表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/46

姫様が変わられた〜 行けず後家にはなりませんことよ!オーホホホホ。

 魂は永遠不滅と申します。人は生まれ変わるのですわ。わたくしは馬のおかげで、『私』の記憶が、チラリチラリとありますの。


 そこは、言葉にならないほどの、地味で破廉恥極まりない国、しかも平民として、わたくしは生きていましたの、建物もねずみ色のカッチコチ、手狭な空間、しかも女性の足は丸出し、罪人のごとく短い髪!運動する時など湯浴み着よりも真っ裸ですわ!


 そして……、親族でもない異性と同じ部屋で机を並べて……おまけに、キャァァァ!こ!これ以上は頭が痛くなりましてよ。とにかく破廉恥極まりない、とんでもない場所だったのは間違いございません。だけどそこで学んだ事は……役に立つ様な気が……ふと思いついたある日のこと。


 ☆☆☆☆☆


「姫様、少しばかりお話があるそうです」


 わたくしがじいの給仕で朝食をとり終え、お茶を頂いていると、マーヤが例の侍女『アン』を連れて来ました。何かしら?と聞き返します。


「はい、ラクティール家の令嬢が、この度挙式されるとの事です」


 まぁ……お目出度いお話ね、と言いつつしばらくは外に出ない様にしようかしらと、考えていると、アンがくれぐれもお気をつけ下さいませ、と言葉を述べます。


「ええ……ありがとう、下がっていいわ」


「はい、では失礼いたします」


 アンは役目を終え、ホッとした様な笑顔を残すと部屋から下がりました。知らせをくれたのは、お姉さまのご機嫌が、素晴らしく悪くなるからですわ。まあ仕方がない事なのですけれど……、わたくし達姉妹は『行けず後家』の道を歩んでいるのですから。


 あ、行けず後家というのは『私』の記憶からのこれ、『行かず後家』というお言葉のもじり。自ら行かない選択は、わたくし達にはありません。嫁ぐか嫁がないかのどちらか一つのみ!


 そう、あちらの歴史とこちらも、何処か重なる様な気がいたします、王族貴族の婚姻については、似ている気がいたします。


 ――、諸侯の婚礼は王の許可を得る事、そして王族の婚礼は……政略をもってこれを執り行う。結婚とは家と家、国と国の為にするものであり、そこに個人の感情は含まれない。


 わたくしが教えられた『婚礼』に対しての心得ですの、そこで『私』の記憶のあれこれを思い出し……、周囲の貴族や、周辺地図諸国の婚礼事情を考えてみますと、生まれた時からの約束、子供の時からの約束、というのが多いのです。中には、ほんの幼子で嫁に行っているのですか。


 そう……、わたくしには、いえわたくし達姉妹には『婚約者』という存在が未だかつて無いのです!これは……ゆゆしきことやもしれません。このまま行けばどうなるのか!


 過去の『私』が学んだ記憶では、寺院に行くのが王道、それか離れの建物で落ちぶれる、あるいは手柄を上げた家臣に下げ渡される、の何れか、そしてそれは、そっくりそのまま当てはまります。


「……、じい!聞きたいことがあります」


「は!姫様、なんの御用で御座いましょうか」


「わたくしに婚礼の話が来ないのはお姉さまが先、だから?しかし何故お姉さまもお話が無いのですか?決まってから沙汰が知らされる事は知っていますが、この年になる迄無いとはどういう事なのでしょうか、お姉さまは、見目だけは良いですわ、それに持参金とやらもそれなりに用意はできるでしょうに」


 わたくしは真っ直ぐに聞きます。じいは答えます。


「姫様、王族の結婚とは何でしょうか」


「国益」


 じいの問いかけに、わたくしはひと言で答えます。


「これはこれは……是非とも殿下にお聞きしてもらいたい、見事なお答えです。そうです。正にそのとおり……陛下は考えてらっしゃいます」


「お父様が?」


「はい、そのうちおわかりになられますが、どの国との婚姻による同盟強化が一番良いか、二姫(ふたひめ)様が産まれた時よりこの方、お話は持ち上がるのですが、いずれもあちらを立てればこちらが立たず、中には内乱が起き流れたお話も多数御座います」


 まぁ……、内乱とは、表に詳しくないわたくしは、他国の話に胸がワクワクしてきましたの。


「そう……、しかし全く無いというのは、いささか怪しく思いましてよ、何かお父様のお考えがあるのではなくて?」


 わたくしは少しばかり深く聞いてみます。


「……、二の妃様は聡いお方でございましたが、姫様はよう似ておられます。はい、じいは少しばかり知っております、陛下は隣国との婚姻を考えておられるのです」


 じいの答えに少しばかり驚きましたわ、確かに隣国との繋がりが太くなればこれ程、国の為になる事はありませんが、確か王女様お一人しかおられなかったはず、ではお兄さまと?


「確か、数年前に隣国の王妃様は亡くなられて……王女様がお一人ですわね、ではお兄さまが娶るのですか?」


「実は内々で殿下とお話は進んでおりますが、その前に、我が国の姫のどちらかを後添(のちぞい)にと、お考えなのですよ、姫様!じいは姫様が、隣国の王妃様になられる事を望んでいます」


「はい?わ、わたくしが?」


 じいの突然の話に、思わず目を見開いてしまいました。


「そうです。姫様が隣国に嫁ぎ、王子をお産みあそばされる事が、この国の一番良い先かと……」


 そ、それはそうですけれど……お父様はどういう意図があり、先を見据えているのかしら……、それに後妻に入った場合、めんどくさい事がありましてよ。


「じい、でも待ってくださいな、あちらのお国には、寵姫はいませんの?お母様みたいな女性は」


 わたくしは不思議に思っていた事を、この際思い切って聞いてみました。じいは声を潜めて教えてくれます。


「……、以前は居られたのですが、王妃様が亡くなられた折に、全て廃妃とされたとか、そうでしょうなぁ……、本来なら王子も王女も育てば居られていたのですが……その、『女の戦い』により、お育ちにならなかったと伺っております」 


 ……女の戦い、ああ……『私』の記憶がチラリと出てきましたわ、身籠った妾を階段から突き飛ばす正妃一派とか、薬を盛る妾一派とかのお話……、わたくし、どのような書物を読んでいたのやら……頭がクラクラしています。


「そ、そう……それで王女お一人しか、お育ちになられなかった」


「ま、どこでもあるお話で御座いますよ、この国でもかつて殿下の()()()()()も、そうでございましたから」


 は?お兄さまの実の母御様ですって?どういう事なのでしょう、わたくしの知らない世界が、突然出てきましたわ!これは……知っておかなければなりません。クラクラしていたのが吹き飛びましたの。


 お兄さまはお姉さまと違って、穏やかでお優しく、お顔は凛々しく、物知りで、しかし残念ながら頭の中はお花畑に、蝶々が飛んでるお方なのです。


「お兄さまのお母様は、お義母様ではないのですか!」


「はい、二の妃様が見初められる前に、いらしたお妃様のお子様なのですよ、男の子を産んだと言う事で、それはもう、王妃様から陛下の目を盗みアレコレと、お優しいお方でしたので、産後の肥立ちも悪く敢え無くポックリ、王妃様は、赤子だった殿下をまんまと手に入れられたのです」


 ……ああ、正に『事実は小説より奇なり』色々とまぜこぜになり、再びクラクラしてますの、何処か夢見ているお兄さま、知っておられるのかしら。


「お兄さまは知っておられるの?お手元でお育ちになられてましたから、わたくしはてっきりお義母さまが実母だと」


「一部の者は知っておりますよ、殿下がご存じなのかは知りませんが……」


 よく礼拝堂で祈りを捧げている、穏やかでお優しいお兄さま、お顔立ちもよろしいのですけれど、ただ……ぼんやりされているというか、なんでしょう……子供のままで大きくなられた様な……、立太子は既に済ませてはいますが。


「まぁ……知っておられてもお兄さまは、きっと気にもなさらないでしょう、そう……わたくしが後添に……、じいはわたくしに務まると思って?」  


 わたくしはお兄さまの事はひとまず置いておいて、自身の問題に向き合います。ほぼこの住まいから出ることなく育ったわたくしが、隣国の王妃が務まるか……いささか不安になります。


「はい、じいは今の姫様こそが相応しいと、思っております」


 じいは断言をくれました、()()わたくしが……、何か大きな波が押し寄せて来ました、わたくしが隣国の王妃に……、お姉さまを差し置いて……ふ、フフ、フフフフ………く、フフフフ、笑いが込み上げてきましたの。


 わたくしが王妃に!もしそうなったら……見事王子を産んでみせますわ!オーホホホホ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >色々とまぜこぜ 素晴らしい表現~♪ [一言] >国益 そうなんでしょうね (;'∀')
[一言] 強いですね。お見事な生きざまです。
[一言] 謀略渦巻いてますねえ。 読み応えがあります!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ