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姫様が変わられた〜 機会は仕込み掴まなければ!オーホホホホ

 七日に一度、庭師から花が届けられます。わたくしのお母様はその日に、甘い蜜菓子を城下の店から取り寄せ、仕える人達に配ってましたの。わたくし達はそれなりに食べれますが、甘味は高価な物、側仕えならば口にする機会も多いのですか、そうでない者たちが殆ど。


 なのでお母様は、庭師に、馬丁に侍女達に、その下で働く、こま使い、衛兵、調理人達に手渡したり届けたりしていました、お母様が亡くなりわたくしは、一挙に落ちぶれましけど、その風習は、ほんのひと口づつになっても守ってきました。そして今……


「なるほど、そうでありましたか。今迄よく続けておられました。これよりは、じいが抜かりなくご用意いたします」


 仕事の早いじいの手配により、その日の朝早く届けられた蜜菓子の山、思わず費用の事を聞き正すと、わたくしにはそれ相応の予算が出ているとの事、おかしいですわ?前の侍従の事を思い出しました……。


――、閑職に追いやられているというお話ですが、一度きっちり調べて『褒美』を与えようと、わたくしは考えておりますの。



 ☆☆☆☆☆



 わたくしの住まいにお花が届きました。勿論じいが用意しているお菓子の大きな包を、花束を持ってきた庭師にマーヤが手渡しまします。


「ありがとうございます。こんなに沢山……皆とわけて頂きますです」


 と庭園長の彼は日に焼けた顔をほころばせて、大切そうにそれを胸に抱くと、お辞儀をし下がっていきました。喜んで頂いて良かったこと。小さいですが贈り物とは、渡す側も喜びが産まれるのですわ。


 台所、こま使い達には、アンに届ける様に言いつけてあります。馬丁にはパティの顔を見に行くときに、届けるとして、あと衛兵さんたちには……じいに頼もうかしらと考えていると、


「姫様……!こちらを王妃様からの……フゴォォ。ぐ。すめません、フゴォォ……グ」


 じいが花束を抱え入ってきました。まあ!涙目に鼻水、そしてくしゃくしゃのお顔……くしゃみを堪えている様子ですわ。


「じい、くしゃみを許します、まぁ……素敵、めずらしいわ、隣国のお国のお花ね、風鈴蘭(ふうりんらん)よ、マーヤ、マーヤ、熱いお茶を直ぐに用意しなさい」


 庭師から届けられた瑠瑠華(るるか)、この国の花を活けていたマーヤが、直ぐにご用意いたします、と応えた。


「……チン!すみまぜん……、失礼、クッション!ぐ……不覚、イタズラ草とは?拙にお教えくだざい……」


 鼻をグジュグジュしながら、じいが聞いてきます。


「ウフフ、じいの手にしているお花は、中に妖精がいて、近くにいたヒトの身体の中に入るのよ、そして中から外に内に溜まった悪い気をくしゃみで追い出すの、おまじないのお茶を飲むまで、ところ構わずくしゃみ鼻水が出回るのよ、お祖母様から教えて頂いたお話、マーヤ、花を受け取って、葉っぱをポットに入れなさい」


「皇太后様から……不勉強なのか拙は知らぬことでひた!クッション!グス……不覚!」


 古いお伽噺ですもの、それに『風鈴蘭』はお隣の国だけにあるのですから、ハンカチーフを握りしめている彼に教えました。


「姫様……!クッション!お!、おひゃが……」


「まぁ!マーヤまで、わたくしもムズムズしてきましたわ、皆、ここに来なさい……自分のカップを持ってらっしゃい、お茶にしましょう」


 ☆☆☆☆☆


「……、そうなの、隣国の喪が開けて……挨拶のご使者が来られたのね」


「はい、ふう……鼻水が止まりました、目も元に……お聞きいたしますが、このお茶を、知っている者は多いのですか?」


 あら……、お人の悪い笑みを浮かべてティーカップに口をつけてますわね……。何を思いついたのかしら、少しばかりワクワクしながら、じいと話します。


「そうねぇ、風鈴蘭(ふうりんらん)が無いこの国だと、知らない人ばかりではないかしら……お祖母様は、隣国に詳しいお人だったから、知っておられたの」


 お母様が亡くなり、独りぼっちになった時、まだご存命だったお祖母様が、うらびれたここに、わざわざご機嫌伺いによく来てくれていた事を、懐かしく思い浮かべました。


「おられないかと、お祖母様にお仕えされてたお方達も、今はもう寺院に行かれたりして、ここにはいらしゃらないわ、それが何か?」


「……このお茶は、葉っぱを茶葉に入れたら良いだけですよね、沢山いるのですか?」


「それほどいらなくてよ、ティーポットに、葉っぱいち枚と聞いていてよ、それが何か?」


 ニンマリとするじい、わたくしは澄まし顔で促します。


「いえ……今宵、使者殿を歓迎する晩餐会の後、舞踏会が開かられる予定なのですが、姫様にも是非に出席されるよう、陛下から直々のご命令がおりているのです」


 まぁ……素敵なお話、わたくしはそのような晴れやかな場所には、とんと縁がない暮らしを送っていますの。何しろお義母さまが、そういう場には呼んでくださらないのです。


 お腹が痛いとか、熱があるとか、ダンスの練習の最中に捻挫したとか……あらゆる理由を作り、わたくしを表に出さないようしてますよの、嫌がらせだとは思いますが、出席するとお姉さまとご一緒になるので、わたくしとしてはどちらでもよろしいのですけれど……。


 ただお父様から直々のご招待には、口が挟めないのですの、何故なら過去にあまりにも出ないわたくしを案じたお父様が、忙しい中を縫い、様子を見にこちらに訪れて、その時元気いっぱいな私を見て、これはどういう事だと、こっぴどく怒られたとお聞きしております。


 いい気味ですわ、ホホホホ!その時は、その様に思うなどいけないことと思いましたけど、わたくしは贈られた花を見ながらじいに聞きました。


「……、このお花はお姉さまのところにも?」


「いえ……それは、何しろ鼻水くしゃみですからね、王妃様にと隣国からの贈り物なのです、それを姫様に是非とも持っていくようとのお言付けで」


「そうでしょうね、部屋に飾らず下げたりすると、失礼に当たりますもの、そうだわ、今宵の晩餐会でわたくしはこのお茶を振る舞いましょう」


 全く、お義母さまの嫌がらせですわね、お姉さま共々お暇なのでしょうか、わたくしはお茶を飲んでいるじいの顔を見ていましたら、何かおぼろげなものが閃きました。


「それが良いかと、ご使者殿の何よりのもてなしになられるかと、陛下もお喜びになられましょう、そして是非とも、その後執り行われる舞踏会には、その花をお飾りになられて下さいませ」


「………、でも、お茶を飲まなければ、わたくしの側に寄ると酷い目にあいましてよ、でも確かにご使者殿は、喜ばれる事間違いなしですわね」


「そう、先ずは城に仕える者に飲ませておきましょう、そして晩餐会では、姫様のお振る舞いとして、お茶を出されれば……」


 悪い顔をしているじい、みなまで言わさないよう、クスクス笑って止めました。どこで誰が聞いているか、わかりませんものね。まぁ……わたくしの住まいに、わざわざ探りに来る者はいませんけれど。会話を受け渡しをしていると、閃いた事が次第に計画へと固まって行きます。


「そうね、今困っている者達も居ることでしょう、晩餐会では、お好きではないお方もいらっしゃるかもしれないので、何時ものお茶も用意しなくてはね、ああ……そうだわ、お花を飾るのなら……」


 わたくしは部屋に香る共に活けられている、二種類の花を眺めます。純白の大きな花の風鈴蘭(ふうりんらん)、薄紅の薄紙をクシャと寄せた様に花開いている瑠瑠華(るるか)、今宵の余興にピッタリではないかしら?


 そして……喪が開けたご挨拶、もしやすると、もしやするかも、じいの意味有りげな視線に気がつき、わたくしはにっこりと微笑み返します。


 そう、機会(チャンス)は、仕込んで掴まなければいけませんわね。オーホホホホ。


 ☆☆☆☆☆


 お魚のお料理、フルーツのソースがかけられたポウポウ鳥のソテー、季節の森のサラダ、きのこのスープ、白いパン、お酒……他にも色々出てきました。普段は一人で食べているので、隣国のご使者とお話をしながらゆっくりと、食べていくのは少しばかり緊張いたしましたが、楽しい時を過ごせました。


 ご使者のお方はお二人、それぞれに従者を連れて来られてました。それぞれの隣に、席が作られていた私とお姉さま。


「二の姫様のお茶でございます」


 デザートにはお酒に漬け込んだ果物が、たっぷりと入っているケーキが出されました。その時に調理長に頼んであった『お茶』が振る舞われます。


「ほお……姫の、ああこれは懐かしい、母上と飲んだ事が、あれはそう、その時も花が届けられて……ああ……そうか、懐かしいな、そうお伽噺のお茶だ、では頂こう、皆も二の姫の心遣いだ、頂きなさい」


 父上が何かを思い出され、そう仰るのを聞き、ホッとしたのと同時に嬉しく思いました。皆様父上に習います。そして隣国のお客様は、入れられたそれの香りを嗅ぐと、とても嬉しそうになされました。そのような中で、お義母様とお姉さまは、わたくしからと聞き眉を少しばかりひそめて……


「何時ものお茶を」


 小声でそう言っているご様子、別のティーポットから注がれるお茶、その様子をわたくしは目にして……顔には出しませんでしたわよ、心の中で思いっきり!


 オーホホホホ!と心の中で思いっきり、笑ったのは言うまでもないこと、


 オーホホホホ!オーホホホホ!舞踏会が楽しみですわ。


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― 新着の感想 ―
[一言] ごめんなさい。 鼻水ネタとお料理のことで頭がいっぱい (;'∀') ちなみにお魚料理は何でしょうか (*´▽`*)?
[一言] なるほど! 花粉症は妖精の仕業だったんですねw
[良い点] オーホホホホホ! 舞踏会が楽しみですわー!!! 成功したとしても、陰惨ではない企み事はいいですね♪
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