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リズの木の実 わたくしもワルになったこと

「皆様、お気楽にして下さいませね、お喋りを楽しみましょう」


 わたくしの館でかしこまる面々。クロシェ夫人から贈られた『蜜菓子』を振る舞います。琥珀色の中に、小さい花を閉じ込めたそれは熱いお茶に入れると、可愛らしくとても美味しい、わたくしはそう話してから、ひとつ取るとティーカップに入れます。皆もそれに習いました。


 ――「まあ!中にお花が……素敵、これは初めてですわ王妃様、わたくしの家は時々に取り寄せて、楽しんでますのよ」


 何処か媚びた声音でサーシェリーが話します。それを口火に取り巻き達が、彼女に話しかけます。チュクチュクチュクチュク……かしましいとこの事なのでしょうね。ゆるりとお茶を頂きながら、わたくしはぽつんと、居心地悪そうに座っている彼女に声をかけます。


「……美味しいわ、わたくしの祖国のお味よ、如何?パトリシア」


 さっとお喋りが止み、スッとサーシェリーの顔色が変わると、皆の目が一斉に、パトリシアに向かいました。


「はい……とても美味しいです。香りも良いです」


 真っ先に声を掛けたので驚いてましてよ。


「そう、貴方の名前は覚えていてよ(お母様の馬と同じだから)祖国にいる友を思い出しますわ(パティ、元気かしら)」


「友を……、持っ勿体無い事でございますわ、光栄ですの」


 パッと笑顔になる彼女。わたくしはここでもそうですが祖国において、人間の友などおりませんでしたの、なので馬なのですが、そこの所は伏せておきましょう……。もうすぐ来られるかしら、アンに少しばかり動いて貰っているのだけど……。


 わたくしは、サーシェリー以外の令嬢達にも、順に声をかけます。皆名前は覚えてしてよ。売り込みに来られた面々ですもの。やがてわたくしと声をおかけした令嬢達で、四方山話に花が咲きました。


 ……、楽しいですわ。皆わたくしに色々聞いてきます、それに問題のない程度に答えます。ほぼほぼ、身に着けている宝飾品や、ドレス、お兄さまの事、祖国の事ですが、こういう話題で同年代と絡んだことが無いわたくしにとって、とても楽しく可笑しい、新鮮な感覚を味わいました。


 にこやかに笑みを向けながら、主役の場を奪われたサーシェリーの様子を伺います。こういった待遇になれていないのでしょう、扇で隠してはいますが不服そうな空気をまとっておりますの。


 ……、わたくしは知っておりますの。弾ける様に笑い話すご令嬢達。彼女たちが、サーシェリーに気を回すことはしないという事を……。誰もがわたくしに取り入りたいのですから、身分が高い彼女に従ってはいますが、その実は、サーシェリーは彼女達にとって『目の上のたんこぶ』な存在なのでしょうね。


「失礼いたします。王妃様、来客で御座います」


 ノックの後、じいが扉を開けて知らせてきました。アンにわたくしの館で、サーシェリーとパトリシアを招待してお茶会をしている、そう話をばら撒いて貰いましたの。餌に魚がかかりましたわ。


「どちら様でございましょう?王妃様においては、私的なお茶会をお楽しみ中で御座いますが」


 何もかも知っているエレーヌが、迷惑なと言わんばかりを装い応じます。


「シャルル様で御座います」


「まあ!お兄さまが?」


 サーシェリーの少しばかり驚いた声。わたくしは頷く事で入室を許します。


「失礼いたします、王妃様。我が妹達と、お茶会をされていると噂をお聞きし、少しばかり差し入れを持って参りました、城の厨房で整えましたので済ませております」


 ……まぁ……、抜け目の無いこと。彼はお小姓に銀の盆にのせた、様々な形の焼き菓子を用意しておりましたの。


「ありがとう、皆で頂きますわね、妹君もいらっしゃる事ですし、貴方もお茶をどうぞ、エレーヌお茶を、マーヤ、席を作って」


 はい、とマーヤがしたり顔でパトリシアの隣に椅子を用意します。眉間にシワを寄せるサーシェリー、笑顔が弾けるシャルル、兄妹で対象的ですわね。そして嬉しそうにはにかむパトリシア。


「お隣に座る事を許して頂けますか」


 彼はご執心の彼女に、にこやかに笑顔を向けると、優雅に礼を取ります。刺すように一挙手一投足を眺めるサーシェリー。わたくしは扇で口元を隠します。不謹慎にも笑いがこみ上げてきたのですもの。


 エレーヌが座った彼にお茶を勧めます。マーヤが彼のお菓子を、わたくしに勧めて来ましたわ。毒味は済ませてあるのに、それでも彼女はわたくしに聞いてきます。


「……、美味しそうですわ、王妃様、ひとつマーヤにご相伴させて下さいまし」


 わたくしは頷きます。マーヤはそれをひとつ取りました。少しばかり齧るマーヤ。しっかり味わい飲み込むと、ニコリと笑いました。


「美味しいですわ、王妃様、ありがとうございます」


 わたくしはほっとしました。マーヤに何かあったらと、ドキドキしていましたの。彼女のお役目では無いのですが、時に身体をはってわたくしに尽くしてくれる彼女。あとで(ねぎら)わないといけませんわ。


 わたくしが菓子をひとつ摘むと、シャルルから順に薦めて行くマーヤ。


「どれがお好みですか?お取り致しましょう」


 パトリシアの世話をせっせと焼くシャルル。いけませんわ、シャルル、妹の視線にお気づきになって……、身内の気楽さなのか、あらかさまに睨んでいるサーシェリー。パトリシアはおずおずと菓子を選んでおりますの。


「せっかくなのだから、皆様も召し上がりなさいな」


 わたくしは気さくに話します。手に取ったそれを口に入れました。ホロホロと崩れる様に甘く溶ける菓子は、この国のお味がしますの。お茶によくあいますわ。サーシェリーに盆を見せるマーヤ。


 わたくしが勧めた以上、断る訳には行かない彼女はムッとした態度で、それをひとつ取りました。口に運ばず手の中に入れておりましてよ。


「美味しいですわ、王妃様」


 他の令嬢達が話しかけてきますの。わたくしはそれに応えつつ、二人の世界を作っている、恋仲らしい二人を眺め、それをむくれて見ているサーシェリーを拝見し……可笑しくて可笑しくて、ああ……なんて愉快なのかしら。


 オーホホホホホ!わたくしったら、随分ワルになりました事!


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― 新着の感想 ―
[一言] 昼ドラを見てるみたいww 面白いですww
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