国に戻ってまいりましたの。茶番劇の段取りでしてよ
オーホホホホ!いけませんわ、どういたしましょう……。悪巧みとは面白いのですの。わたくし達はマーヤを影武者に仕立て、国に戻ってきましたよの。
脇をわたくしとターワンのお爺様が固めたので、なんとかなりましたの。グルトムの皇太子様は、早々にお国に向かわれましたわ。
「パトリシア・エイール・ド・リアス、キャロラインの側使えになる事を命じる」
陛下のお言葉に、彼女の両親は喜色、パトリシアは落胆、そして居合わせているシャルルは蒼白……。俯く若いお二人……せつなそうな視線を交わしておりましてよ。
フフフン!と鼻でせせら笑うサーシェリー。その彼女をお爺様がうっとりと眺めておりますの。どう見ても悪女にしかならないかと思いますが……、お国元には沢山の『妃』がいらっしゃる様ですので、彼女ぐらいの気性が無ければいけないのやも知れませんわ。
「謹んでお受け致します」
彼女の父親が挨拶を返されました。さあ……、賽は投げられました。後は……誰が後ろ背を押すかですわね。
☆☆☆☆☆
さて、今日は忙しいのですわ。舞踏会も御座いますし、館で留守居をしていた、爺やにあれこれ頼む事もあります。
「……衛兵に……かしこまりました、今宵は祝宴が御座いますし、差し入れを運び、それとなく頼んでおきましょう」
そう請け負ってくれましたの。抜け目の無い彼の事なので、安心して任せておけますの。アンにはあの二人の事を見張るように言いつけております。エレーヌは今宵の舞踏会の準備を手伝ってもらい、ああ!目が回る忙しさとは、この事ですのね!
「ふう、外の風に当たりたくなりましてよ」
館に戻っていたわたくし。丁度昼食も近い時間。マーヤもあちらにいる事ですし、城に戻る事に致します。気晴らしに、少しばかり運動をしたくて、エレーヌと共に散歩しつつ向かってましたら……。あら?ターワンのお爺様が……お散歩かしら、では無さそうですわ。
サーシェリーの姿も見えます。何をされているのかしら……わたくしは息を潜めて近づいて行きます。お声が聞こえてきましてよ。木陰に隠れてこっそり見守りましたの。
「美しい、どうだ?我が国の『王妃』にならぬか?」
案の定、口説いておられますの。皇太子の縁談とお聞きしておりますが……違うのやもしれませんわね。お爺様は、独り身となれているとお聞きしておりますし……。
「ご冗談を……、それに皇太子妃とお聞きしておりますわ、そりゃ王子様が即位なされば……、でも、未来の王妃様は隣国のドローシア様で御座いましょう?わたくしは、王族といえども、一国の姫ではございませんもの。なれても『側妃』がいいところ……」
美しいと言われ、王妃を持ち出され、まんざらでもない声音のサーシェリー。お爺様はにやりと笑われると、ご自分の指にはめられている、見事な柘榴石と淡水パールの指輪を外され、サーシェリーにお見せになられます。
「まあ……なんと見事な、素晴らしい指輪ですわ」
「そうであろう、美しい物は美しい人にこそが相応しい……」
そう仰るターワンのお爺様。うっとりとしている様子のサーシェリー。随分お年上なのですが……、構わないのかしら?陛下よりかなり上でしてよ。
「い!いけませんわ、その様に高価なお品を……」
「フ、この様な物は我が城には沢山あるぞ、美しいそなたを飾る為に待っておる」
指にはめられておられますわ。まあ!お爺様ったら……そして嬉しそうなサーシェリー。
「わたくしを飾る為に……、でも、どうやって?先も言いました様に、わたくしはその様な身分ではありませんの、それにお父様が反対なさるに違いないわ、だって王妃としてなら、わたくしはドローシア様にならないといけませんもの。無理なお話ですわ」
「まぁ……そうなるな。だからな……ちょっとばかり力を貸してくれまいか?」
サワサワと風が木々の葉を揺らしました。寄り添いいけないお話をされている、ターワンの王とサーシェリー。頷きながら妖しく微笑んでおりますわ。
「……、フフフ、そう、本当に……ここ最近ときたらお父様もお母様もシャルルお兄様の事ばかり、そしてわたくしはあの小癪なパトリシアに……お兄様もパトリシアも、お父様もお母様も大嫌いでしてよ!わたくしの事などほっておいて!失礼ですわ!」
「なんと!そなたの家族は、美しいそなたに対してそんな無礼な振る舞いを……、そんな家族等棄てて我が国に来ないか?一国の華とならないか?そなたは誠に相応しい」
ここぞとばかりに攻めるターワンの王。贈られた指輪を眺めつつ、彼女は意味有りげにじっとお爺様を見つめます。計算をされているのかしら、この先の行く末を……国に残り、それなりの貴族に嫁ぐか。それとも……
お姉さまに成り代わり、ターワンへ嫁ぐか……。
「……、結果は見えておりますわ。王妃様」
エレーヌが話しかけてきました。
「ええ、考えていた通りになりそうね。早速陛下にお伝えしなければ……参りましょう」
わたくしは彼女に答えました。そしてその場を静かに離れます。胸がドキドキしてますの。不謹慎な笑いが顔に浮かびます。
フフフ、ふふっ、素晴らしいですわ。こうもわたくしが考えた通りに事が進むとは……、ああ……なんて愉快なの!今宵の舞踏会が……楽しみでしてよ。
オーホホホホホ!




