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姫様が変わられた〜 逆転いたしましたの! オーホホホホ

 ――、諸侯の婚礼は王の許可を得る事、そして王族の婚礼は……政略をもってこれを執り行う。結婚とは家と家、国と国の為にするものであり、そこに個人の感情は含まれない。


 わたくしはそう教えられてきました。そして王族の婚姻とは、決まれば国が全てを執り行います。なので公に知らされたあと、当の本人に、()()()知らせてくるのは最後となります。


 なので、外堀も内堀も埋めて踏みしめ固めてから、本人は知る事となり、どの様なお相手でもお断りする事など出来やしません。何より国家間の策略や周辺諸国の勢力図、あるいは国内の思惑やらが複雑に絡み合っておりますので、姫又は王子自身の思惑で、お話をお断りでもいたしましたら、戦争、内乱勃発、あるいは王に逆らったとして良くて幽閉、或いは出家、最悪『死の御盃』を賜る、等とその後がとてつもない、茨の道が待っておりますの。


 ☆☆☆☆☆


「どういうことなのでしょう?陛下!」


 お義母様の甲高い声、ざわめく大臣達……、じいがこっそり囁いて来ました。


「姫様、静かに……、こちらに……」


 立つよう促してきましたので、言われた通りにします。手を取られ向かった先は、小部屋の一角をカーテンで仕切ってある場所。壁に小さな穴が二つ開けられています。


「そこの穴を覗いてください」


 クスクス……と笑いを堪えながら、じいが指先示したそこをわたくしは覗いてみましたら。まぁ……!御前会議のお部屋が覗けますわ!


「その穴は、あちら側の部屋の壁に、飾られている肖像画の目、なのですよ」



 ――、静かに、とお父様、静まる室内。


「王妃よ、言いたい事があるのなら述べよ」


「位を上げるとは、どういう事なのでしょうか!わ、わたくしはグルドムの王女として、産まれ育ちました、方やしがない鉱山伯爵の娘……、しかも子供は娘ですわ!鬼籍に入っていようと他国の王女を差し置いてとは、何たる仕打ちなのでしょうか」


 ……、よく見えますわ、お義母さまったら、お顔を赤くしてお父様に申し立てていますわ。どうなるのかしら……


「案ずるな王妃よ……、そなたの地位身分を、侮辱することは無い、この度の慶事を滞りなく執り行う為に、先ずはマリアをケラート皇国の取り持ちで、『ラジャ』の王籍に名を記す事になったゆえ、これでそなたと違わぬ、()()()()()となった」


 ……お父様考えましたわね、ケラート皇国は噂によると、『献金』を積めば、この手のお話をまとめてくださるとか。神様がお産まれになられたお国でも、生きている人間が治めてられますから、先立つものは必要ですわね。


 ラジャ……我が国と、お義母様のお国の途中にあるお国ですわ、草原が広がる領地、穀物に馬、家畜、毛織物が名産とお聞きしてますけれど、もうすでにご縁組は終わられているのね……。


「ラジャ……、クロシェと……の祖国ですわ……、それでわたくしはどうなりますの、陛下」


 何かを思い出されたのか、顔をしかめて、憎々しげな口調でお父様にお聞きしているお義母さま。お父様はひとつ頷かれると、皆に宣言をいたしました。


「先ずはラジャ国王女、マリア・ルチャスを『皇后』の御位につける、そしてそれに伴い、娘アリアネッサをいちの姫とする」


 おおー!とお声が上がりました。あまりの衝撃なのか、紅を引いたお口を扇で隠そうともせず、あんぐりと開かれているお義母さま。そのお顔をまじまじと見られたお父様は、つれないお言葉を投げかけられました。


「なんだ?その呆けた顔は、嫌なら嫌といえ、先は王妃として迎え入れるとの話だ。ならばいちの姫が嫁ぐのが良い、お前の言うとおりな、お前が否を唱えるなら、ドローシアを()()として、隣国におくるがそれでも良いのか?」


 ……、お父様ったら、お人が悪いですわよ。お義母様が『否』を唱えれば……、いいえ、その様な事はありませんわね。お父様もご承知していますわね、きっと……わたくしや、お父様の思った通りの言葉を、お返しになられましてよ。わたくしは息を潜め、目の前で広げられているやり取りを見つめ続けました。


「……!ド、ドローシアを後妻に!そ、そんな事は、母として認められません。あの子は若いのですから……、隣国の王のお年は……、かしこまりましたわ、陛下の良いようになさって下さいまし、所詮、皇后といえど鬼籍、わたくしは構いません、ただ……」


()()、なんだ?申してみろ」


「アリアネッサの婚礼のお支度の事ですが、わたくしはドローシアで手一杯、とてもながら整える事が出来ませんの、こういう時にこそ、()()()が、()()()おられたらよろしいのに……」


 まぁ……そのお口でよくもその様なお言葉が……、しおらしく目を伏せ話されたお義母様、その様子を見たお父様は、異存がないのなら、と言いおかれた後で、


「ああ、そちは自分の娘の方にかかっててよい、アリアネッサの方は、クロシェ婦人がいるだろう、王妃の補佐官の、彼女に申し付ける故、気にしなくても良い」



 お父様のお答えを聞いて、わたくしは……何処かしらホッとしています。クロシェ婦人とは親しくは御座いませんが、一度二度出会った事が御座います。落ち着いており見識が深い感じを持っておりますわ。


「ああ……そういえば、彼女がいましたわ、わたくしは補佐官等必要ありませんから……、暇を持て余していると思います。よろしいですわ、お使いあそばせ、いいお役目だと存じます。陛下のよろしいように」


 お義母さまの気の無いお返事の後、お父様が立ち上がりました。ガタン、ガタン……それに習い机を囲んでいた皆が立ち上がります。全員が揃った後、お父様のお言葉。


「では……今日より、ラジャ国王女、マリア・ルチャスを皇后とし、娘のアリアネッサ、をいちの姫、二の姫を王妃の娘、ドローシアとする、書式に従い王籍を書き換える。意義があるものは手を上げ、無いものは拍手をして同意とする」


 重々しいお父様の終わりのお言葉、ひとときし……ん、としたあと、おめでとうございます、陛下と声が上がると割れるような拍手喝采が湧き上がりました。勿論お義母さまは忌々しげに、周りに合わせているだけですけれど。


 それに紛れる様にじいが、おめでとうございます、『いちの姫』様、これよりは殿下に次ぐ、身分高きお取り扱いになられますよ、と教えてくれます。手を取られ、そこから元の机に戻りました。


 お兄さまと同等……、わたくしはどぎまぎする胸を抑えつつ考えますの、ジワジワとこみ上げる笑い。ふ……フフフフ、フフ……いけませんわ、わたくしが王妃に、お母様が、皇后、そしてお姉さまと地位が入れ替わる、正式に宣旨がおりれば、


 ()()()()()()()()お姉さま。


 わたくしが黙殺すれば……あら、嫌ですわ、無礼な事を想像してしまいました。ああ……早く住まいに戻りたいですわ、そしてマーヤや皆に知らせて……そして、そして……、


 オーホホホホホ!オーホホホホホと、わたくしは思いっきり笑いたいのです!


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― 新着の感想 ―
[一言] >『死の御盃』 Σ( ̄□ ̄|||) あちこち怖くてはらはらします。
[一言] いろいろ怖いのですが、一段落でしょうか?
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