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リズの木の実 狩人さんと秘密のお話しですの。

 ひと通りのお喋りも終わり、そろそろお開きの時間ですわ。そう思っておりますと、じいがわたくし宛に届いた親書を運んで来ましたの。丸めたそれを結ぶリボンのお色は『紅』ターワンのお色ですわね。良い機会なのでわたくしは会を閉じる事にいたしました。


「楽しかったこと。そろそろ終わりに致しましょう」


 そう声をかけますと、サーシェリーが一番最初に立ち上がりましてよ。退屈してらしていたから……シャルルに手を取られ立つパトリシア、皆も習います。


 それぞれに退出の礼を取り、部屋から出ていきましたの。静かになり、ほっとするわたくし、新しいお茶を入れる様に告げたあと、さぁ……リボンを解いて、あのお方からのそれを読みましてよ。


 ご挨拶と共に、お姉さまの恋仲の王子様の近況が、書かれてましてよ。やはり塔にいかれてますの。奥方のご身分がそこそこあるお方ですのね。国の重鎮の娘御。棄てられたのかしら。


『……、でな!この計画に乗らぬか?そちの夫にも伝えた!コチラは任せてオケ!〜我が愛しの姫よ』


 まあ!悪巧みをされているらしい、お爺ちゃまに口説かれましてよ。オーホホホホ!


 ☆☆☆☆☆


「そうか、王妃の元にも来たか、狩猟大会には皇太子が来る事になったと書いてあった、そうだな……一度非公式にそなたの父上と出会おうか……そちの国にも知らせは行っているだろうし、()()も見てもらいたいしな」


 その夜、早速わたくしの元に訪れた狩人さんに包まれて、二人で仲良く良からぬ話をいたしましたわ。初めての経験にドキドキでしてよ。


「まぁ……もう出来上がりましたの?そして、陛下はどう思われますの?わたくしは、戦争が回避されればそれに越した事はございませんわ」


「まだ試作品だ。なかなかに、難しいらしいぞ、そうだな……、両国の武力を見せておけば、そうそう手を出してこない、問題はラジャだが……王妃の縁で王室とも以前より親しくなった、三国が絡めば……」


「大丈夫ですの?」


 少しばかり胸が刺すように、ズキン……としましたの。戦争ともなれば、陛下も、国を離れるやもしれませんもの。今まで味わったことの無い不安が、心に産まれ顔に出た様。


 そんなわたくしを頼りなく思われたのか、心配しなくても良いと力強く言われました……、引き寄せられ、髪を指で梳きながら、気をそらす様に、午後にお茶会をしたとか?と聞いて来られます。


「ええ、少しお近づきになりたくて……そう、陛下にお聞きしたい事がありましてよ」


「何だ?なんなりと申してみよ」


「リズの実とは、どういう物ですの?エレーヌに聞くとお酒に漬けているものとか……わたくしは、見た事がございませんの」


 わたくしの言葉に眉をひそめましたの。あら……何かいけない香りがいたしましてよ。その時の事を、わたくしは手短に話しました。


「……ふむ、弟の娘は『リズの木の実も手に入らないなんて』とそう言ったのだな?」


「ええ、わたくしはそう聞きましたの。パトリシアが高価なので手に入らない、と話しましたらそう返してましてよ」


「……、高価なので、か……リズの実は赤く、毒がある。酒に漬けて使うのだ」


「毒が。やはり良くない事に使うのですね、エレーヌが教えてくれましたの」


 毒など知らぬわたくし、目を丸くし話した言葉に、クスクスと笑う狩人さん。あら、ヤダですわ……わたくしはいつの間にやら、うさぎさんになってますの。


「あれはな、貴婦人が想いを寄せる、相手の前で使うのだよ。細工を施した指輪に入れておいてな、ここぞと言うときに鼻にて吸い込むのだ……するとな」


「すると、どうなりますの?」


 珍しいお話に興味津々のうさぎですの。


「ふら、とごくごく自然に倒れる事が出来るのだ。当然騎士たる者、麗しの貴婦人を抱き止める、そう使う。それだけだと良かったのだが……良くない使い方を、廃した妃達がしおってな」


「恋の駆け引きに使うのですね。それで良くない使い方とは?」


 うさぎさんの質問に、狩人さんは一層、顔を曇らせて教えてくれますの。


「恋敵に、お茶に仕込んで飲ませたり、菓子に入れて食べさせたり、中には香油に混ぜてもあったな……香りはしないのだ。数滴垂らして相手に飲ませれば、少しばかりの後、強い目眩を起こして気を失うのだ。自身で使う時は吸い込むから微量だ。倒れる場も考えるが、知らずにだと非常に危ない、ところ構わず突然倒れるのだから……」


 それを廃妃した女達が使い回ってな、結局、キャロラインしか生き残らなかった。アレは幼い時は、ほとんど館から出ずに育ったのだ……。遠くを想い、寂しそうに話されます。


「まぁ……館から出ずに……。先の王妃様が出さなかったのですか?」


「そう、王女だったのが気に入らなかったらしい、アイリスやら側仕えやらに丸投げしておった、着飾る事と他の妃に負けぬ様にすることだけが、生き甲斐な女だった。王子でも産んておれば、また違ったのだろうが……」


 キャロラインのこれまでの境遇を、初めてお聞きしましたの。明るい彼女ですが、寂しくお育ちになって……それはわたくしの過去に重なる様です。


「だからな、私はリズの実を入国禁止にしたのだ。アレが亡くなった時に……手持ちのそれも禁制とし、廃棄を命じたのだが、そうか、()()()娘が買っているのか……、ククク、良い事を教えてくれたの」


 父娘ほど離れているわたくし達。良い子だと頭を撫でて来ましたの。ついでなので、わたくしは、()()()聞いたシャルルとの話も致しましたわ。(まこと)の事ならば、謀反に繋がりますもの。


「わたくしをあのシャルルと、どうとか話されてましたの、この事は……サーシェリーにでも聞こうと思ってますの、ターワンのお爺様の事もありますし、わたくしに任せて頂けません?」


「……、そうだな、どうにもならなかったら、言うがいい、好きにしてみろ、そなたなら大丈夫だ」


 にこにこと笑い許すと仰って下さいました。そしてその後も甘く濃く密やかに、いけないお話をわたくし達は繰り広げましたの。



 そして、秘密の夜はしっとりと更けて行き、狩人さんはうさぎさんの元でそのまま、お泊りになられましたのよ。うふふ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 中世とかだとこういうことも多かったのでしょうね。
[一言] えーと、リズの実は乱用すると、命にかかわるということでしょうか?
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