王族とは嘘つきのはじまりでしたの。
「お義母さま、大丈夫でございますか?」
わたくしが少しばかり体調が悪いと、城に行かなくなりましたら早々にお見舞いに来られたキャロライン。ドレスも縫い直しをされ『大樽』から、ぽっちゃり迄に絞れて来てますの。もう少しですわね。
「大した事はありませんの、少しばかりくたびれただけですのよ、色々と不慣れですから、休めば治ります」
「……、わたくしのお母様もそう仰っしゃってましたが、なかなか良くならなくて……、ほんとに大丈夫ですの?」
ああ……かわいい、少しばかり心が痛みましてよ。何故ならわたくし『仮病』を装い部屋に籠もっているのですもの……。嘘つきは泥棒の始まりと言いますが、あれやこれを考えてますと『王族』の始まりなのではないかしら……、そもそもここは御先祖様は盗賊ですけれど。
「大丈夫ですのよ、明日には床上げが出来そうですわ」
わたくしは彼女に微笑みます。これから祖国からお父様がわたくしのお見舞いにいらっしゃるのです……その為の仮病でしてよ。
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――、陛下がお父様と、内々でお会いになりたいと申されましたから、そういう事に致しましたの。隣国とはいえ何事も無いのに行き来をすると、良からぬ噂を立てかねられませんもの。なのでわたくしが、疲れから病に伏した事にしましたの。父親が娘のお見舞いに来るのなら、極々自然ですもの。
そうすると……今城内は大騒ぎになりました。困った事ですわ。当然こういう事になるとは思ってましたけれど……。
「おお!めでたい!こんなに早くお世継ぎを……、陛下も頑張られたのだな」
エレーヌが教えてくれる話によると、皆様妄想が激しくて……わかっておりましたが、とてつもなく恥ずかしいですの。明日皆の前に出るのが、些か躊躇してしまいますわ。
「……、王妃様、もうそろそろ、陛下が御客人とともにおいでになられるかと」
キャロラインとあれこれと話しておりましたら、じいがが知らせて来ましたの。マーヤとアンが椅子を用意し、準備を整えます。
「ではわたくしは失礼いたします、明日はお会いできますわね」
そう言うと、アイリス夫人と共に下がりましたの。ふう、ここ数日寝具から出ずに過ごしているので、退屈しております。エレーヌが上着を差し出してきます。簡単に身支度を整え終わる頃、陛下とお父様が入ってこられました。人払いをされる陛下。マーヤ達が下がっていきました。
「お父様、お久しゅう御座いますわ、訳がありこの様な場所から失礼いたしましてよ」
「よい、気にするな。王妃様においては、ご機嫌麗しゅうございます、元気そうで何より……」
そう笑顔で話されます。わたくしの寝台近くに椅子を用意しておりましたから、それに座るお二方。
「お父様も、そうそうお姉さまはお元気ですの?詳細はクロシェから聞いておりますが」
「ああ。部屋で大人しゅうしておる、全くろくでもない姫じゃ、国をどう思っておるのだろう」
「国を思えばこその行動やもしれんぞ」
陛下が笑いながら加わって来ましたの。
「して……そなたのところにも、例の話は来ておろう?」
「ああ、あの爺様は何を企んでおられるのやら、まぁ……当方に於いてはそれで回避出來れば、何も問題はない」
お二方のお話が続きますの。事を起こすのに、最高な舞台を整えて行かれますわ。
「それで、そのサーシェリーという娘は、大丈夫なのか?」
「その事は王妃に任せておる、どうだ?弟のアレは……」
わたくしに、聞いて来られますの、任された事ですから守備はよろしくてよ。わたくしは二人に笑顔で答えましたの。
「ええ、彼女ならば問題ありませんわ」
それにしても、陛下もお父様も悪人ですわね。利用出来るものは何でも使う、慈悲も何もあったものではございませんわ。信じられない事に、わたくしもすっかりソレに染まっておりますが……。
良からぬ計画の段取りをつけられまして、お父様はお帰りになりましたの。お国許では来たるべき行事の準備に追われていると、笑って別れました。
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翌朝床上げをし、それまでの様に城中へ向かいますと、陛下とキャロラインから平癒の言祝ぎを頂きましたの。居合わせる、皆からも儀礼的に頂きましたわ。少しばかり残念そうに話されるお方もおられますの。それを聞くと、何故でしょうか?少しばかり嬉しくなりましたの。
陛下とわたくしのお子を、楽しみに待ってらしているお方がいらっしゃる事に、ようやく仮住まいの様な気が薄れて来たのでした。
やはり王族たるもの、子孫繁栄は義務なのですわね。さて!わたくしもやるべき事をしなくてはなりません。それを終わらせないと、お子云々など先の話ですもの。キャロラインと話をしながら、サーシェリーに使いを出します。
彼女に少しばかり聞きたい事がありましたの。わたくしが伏せている間に、退屈凌ぎにと、アンが面白い話をしてくれたのです。
「王妃様、噂なのですけれど……シャルル様が、親御様にパトリシア様のお話をなさったそうなのです。でも反対されたとか。それにもう一つ、面白い話がございますの」
「まあ、シャルルも大変ね、それでもう一つとは?」
「この前クロシェ夫人の品を届けた使者に、ちらり聞いたのですか、ドローシア様が何やら、悪いものに取り憑かれたとか……、お部屋にてブツブツと、日がないちにち呟いておられるのですって」
まあ?あのお姉さまが?恋煩いも末期に来られたのかしら?
「男などだめだとか……所詮男は当てにならぬとか?どうされたのでございましょうか」
あら……、あのお姉さまを射止めた王子様も、お国許で閉じ込められているとお聞きしておりますから、当然ながら物語のようには行きません。
誰も頼りにならないと、ようやく目がお覚めになられたのかしら?




