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とろりとした闇夜の中で、お兄様、どうしてそうなるのですか!

 暖かくとろける様な闇の中で、幸せ色で冷たい夢を見ましたの。途切れ途切れに出てきては消えていく光景。


 わたくしは、お母さまと共に、お義母様のお茶会に行っていたのでしょうか。その様な気がします。お祖母様がわたくしを見目が良い、先が楽しみと褒めてくださいました。


「本当に、陛下と同じ瞳の色、よろしかったですわね、マリア」


 お義母さまの声が聞こえましてよ。わたくしはつけつけと言われて居心地が悪くなり、賑やかな場を離れました。壁際に置かれているテーブルを囲み、お姉さまと取り巻き達がクスクスと笑っていました。そして、


 お姉さまが手ずからお茶を運んでますの。それから……お母様の声が。


「わたくしが代わりに頂きましょう」


 駄目だと……そう言いたいのにわたくしは、眺めているだけですの。


 ☆☆☆☆☆


 ――、どうした?優しく深い声で、目を覚ましましたの。寝台の(とばり)が下りている、しっとりとした闇は見た夢の冷たさを消していきます。


「良くない夢を見ましたの」


 案じる陛下にわたくしは正直に応えます。聞かれるままに取り留めのないそれを、ぽつぽつと話しました。話している内にわたくしの中で、欠けた部分が蘇り満ちて行きます。


「……、お母様がお倒れになる日の事やも知れません、思い出しても……どうにもならない事ですわ」


 ズキズキ、ザワザワ、チクチクと身内がざわめきます。そう、お母様は庇われたのでしょうか。それとも偶然?それとも必然、加担……。この後帰る途中、馬場から逃げ出した馬を避けた拍子に転んで、病に伏されました。


 どうしたのかしら、涙が出てきましたの。肝心な事は思い出せません。お姉さまにお聞きしないと無理でしょう。陛下が優しく抱き寄せてくださいます。


「もう、この国の王妃なのだから、祖国の昔は忘れなさい。明日は早い、離宮に行くのだから、その翌日は王女の良い日だ。大丈夫か?」


「……、ええ、そうです、大丈夫で御座いますわ。離宮、わたくし初めてでしてよ、キャロラインに聞けば、小さく可愛いお館と教えてくれましたのよ」


 ……、そう、わたくしはこの国の王妃なのです。明後日は王女の大切な日、そしてお姉さまの出立があり、先が長いのでこちらにお泊りになられます。ターワンのお爺様が王として、既に祖国に到着されております。グルトムの皇太子様も、ラジャからは今回は使者のお方が、遣わされたとか。


「そうか、そなたなら大丈夫だ。キャロラインを頼む」


「はい、任せてくださいませ。それと明後日は新しいアレをお披露目致しますの?わたくしの化粧料として、月々荷が届いていると、お聞きしてますの」


「ああ、何とか形にはなった、まだ量産は出来ないがな、しかし威嚇するには十分な量だ、見た目は全くわからんぞ!事が終われば、忙した職人達をねぎらってやらねばいかんと思っている」


 満足そうに話される陛下。ジャックの石が『形』になったのですわ。戦いに通用する代物に……、


「そうですわね。ねぎらって下さいませ。そしてそれを上手くお使いになれば……戦争は回避出来ますの?」


「そうだな、抑止にはなる。あとは……ターワンの爺の思惑が上手く行けば……、大丈夫だが……、こちらとしても何か使える『駒』がもうひとつばかり欲しいな……」


「サーシェリーだけではなくて?」


 ああ、と考える陛下。そしてわたくしに聞かれます。


「騒ぎを起こすのは……どうすればいいと思う?」


「騒ぎで御座いますか?して……、どの様な?」


 わたくしはそのままに、問い返します。真面目に話すのに、少しばかり飽きて来られたのでしょうか?誰にも聞かれ無いというのに、ひそひそと耳元で話しかけてきましたの。悪戯っ子の様ですわ。


 それがとってもくすぐったくって、わたくしはクスクスと笑いました。陛下も……悪巧みは上手いですわね。流石は祖先は盗賊でしてよ。


 ☆☆☆☆☆


「お義母さま!ほら見てくださいまし、うふふ、わたくし産まれ変わりましたの」


 お兄様が贈られてこられたドレスを身に合うように、縫直しをしたソレを身に着け、嬉しそうに話すキャロライン。大樽から卒業出来ましてよ!


「よく似合ってよ、最近忙しくしてて、貴方のところに行けなかったのを許してね、ずっと窓拭きをなさってたの?」


「いいえ、お部屋の窓拭きばかりじゃ飽きてきましたの。なのでアイリスがそれ以上はだめですと、言われましたけれど、わたくし、お館中をお掃除しましたの、床もどこも、今ではとっても上手にお掃除出来ましてよ」


 頑張りましたの、と得意げに話すキャロライン。お兄様も鍛えておられるので、何とか持ちあげられそうですわね。それにしても可愛らしい事。


「お義母さま、ドキドキしてますの。だって痩せてから初めて会うのです。その……綺麗って言って下さるかしら……小さい時にお嫁さんに来てねって、その……言われましたけれど、お忘れになってると思いますの」


 まぁ……!お兄さまもすみに置けません。それで『大樽』を持ち上げるべく、努力を重ねてられたのですか。


「きっと、そう言って下さいますよ。大丈夫です」


 と、わたくしはキャロラインにお話をしましたのに……お兄さまときたら。



「ご機嫌よう、キャロライン」


「ありがとうございます。殿下」


 そう挨拶を交わされた迄はよろしかったのに……パン!わー!遠くで爆ぜる音と歓声が聴こえます。狩猟大会が執り行われている、祖国の森の中。


 ジャックの石は小さな『(やじり)』に生まれ変わっておりますの。兵士の中でも弓矢に精通した者が、ソレを放ちますわ。獲物に命中すると……躰の中で小さく爆ぜるのです。


 音が聴こえますわ、わたくしは始まって間も無くは、陛下のお側でそれを拝見致しましたの。用意された獲物に命中します。その時パン!と乾いた音が。


「そう、音が出るように混ぜ物を仕込んだと聞いた、音も重要だと言っていたが、大きさを変えれば、もっと大きなモノでも倒せる」


 倒れる獲物を見るのは初めてでしてよ。わたくしはドキドキしましたの。


「か弱きそなたが見るのは辛かろう、天幕へ下がりその辺りで野遊びでもすればいい」


 そう陛下のお言葉を頂いたので、天幕の下で待っているキャロラインの元へ向かいましたの。お兄さまがパトリシアを連れ、途中で待っておられましたわ。


「まあ!パティ……元気そうね。お兄さま、連れて来られましたの?大丈夫ですの?」


「大丈夫、馬丁がそう言ったから、そんなに年寄りじゃないよ、ねえパティ」 


 ブルルと首を振りますの。わたくしは少しばかり懐かしく、あれこれと話をしながら歩きましたの。


 そして、キャロラインと出合い挨拶を交わしました。段取り通りだと彼女を褒め称え、結婚を申し込み、馬に乗せて去る……ですわね。確か物語の様にとお聞きしてますが。わたくしと違い随分お優しい扱いですわ。  


 ドキドキとしながら二人を見ておりましたら。


「キャロライン」


 生真面目に名前を呼ぶお兄さま。


「はい!」


 頬を染めて答える可愛いキャロライン。


「どうしたの!どこか悪いの?大丈夫?」


 心配そうにそう言ったお兄さま。それを聞いたキャロラインは……。


「う、うう……ひどいのですの。どこも悪くないのですわー、うわぁぁん」


 目に涙を浮かべると、ドレスの裾を翻してその場を去って仕舞いました。呆然と立ちすくむお兄さま。


 フヒヒンと、パティが鼻を鳴らします。それは何言っているのと、言わんばかりに聞こえましてよ。


 お兄さま!一体!どうされるのですか!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 兄ちゃんwww まあいきなり凄く痩せたら心配するかなw お茶目な兄ちゃん、キャロラインとお似合いな気がしてきた! がんばwww
[一言] 私の周りにもダイエット成功した人にこれを言って怒らせた人が約一名。 馬の方が分かっているということが、悲しいやら、おかしいやら。
[一言] お兄ちゃん……(苦笑い)。 やっぱりデフ専なのでは?( ˘ω˘ )
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