた咆哮に身構えた私たちの耳に、さっき聞こえたのと同じようなズシンズシンと響く音が聞こえてきた……しかも複数だ。
「これは……さっきとおなじような!?」
「たしかこの音は、レッドトロールの足音なんじゃ!?」
私は歩美と顔を見合わせる。
倒したはずのレッドトロールの足音が再び聞こえてくる、しかも数が増えている。
……その答えはたった一つだろう――
現れたのはレッドトロール……しかも十体以上いる。
さっき倒したのと同じくらいの大きさのレッドトロールがそこら中から出現してきた。
「まさか、レッドトロールの群れとはな。初めて見たぜ」
「ええ、私もトロールたちは基本的には群れないものだと思ってたんだけどね」
いやいや、さっき頑張って倒したのにまたこんなに溢れてくるとか、もう勘弁してください。
「まあ、さすがに都たちにあいつら全員まかせるのはかわいそうだな」
「ええ、まあ一匹倒した時点でノルマはクリアだから、後はこっちで対処してしまいましょうか」
おお、さすがにあの数のレッドトロールを私たちに倒せとは言わないらしい。
いやードキドキしたわー。
……とその時、レッドトロールの群れの奥の方から一際大きなモンスターが現れた。
見た目はトロールに似ているが、サイズが二回りほど大きく、肌はグレー色で頭上には立派な角が生えている。
明らかにトロールたちのボスといった感じの個体だ。
「あいつは……ギガントトロールだと!?こんなところに出現するとは……」
「ええ、トロール族の長と呼ばれるほどのモンスターがなぜこんなところに?」
やっぱりあいつ、ボスじゃんか。
せっかく後はアデリナさんとカグヤさんが何とかしてくれると思ってたのに、何でこんなところで出てくるんだ、話がややこしくなるじゃないかまったく!
「Aランクのモンスターが背後に絡んでるとはな、受注したのがあたしたちでよかったぜ」
「最近のレッドトロールの不可思議な行動もあのギガントトロールの仕業でしょうね、さっさと倒してしまわないと、どんどん被害が大きくなるわ」
そう言いながら、アデリナさんとカグヤさんがアイテムボックスからそれぞれの武器を取り出した。
アデリナさんの武器は、巨大なライフルみたいな銃だった。
いや、この世界にも銃とかあるんすか……
ここってファンタジー系の世界だと思ってたんですけど自分の勘違いですかね。
こんなに近代的っぽい武器が出てくるなんて思わなかったですはい。
カグヤさんの武器は、二振りの剣だった。
剣を鞘から取り出すと、見事な金色と銀色の二色の刀身が現れた。
二刀流の状態のカグヤさんはそれはもう強そうで、誰よりも何よりも頼もしかった。
「さて、他のレッドトロールたちは私たちが片付けるから……」
「三人は、あのギガントトロールを倒しちまいな」
……はい?聞き間違えたかな?
たったいま、ものすごい無茶ぶりを受けたような気がする……
「えっと……たしかあいつってAランクのモンスターでしたよね?」
「ええ、それがどうかした?」
「いやいや、私たちだけであいつを倒せるわけないじゃないですか!?」
「大丈夫よ、大河くんもいるからね。大河くんのステータス的にはAランクモンスターをじゅうぶん相手にできるレベルなんだから」
……なんだ、それなら大丈夫か。
ってなるわけないでしょうが!
心の中でどれだけ突っ込みを入れても状況は変わるはずもなく。
私たちは急遽Aランクモンスター、ギガントトロールを退治するはめになった。
ちくしょうめ、やっぱり異世界半端ないぜ。
「都ちゃん、大丈夫だよ、大河くんもついてくれてるし、絶対に勝てるよ」
「歩美……ええ、そうね、そうだよね、絶対に勝てるよね」
歩美が微笑みながら話しかけてきてくれた。
そうだよね、前のキングリザードの時も歩美はこんな感じで気を使って話しかけてきてくれた。
私の方が冷静に振舞わなきゃいけないのに、なにやってるんだまったく。
歩美の言葉で少し頭が冷えた私は、レッドトロールの群れを引き連れてこちらに迫って来るギガントトロールをまじまじと見据える。
改めて見ると、やはり他のレッドトロールたちとは、全然雰囲気からして違う。
見た目、威圧感と他のレッドトロールとは桁が違う。
そのギガントトロールがふと立ち止まり、右手に持っている巨大な棍棒を上に掲げだした。
……何をするのかと訝しんでいると、やがてその棍棒を振り下ろしながら巨大な咆哮をあげた。
すさまじい音量の咆哮が発せられると同時に、他のレッドトロールたちも各々が咆哮をあげながら、こちらへ向けて走り出した。
「……さっきの咆哮は突撃の合図か!いいな、三人は真っ直ぐにギガントトロールを目指せ!」
「他のレッドトロールは私たちにまかせてちょうだいね!」
アデリナさんとカグヤさんがそれぞれ武器を構えて臨戦体勢をとる。
そういえば、二人が本格的に戦うところを見るのは初めてだな。
「よし、頼むぜ【金星】、【銀月】」
まずは、カグヤさんが両手に持った剣を胸元で交差させながら、意識を集中している。
「【二兎を追う者は一兎を得ず】」
以前、町の路地裏で見たことのあるスキルを使用し、二人に分身する。
「「さて、いくぜぇ!」」
そのまま、レッドトロールたちへ向かって突っ込んでいく。
「おらぁあああああああああ!!!」
まず、一番手間のレッドトロールの頭上へジャンプし、顔面へ向かって斬撃を交差させる。
顔の真ん中から十字に切断させたレッドトロールが、断末魔をあげる間もなく瞬殺されてしまった。
――と思えば、即座にもう一人のカグヤさんが二体目のレッドトロールへ襲い掛かり、喉元へ剣をつきたて絶命させる。
……はやい、はやすぎる。
あの頑丈なレッドトロールを一撃で倒してしまうことにも驚くが、それ以前に動きが人間業じゃない。
しかも二人いるし……
そうこうしているうちにどんどん数を減らしていくレッドトロールたち、このままいけばすぐにでもギガントトロールを残して全滅させてしまいそうだ――
なんて思っていたら、ドン!という音が響き渡り、一体のレッドトロールの頭が吹き飛ばされたのが見えた。
……え?何が起きたの?
その後もドン!ドン!と重みのある音が響き渡るたびにレッドトロールの一部が吹き飛ばされ、倒れ伏していく。
その音の発生源はもちろん……アデリナさんだった。
銃についているスコープのようなものを除きながら、低い姿勢で銃を構えたアデリナさんが引き金を引き絞るたびに、ドン!という鈍い音が響き渡り、弾丸が発射される。
前線でカグヤさんが尋常じゃない速度で暴れまわり、要所要所でアデリナさんが狙撃で仕留める。
本当に恐ろしいコンビネーションだった。
「さて、あとはカグヤだけでじゅうぶんね。そろそろ都ちゃんたちもあいつのところへ向かった方がいいわよ?」
何匹か仕留めたあとに、スコープから目を外したアデリナさんがこちらに向かって笑顔で告げる。
あんなに大量のレッドトロール相手にもこんなに余裕があるなんて……
これだけでもいまの私たちとの実力差が如実に表れていると感じてしまった。
「よし!そろそろあいつのところへ向かいましょう!都さん、歩美さん!僕についてきてください!」
大河くんが頼もしい声を張り上げながら、ギガントトロールへ向かって走り出した。
……こうなったらやるしかないな。
Aランクモンスターとやらの実力を見せてもらおうじゃないか!
私は心の中で決めゼリフを唱えながら、大河くんの後ろについて駆け出した。
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