茶番劇の始まりでしてよ
ガタン。馬車が止まりました。城内に着いたようですわ。ぎ……音がして扉が開かれましたの。
「王妃よ、疲れてやしないか?」
わたくしを迎えに来られた陛下のお姿。お姉さまが呆れた様に溜息をつかれますの。それに対してニヤリと笑われる陛下。手を取られ外に出ました。続きターワンのお方に手を差し出され、お姉さまが降りられます。
久しぶりの祖国の空気ですわね。何気なく辺りを見渡します。居合わせるグルトムの皇太子のお方に、ラジャの高官の方。お父様がお義母様を馬車から降ろされます。殿方は馬で移動するのがしきたりなのでしてよ。
ザワザワと賑やかなその場、馬丁が馬の世話をする為に、こちらに来ています。ターワンのお方は、何やら良からぬ事をお姉さまに囁いていらっしゃる様ですわね。ヴェールが頷く様に揺れております。
そして、休息と、汚れを払う為に城内に用意されている部屋へと向かおうとしたその時、バン!私の馬車が勢いよく開き、中からネズミさんが出てこられましたの!
「な!何故にお前がここに!いや!そんなはずは無い、お前は……何者ぞ!」
グルトムのお身内が、素っ頓狂な声を上げられましたわ。陛下はわたくしを背にかばいます。驚くフリをしつつ身を寄せるわたくし。
「私は……もう!兄上の駒にはならぬ!」
仕組まれた芝居が始まりましました。
☆☆☆☆☆
「ステファン!ああ……わたくしを迎えに来て下さったのですね」
お姉さまが声を張り上げられ、ヴェールを取り去りましたわ。グルトムの皇太子様がお認めになりませんでしたもの。名前をお呼びする事で彼が『第二王子』と、周知させますのね。
「ドローシア!何をなさるのですか!顔を外に出すとは!婚礼を控えて何を血迷っているのです!誰ぞ!姫を部屋に!」
お義母様が声を上げましてよ。
「兄上だと?我に弟等おらぬ居らぬ!」
即座に否定をされましたわ!不届き者を即座に切って捨て去る。流石は王族。ネズミさんの元に行きかけるお姉さまを、ターワンのお爺様が、いけない!とわざとらしく引き止めておられますの。
「衛兵!衛兵!その者を捉えよ!貴様!どの様にして潜り込んだのだ!誰ぞの手引があったのか!」
お父様がそれらしく命を出されます。勿論、ここに居合わす兵士達にも、城に早馬を出されたご様子、皆様お芝居がお上手ですこと。
「それは……」
口籠るステファン!
「それは……わたくしが、わたくしがお母様に頼みましたの!ひと目会いたいと……、お母様のお国の御方ですもの。きっと取り計らってくださると……」
まあ!お姉さまが先手を打たれましたわ。ご自分を悪者にされたのですわ!それを耳にし、はぁぁ?なんですって!と声が上がりましたの。
「王妃よ!それは真か!姫がその者と通じておるのを、知っているのはそなただけだ!まさか、娘可愛さにトチ狂ったのか!」
「そ!そのようなことはありませ……」
「そうで御座います。彼女を迎えに来るよう、ご自身の悲しい轍を踏まさない様、私に知らせを……、ああ愛しいドローシア!」
皆まで言わさず台詞を上手く挟みましたわ!クスクス、いけませんわね、陛下の背中で隠れてはおりますが、笑ってはいけませんわね。でも面白いお芝居が目の前で……、しかしこの様な時にでも、平然とされておられる陛下は流石でございますの。
「悲しい経験とは?何だ!」
遠巻きに眺める衛兵、強く厳しいお声を投げるお父様。受け取られたお義母様は、ヒッ!と口元に手を持って行き、お声を上げられ、まあ!あれをお使いになられます。そうやって使うのですの……わたくしは初めて拝見いたしましたわ。
「ああ……わたくしは何も……何という事……」
そうおっしゃるとふらりとお倒れになられました。指にはわたくしのソレと、同じ様な細工が施してある指輪が。取り敢えず側におられたお父様が支えられました。その様子を見てお姉さまが動きましてよ。よほどお義母さまに、恨みでもあられたのかしら……
「ああ!お母様が!お願いお母様の元に、わたくし気付け薬を持ってますのよ、お母様、お母様……」
そういうとターワンのお方と共に駆けつけます。その演技力見事ですわ、わたくしも見習わなければ……そして側に寄られると、胸元から小さな瓶を取り出しました。あら、それはいけない代物の様な気がしますわ。お父様に差し出すお姉さま。
「お父様、これをお母様に」
……、流石ですわ、気がつけばあれこれと、煩いお義母さまを黙らせる……実の母娘ですのに。その冷酷さは生まれ持ったものですの?お姉さま。お父様もその意を読み取っておられます。どうされるのかしら……、ドキドキしながら眺めてましたの。
「……わかった!王妃よ、しっかりするのだ」
意を決した様に頷きそれを受け取ると……お義母様のお口に、少しばかり注ぐお父様。その様子をご覧になられている陛下がヒソヒソと、話されて来られましたの。
「……そなたの国も大概だな……、アレは実の母娘だろう。我が国も何処の王室もある事だが。よいかアリアネッサや、私はそなたを愛しておるぞ」
何をこの場で……恥ずかしくなってきますわ。
「誰ぞ!王妃を部屋に……」
バタバタと衛兵が数名集まり、お義母様を運んで行きましたの。一瞬、間が空きました。そのスキをつき、抜け目の無いお姉さまは、ステファンの元へ駆け寄ります。
慌てて彼の兄上様が止めに入ります。振り切るお姉さま。二人はしかと手と手を取り合いましたの。お姉さまを背後に庇われるステファン。その様子にターワンのお方が怒りを押し殺した声を上げます。
「これは!どういう事じゃの、我が国に嫁ぐ者を……グルトムの、どうしてくれる!既に我が国では、ドローシア姫を迎える手筈を整い、到着を待つばかり、そして各国にふれを出しておるのじゃ!」
何という侮辱!わなわなとされつつ言葉荒く……お爺様も年の功ですわね。迫真の演技とはこの事なのでしょう。
「知らぬ!知らぬ知らぬ!その者は……この国の者ではないのか!我が国の衣装とは違うぞ!」
苦しい言い訳を始められた兄上様。息を詰めてご覧になられるラジャ高官の方、並びに事情を知らされておらぬ各国の側用人達。
「ふ……苦しい言い訳を、装束等どうにでもなる、兄上、私を使いドローシアを利用し、この国を手に入れようとしておられた御方にしては、ぬるい言い訳ですよ」
涼しげに笑みを浮かべ暴露話を始められた、グルトムの第二王子、ステファン。彼を睨みつける兄上様。一触即発の空気が広がっておりますの。
面白くなって来ましたわ!オーホホホホホ!




