姫様が変わられた〜 妖精さんのお仕事は完璧ですの!オーホホホホ。
その白いお花の中には小さな妖精が住んでいます。とってもイタズラ好きな妖精さんは、香りの中に潜み、そばに来た人間の身体の中に入っていきます。
イタズラ好きだけれど、いい妖精さんは、あちらこちらをウロウロします。そして中にいる、悪いモノ見つけたら、外に追い出そうと追いかけ回します。悪いモノは逃げ回ります。妖精さんは追いかけ回します。
やがて……悪いモノは外に出ようとします。妖精さんに追いかけられるのが、嫌になったからです。悪いモノはくしゃみと涙、鼻水の術をニンゲンの身体にかけ、それに乗って外に飛び出ていきます。辺りを朱に染めて……。
悪いモノがいなくなり、清らかな心になった人間は、妖精さんにお礼をします。追いかけ回す事でカラカラに干からびた妖精さんに、葉っぱのお茶を渡すのです。お茶を作って飲むと……妖精さんがくしゃみと、鼻水涙の術を解呪してくれるというお話。
〜お隣の国のお伽噺話集より抜粋
……、以前のわたくしなら、こんな酷いことを考えつきませんでしたわ!オーホホホホホ!
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「マーヤ……少しばかり胸元が、開きすぎてないかしら」
わたくしはおろしたての夜会服に着替えている最中、昼間は肩を出してはいけない、慎ましくがよろしい、色も派手にならぬ様とか、決まりがありますが夜は、肩を出しても良く、胸元を強調させたデザインや、派手なお色もすべて良しとは言いますけど……
「姫様!これ位普通ですわ!今の流行りなのですよ、そもそもこれまでが、地味過ぎたのですよ、お若いのですから大丈夫です」
アンが太鼓判を押してきます。彼女はお洒落に余念が無い、お姉さまの元で過していたので、流行りにも詳しく趣味も良いのですわ。少しばかりドキドキしていますの、髪を結い上げられ生花を飾られ、髪に白珠、色を合わせた石の首飾り耳飾り、頭に銀のティアラをとめられます。
「隣国のお方に、はしたないと思われないかしら……」
喪が開けたとご挨拶に来た使者、じいの話、過去の記憶、今の記憶、全てを撚り考えると……今回来られたのは『嫁探し』なのでは?考えてみると、晩餐会の席順も本来なら、お父様やお兄さまのお隣が順当だと思うのですが、それぞれにお姉さまとわたくしでしたし。
絹の長手袋を手渡され、それをはめながら考えるにつけ、それがために来られたと思いますの。ならばお姉さまなどには、負けませんわ!
さぁ姫様と、扇と薄絹のハンカチーフを渡され、手にしました。いざ!出陣です、ふ、フフフフ、フフフフ、こみ上げる笑いと共に結い上げた髪にそろりと手を触れます、花びらの感覚が、風鈴蘭と、瑠瑠華ですわ。
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ああ……久しぶりですの……わたくしはこういう晴れの場に呼ばれる事が誠に少なく、ダンスの練習も無駄になるばかり……、本当に姫が二人いるのか、と言われる始末でしたの。殿方と手を合わせて、音楽に身を任せている今、心地よくドキドキとして頬染まる様ですの。
「我が国の風鈴蘭がよくお似合いです。まるで花の妖精の様に可憐な……、食事時のお茶、ありがとうございます。まさかここで『寿ぎのお茶』を頂くとは」
彼のお言葉かけに、わたくしはにっこり微笑みます。女性がお相手と親しく言葉を交わすのは、仮面舞踏会の時のみと定めがありますので、残念ですがそれにとどめました。
わたくしは、隣国の使者殿と踊っている真っ最中です。ウフフ、お姉さまは扇でお顔を隠して椅子の華となっております。勿論お義母さまもそうですわ。二人ともに具合が悪そうです。
玉座に座られているお父様の胸には、両国の花のコサージュ、隣のお兄さまも……舞踏会が始まる前、皆で席についた折に、わたくしの背後に立つじいに密やかに聞くと
「陛下も殿下も聞かれたお話を思い出されたようで、王妃様を通じて、じいに『風鈴蘭』を幾ばくか届けるように仰せつかりました。全て姫様の元に来ておりましたから……既に葉は無くなっていましたがね、我が国の花と合わせ、庭師が上手く作っておりますね、く……ク!」
まぁ、そうでしたの、お父様とお兄さまは純粋に使者のもてなしの為でしょうけれど、見事にわたくしの片棒を、担いでくださってます。
「お姉さま達の侍従や側仕えにはどうやって?」
「……ク、クク、ハッ失礼、我々の食事は、一括して作られて配られるのです。料理長に頼み、その時のお茶に使った迄ですよ、姫様の頼みとあれば大概の事は通じますゆえ……」
わたくしの頼みが通じる?そんな事はないかと……、とふと思いましたが、今はその様な事を考えていてはいけません、膝の上の扇を軽く上げ、じいに元に戻るよう合図を送りました。お父様が立上がり、舞踏会の始まりを告げました。
宮廷楽師達の演奏が始まりましたの。ファーストダンスはお父様とお義母様が恒例、わたくしはドキドキとして眺めてましたわ。
そしてわたくしはダンスを申し込まれるまでは、お姉さまのお隣に座ってましたの。
……、フフフ、舞踏会が始まり間もなく、お隣のお姉さまに異変が!さり気なく横目で伺ってましたら、さっと手にした扇を開くと、お顔をお隠しになり、鼻にはお好きなお色の真紅に染められた、薄絹のハンカチーフ、クシュクシュ、グ……と堪えているご様子、そして一つ向こうに戻られたお義母様も同じご様子。
妖精さん!いいお仕事始めましたのね、心からの声援を贈りましてよ。素知らぬ顔をしてわたくしは正面を向きます。そこには隣国のお方のお姿。
「陛下、拙と、王女様に、一曲お相手を申し入れる事をお許し下さいませ」
使者殿の一人がお席に戻られたお父様に、儀礼に従い礼をし、申し入れてきましたの。お姉さまは慌てて扇を畳みます。その前にハンカチーフで、しっかりとお鼻を抑えていたご様子。
「……許す、して、どちらの」
お父様のお言葉。使者殿はわたくしに目をやり、お姉さまに目をやり、そして再びわたくしに……
「赤いお花を持たれてない姫様に、申し入れいたします」
にっこりと笑う使者殿、赤いお花?わたくしは、一瞬意味がよくわかりませんでした。ちらりとお姉さまに目を向けると……思わずふきだしそうになりましたわ、慌てて目を背け、お父様のお声を待ちました。わたくしたちをじっと見たあと、
「……、二の姫、そなたに申し入れが来ておる、お受けしなさい」
と、お父様のお言いつけがありました、わたくしは、はい、と答えると背後で控えていた、じいの手を取り椅子から立ち上がります。その時、ふ、ふええぐぅぅ、と奇妙なお声をお義母様から上がりました。
「王妃、どうしたのじゃ?具合でも悪いのか?踊りの最中も何やら青い顔をしておったが、下がっても良いぞ」
わたくしが使者殿に手を取られ、大広間の真ん中に歩んでいるとき、背後でお父様の、小さく、そして少し尖ったお声がいたしましたわ。
「いえ……どふもこざいまふぇん、しつへい」
「母上、大丈夫ですか?それにお二方ともどうされたのですか?その……お顔は……」
お兄さまの声が、お姉さまをご覧になられたのですね。振り返りたいたいところでは御座いますが、今は使者殿のお相手をしなくてはなりません。ダンスをしながら眺めることにいたしましょう。
「美しき姫様と踊る栄誉を与えて頂き、ありがとうございます」
礼儀正しく話され来られました。物腰言葉使いから見ると、高位のお方ですわ、わたくしはにっこりと笑顔を返しました。そしてその後、もう一方と踊ったのは当然の事。
妖精さんは、しっかりとお仕事しておりましたわ、お姉さまもお義母様も、さぞや内側には悪いモノが溜まっていたのでしょう、フフフフ、フフフフ、赤い花とは使者殿は上手く例えたものですわ!
赤い花、赤い鼻、お鼻が真っ赤になってましたもの。白粉も剥がれて……うふ、フフフフ、そしてお義母様のあのお声!きっと後でお父様に……、お二方がいけなくてよ、お父様はわたくしのお茶を、皆にお茶を勧めたのですから、ね。
妖精さん!ご苦労さま。オーホホホホホ!




