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水の魔物  作者: たかまち ゆう
第五章 王都からの客人 

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5-6. 疑問

「君にも、君のことをいくつか訊きたいんだけど……」

 シュタウヘンがエルフューレの正面に座りながら言うと、エルフューレは頷いた。

「構わナイ」

「君は、『水の魔物』?」

「ソウ呼ぶ者もイるようだナ」

「人を襲った?」

「泉に近づくニンゲンを追い返したコトは、たくさんアる」

「何のために?」

「オマエも聞いたハズだ。モニムがソコにいるコトを、誰にも知られたくナかった」

「ディパジットで誰かを殺したそうだね?」

「カイビという男だ。モニムの胸に穴を開けた。ワタシは同じコトをしたダケだ。他にも襲ってきたヤツラはいたが、そっちは地下に閉じ込めておいた」

「ふむ……。では、『奇跡の泉』の伝説を知っているかい?」

「ああ。ワタシが、ヒトの怪我や病気を治せるのは事実だ。だが、ワタシが治したのは四人だけだ。一人目がモニム。二人目は、コノ村にかつて住んでイた、ジルという男。三人目がダルシア・サークレードで、最後がクラムの曾孫だ。ソノ割に、話が広く知れ渡ってイるようで、驚いた」

「ふうん……? まあ、噂の伝達経路は別に調べるとして、君が人の命を救ってきたというのは本当のようだね」

(……でも)

 ウエインは、話を聞きながら思う。

(エルは、父さんを……)

 だがシュタウヘンの前でそれを言う気にはならず、仏頂面で黙っていた。

「ダルシアの命を救ってくれたというのも、本当のようだね。彼女の友人として礼を言うよ。どうもありがとう」

「友人?」

 思わず、ウエインは呟いた。

 シュタウヘンは苦笑する。

「そうだよ。僕達は今までも、これから先も、ずっと友人だ。大切な、ね」

「……そうですか」

「うん。とりあえず、僕はディパジットの件を片付けようと思う。今からその隣村の宿へ行くよ。モニムさんの護衛には、他の隊員を二人つける。もっとも、ディパジットの奴らも、我々とすぐに事を構えるつもりはなさそうだったけどね」

 そう言い残し、シュタウヘンは部屋から出て行った。本当に今すぐ隣村へ向かうらしい。

 見送ろうと思ってついてくと、彼は家を出る前に居間へ顔を出し、

「ダルシア、俺は今から出かけるから。モニムさんのこと、しばらく頼む」

 などと声をかけている。

「気軽に言ってくれるわね。まあ、構わないけど」

 母がごくあっさりと了承したので、ウエインは仰天した。そんな調子で大丈夫なのだろうか。

 だが、呼び止める暇もなく、シュタウヘンは家を出ていってしまった。

「はあ……、なんだか凄いな、あの人」

 呟くと、居間を出てきたダルシアがにっこりと笑った。

「でしょう? 私とイスティムの、自慢の友達ですもの」

 それから、ふと表情を改める。

「……ねえ、ウエイン。あなたはどうして、モニムさんを(うち)へ連れてきたの?」

「え? いや、なんというか……」

 流れで、と一瞬答えかけたが、すぐに思い直す。

「父さんと、約束したから」

「イスティムと? あの()を守れって?」

「いや……」

 そうではない。父は、ダルシアを大切にしろ、と言ったのだ。自分はモニムのところに行くから――これは口にしなかったが、つまりはそういう意味だったのだと思う。

 ウエインは、父と自分との約束を果たそうとしているわけではないのだ。

 父とモニムとの、果たされなかった約束を、代わりに果たそうとしている。

 だが、母にそれを言っても傷つけるだけだ。

 もちろん、言うつもりはなかった。

「まあ、そんなところかな……。そんなことより母さん、騎士団にいたって本当? さっきシュタウヘンさんから聞いて、びっくりしたよ」

「本当よ。今じゃ現役の頃のような訓練はしてないから、だいぶ力も落ちたと思うけど、まだまだあなたには負けないわよ」

「まさか」

 ウエインは笑った。母の冗談だと思った。

「あら、信じてないわね?」

 ダルシアは口元に笑みを浮かべ、廊下を奥へ歩いて行った。自室に入り、手に何か長い物を持って戻ってくる。

「母さん、それ……」

 戻ってきた母の顔に、もはや笑みはなかった。

 その手に握られていたのは――、一振りの剣。

 ダルシアは無言で、その剣を鞘から抜いた。

 意外にも、剣はウエインが父から受け継いだものよりかなり太い。その分長さはやや短いが、重量はかなりあるだろう。

 だが、構えられた剣先は少しもぶれない。

「……!」

 殺気はない。しかし静かな闘志があって、ウエインは正直、気圧された。

「あなたも抜きなさい。それとも、負けを認める?」

 ダルシアの口元に、また笑みが浮かんだ。

 だが、目は笑っていない。

「なんで……。やめようよ、こんな狭いところで……」

「狭くちゃ戦えないの? じゃあ、狭い場所であの娘が殺されそうになってたら、放っておくの?」

「え?」

「あなた、『泉』へ行ったのね? そこであの娘に会ったんでしょう。……あの娘が、イスティムを殺した」

 低く、恨みに満ちた声で、ダルシアが呟くように言った。

「――違う!!」

 ウエインは強く否定したが、ダルシアが信じた様子はなかった。その目には、紛れもない憎悪が浮かんでいた。

「違うはずないわ。ジークはあの娘がイリケ族のただ一人の生き残りだと言ったわよ」

「どうして、イリケ族だと父さんを殺したってことになるの!?」

 ウエインが叫ぶと、ダルシアは初めて少したじろいだ。

 だが、

「……。とにかく、あなたが私と勝負しないなら、私は今すぐに彼女を殺すわ」

 改めてそう言うと、剣をきっちりと構え直した。

「…………」

 母が本気なのは、息子であるウエインには分かった。

 ウエインが口で何を言っても、伝わりそうにないことも。

「……分かったよ」

 仕方なく、ウエインも剣を抜いた。

 両手で構え、ダルシアと向き合う。

 できれば怪我をさせないように、などと考えていたが、すぐにそれどころではないと気付いた。

 ダルシアには隙がない。

 親しい者に対して抜き身の剣を構えることに臆する様子もなかった。

 臆しているのは、むしろウエインの方だった。

 改めて、母が騎士団から討伐隊へ入ったという話は本当だったのだとウエインは実感した。

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