恋とは……大人のお遊びと彼女は言いましたの!
さて、秘密の友にお話を聞かなくては、わたくしは城内で執務が終えた後、一度館に戻ります。その時にお茶を彼女と共にする様に、手筈を整えましたの。陛下とキャロラインと共に昼食を取ることになっておりましたから、午後ですわね。
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「……まあ!リズの実は銀には、反応しないのですか?」
「ええ、ヒ素は含まれて無いと。それどころか、その昔、戦場ではそれを飲ませ意識を失っている間に、治療をしたとも聞いておりますわ、助かる確率は半分でしたけれど。運ですわね。量を間違えれば目を覚まさないそうです」
わたくしは今、二人だけのお茶会をしておりますの、知らない事ばかりでお茶を飲む間も無くてよそして……!目を覚まさない?何か引っかかりました。しかし小さな疑問は今は置いておき、リズの実についてはこれ以上は知らない様子なので、次に移ります。
「そんな使い方が……知らぬことを知る事は楽しいわ、そう、サーシェリーは恋はした事があるの?この指輪を誰かに使った事がありまして?」
わたくしは指輪を彼女に見せながら話します。お茶をひと口飲むと、どこか余裕綽々の微笑みを浮かべて応えます。
「それは……恋人を射止める為で御座いましょうか?」
「そういう事になるのかしら」
わたくしが応じると、娘らしくクスクスと、弾ける様に笑いますの。
「王妃様、わたくしたちは婚礼を上げてから、恋をするのです」
「反対では無くて?シャルルとパトリシアは、そう見えましてよ」
「ふ……それはパトリシアが下賤な生まれだからです。人の良いお兄様は、たぶらかされてますのよ!」
格下の彼女に対して、手厳しく突っぱねますわね。
「それは置いておくとして、では未婚の時に使うのはなぜ?」
「良い条件の殿方の気を引く為で御座いますの、誰に嫁ぐかはわかりませんもの、周囲の状況を見て、親同士が話し合い、そして一族が決め、陛下の承諾を得てからですのよ、攫われる事は儀式でしか過ぎません、なので自分をより良く魅せなければなりせんのよ、多くの殿方に見初められる為に……」
多くの殿方の気を引く為⁉わたくしは目の間の彼女が、とてつもなく年上に見えてきましてよ。
「……、では、婚礼の後に恋をするとは?他のお方に御心を寄せるとは、いけない事では無くて?」
「王妃様、跡取りを産めば役割を終えたのです。そうなればお互い自由です。家名に傷がつかない程度にお遊びは暗黙の了解。もし、陛下に見初められても、側妃になれましてよ。その場合夫は喜びますわね、陛下のお側近くに伝手が出来たのですから……。勿論、娘の時にお手がつくときも御座います、しかし婚礼は挙げられませんわね、側室ですもの、お部屋に呼ばれて終わり、そんなのつまらないですわ……、物語の姫の様に、攫ってもらいたいですもの」
憧れを話す彼女ですが、お、大人ですわ、わたくしは頭がクラクラしてまいりました。ここはついでですから、一歩踏み込んだ事を聞いておきましょう、わたくしはとんでもない世間知らずなのですわ。
「では、貴方はあれこれをご存知なのね」
「あれこれ、それは睦言で御座いますか?経験はありませんが……うふふ、見た事は御座いますの」
「見た?!どういう事なのです?」
「わたくし達は、幼い頃から父母に連れられ、城内に上がるのですわ、非常時でもない限り、大人達も一日中会議をしているわけでも御座いません、城内は広いですもの……それに社交界にデビューを果たせば、夜に舞踏会もあります、舞踏会は楽しいのですわ、色んな殿方とお話できますもの、この時ばかりは、反りの合わない家風のお方ともお話できますの」
ああ……それで、わたくしの祖国では舞踏会の折に、女性が男性と自由に話せるのは、仮面舞踏会の時のみと決められてましたけど……こちらはその則が無く、陛下が開かれたわたくしのお披露目をしましたそれが、とてつもなく賑やかな事に驚いた事を思い出します。
「少し待って、貴方のお話によると、城内で、皆様ところ構わず人目を避けてお楽しみをされてるという事になりましてよ」
「ええ、そりゃ人はそれぞれですから、なさらないお方もいらっしゃるかと思いますけれど……わたくし達にとって、恋とは大人の遊びなのですわ」
お、大人お遊び、この娘の話を聞いてますと、キャロラインが心配になってまいります。彼女は本当に無垢で……あら?おかしいですわね。
「では何故、キャロラインが何も知らないのですの?彼女も幼い時より、城内には上がっているでしょう?」
「王女様はその様にお育ちになられるのです。失礼で御座いますが、王妃様においても、そうで御座いましょう?周りの者がどこに行くにも侍り、怪しい場所には近づけさせませんもの。第一、格下の者が話しかける事など出来ません」
わたくしは自身を振り返ります。祖国ではお義母さまの差し金か、独り遺された時より食べ物、着る物は粗末な扱いでしたが、何処に行くのもマーヤが側に。陛下とのお話が決まってからはじいも……。
「そうですわね、わたくしが誰かに心を寄せれば……政治的に危うくなりますわね」
「そうですわ、陛下ならば側室という事になられますが、王妃様が『恋人』を持てば……よろしくありませんもの。なので無垢にお育ちになられるのです」
大人妖しく笑むサーシェリー。わたくし、わたくし……、物凄く自分がお子様に思えてなりませんの! へ、陛下以外のお方とあれこれ……。
い……、嫌で御座いましてよ!わたくしは!決められた婚礼ではありました。無礼な振る舞いに驚きました。年上の陛下が少しばかり怖いと思いました。
国の為……、嫌悪等してはいけないと……初めての夜、その場へ向かう途中で思いました。でも……そう、そうなのです。今は何もかも幸せなのですの。
知らぬ心に気が付きました。ほんわりと温もりがここに来てから胸の中に灯ってます。これを異性のお方を『愛する』と、言う気持ちなのでしょうか。
サーシェリーと話をしながら……陛下を想うと、会いたくなってまいりましたわ。うふふ。




