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船では二泊かかるが、竜に乗ると半日もかからないと言う。


 エドガー様はうとうとしていた。出発ギリギリまで、崩壊した宮殿の修復の手伝いをしていたのだ。船の中で寝るつもりだったのだろう。


「エドガー様、眠いのではないですか?」

「いや、こんな状況で眠くなる……わけがない」


 ふるふると首を振るが、どう見ても限界である。


「膝枕をしてあげます」

「結構だ。寝るわけにはいかない」


「これは命令です。何でもするって言いましたよね? 私に膝枕をさせてください」


 エドガー様は諦めたのか、大人しく私の膝の上に横たわった。枝毛を探してみたが、見つからなかった。白髪もない。よかった。


「毛繕いか、いいな」


 ギュスタヴが首だけこちらにむけ、羨ましそうな声を発した。


「羨ましいんですって」

「あいつにはやらなくていい」


「それって上司としてですか? それとも夫として?」


「両方だ」


 それだけ言うと、エドガー様はふっと眠ってしまった。やはり、どこでも寝られる性質の人なのだろう。


 ふと、上着の内ポケットに目をやる。身分証が入っているはずだだ。


 指で感触を確かめて、やめる。隠し事は腹立たしいけれど、今は本人を信じることにしよう。


 だって、私を愛していると言ったのは本当なのだから。


「ふふふ」


 エドガー様が眠っているので、ひとり流れていく景色を眺める。果てしなく海が続き、その中に時折ポツポツと緑の島が見える。人が住んでいるのか、そもそも名前のある島なのか。わからないことが多いけれど──


「星の瞳、ってこう言う意味か」


 夜空に輝く金色の星ではなく、青に緑が混じり合った虹彩を、誰がそう呼び始めたのかはわからない。でも、その人はきっとこの景色を見たのだろう。


 エドガー様にこの発見を教えてあげようかと思うけれど、これは私だけの秘密にしておこうとちょっと意地悪なことを考える。



『おかえり、フィオナ』

「ただいま戻りました」

『なんでそいつ寝てんの? ちゃんと仕事しろよな』


 精霊様の声がする。私は自分の国に戻ってきたのだ。日は少し傾いているものの、日没までには家に着くだろう。ギュスタヴさまさまである。


「……」

「あ、起きました?」


 自然に目が覚めたのか、それとも精霊様に叩き起こされたのか。エドガー様はのそりと体を起こした。


「……どこだ? ここ」


 エドガー様は完全に寝ぼけているみたいで、状況が把握できていないようだ。


「上空だ。後半刻ほどで港が見えてくるぞ。そこまででいいのか?」


 うん、と返事をしようとしたその瞬間、エドガー様は驚くべき勢いで立ち上がった。あいかわらず素晴らしい平衡感覚だ。


「どうしました?」


「いや待て待て待て待て、冷静に考えたらこの状況はおかしいだろう」

「そうですか?」


 出発前に普通に空を飛んで帰ることを了承したので、全てを受け入れたのだとばかり思っていた。もしかして、あの時からすでに意識がぐだぐだになっていたとか?


「この状況で、国境内に侵入したら大問題だ!!」


 第一、どこで降りるんだ──とエドガー様は嘆く。確かに感覚が麻痺してしまっているが、船でギュスタヴを見たときは私も驚いたので、一般の方が見たらもっと驚くだろう。


「え、じゃあ戻るか?」


 ギュスタヴもどうすればいいのかわからずに、うろたえ始めた。今から元の国に戻って、今度は船で帰るとなると帰還が遅れる。


「うーん、こうなったら。港を通過して一気に城まで行きましょう」

「そんなバカな……」


 もうどこかで降りるしかないのなら、聖女が竜を従えた方が見ている方も安心できるだろうと力説すると、エドガー様は納得したようだった。


「緊急事態……警報……報告書……いや始末書か。まあ俺が同意したんだったなそう言えば……」


 今回の業務報告書を書くのはエドガー様であるが、一週回ってどうでも良くなったのか、また私の膝枕でふて寝をしてしまった。

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