まあ!何をされてらっしゃるのですか!
「うふふ、美味しいです、お義母さまが来られてから、とっても賑やかなのです」
夕食の食卓に出された、香草を風味付に使った焼いた肉を切り分けながら、話しているキャロライン。お肉……、二切れめですわね。果物のソースがたっぷりかかってますの。
「そうだな、確かに明るくなった様な気がする……、良きことだ。ところでキャロライン、お前の婚姻が決まった、明日公にする」
あの後話を重ねた陛下とわたくし、その結果……、お受けする事に決まりましたの。王の決定には否は言えぬ、王家に産まれた娘の定め。
「……はい、わかりました。お父様」
そう答えると、やはり不安そうに、ふっくら丸い顔を曇らせる彼女。陰口を叩かれるのがわかっているのでしょう。
「そう案じるな、先は隣国だ。よく知っておろうに、王妃の祖国でもある」
酒器を口に運びつつ陛下は話されました。それに対して黙ったまま頷くキャロライン。やはり、何か思う事があるのか、珍しくデザートのケーキを、ふた切れで終えましたのよ。いつもならば、三つはぺろりですのに……。明日からの事を考えると……大丈夫かしら、些か心配になりましたの。
なさぬ中とはいえ、わたくしの『娘』になりますもの。そして陛下の王女に対するお言葉も、心に染み入りましたの、情深いそういう言葉を思い浮かべます。
それは晩餐会以外、食事を共に取ること等なかった、それぞれに忙しく過ごしていた、祖国の習いだからでしょうか、冷たくそそけ立つモノを思い出しましたの。心奥底に深く刺さったソレは……、耐え忍んでいた頃の、わたくしの記憶。
フッ……あのままだと……恐らくわたくしは行けず後家、そのうち出家させられてましたわね、そうなると今の暮らしは無くて……、ふ、フフフ、フフ。
オーホホホホホ!馬に感謝ですわ!
☆☆☆☆☆
館へと帰る前に、わたくしは『例のお客人』に、会わなければなりません。留め置かれているとお聞きしておりますが、一体何処に……、付いて来なさいと言う陛下のお言葉に従い歩いて行きます。
色々と思い浮かべましてよ。地下楼とか、塔の一室にとか……ところが予想に反して、城中の一番奥まった部屋にたどり着きましたの。
「ここだ……、そなたも会ったことがあると思う」
扉には衛兵の姿。わたくし達を目にすると、礼を取る彼ら達。ナフサが扉をノック致しましたの。何か妙ですわ。『使者』に対してこの対応……。賓客をもてなす様な……、些か緊張気味でわたくしは、中の侍従達により開かれた扉の中に入りましたの。
――「ん!来客とな?これはこれは……確かアリアネッサ殿とお見受けいたしまする。ご婚儀祝着至極!うぬぅぅぅ!羨ましいぞい!」
は?わたくしは唖然といたしました。椅子から立ち上がり出迎えて下さいましたのは……『ターワンからのご使者』殿でしたから。かくしゃくとしたお爺様のそのお姿。見覚えがしかとありましてよ!
「ありがとうございます。お国に帰られたとばかり、そして何故、使者等をなさられておられるのでしょうか」
「ワシ、そなたがいい、おお!美しき異国の女性よ、そんな夫など捨て去り、我の元に来てくれまいか?」
驚くわたくしの前にひざまずき、どこからか指輪を出されると、捧げながら、異国訛りのお言葉で、そううやうやしくおっしゃいますの。
「これこれ、我が愛しの妻をからかうではない、お年をお考えになられよ」
目の前に陛下の広い背中が入りました。ドキドキいたしますわ。
「可愛い孫の嫁をしっかりと見たくての、ヴェール越しではよくわからん、グルトムにおったのじゃが、待てど暮せど荷ばかり届き、本人が来ない、挙げ句の果てには出立を少しばかり伸ばし『狩猟大会』のあとにとの話が届いた。なので国に帰ると見せかけ、偶然出会った出会った使者をちょと、ヤッて入れ替わった迄、馬を駆るのは、我が王家も嗜みの一つだの」
「全く……無茶をなさいます。門番にバレないのか!隣国の警備は大丈夫なのか?」
「いやいや、当たり前じゃがバレての、内密で王に引き渡されてしまい……、そこでだ!そなたにも話した、手持ちのあれこれと引き換えに、頼みを聞いてもろうたのじゃ……、今回の文を運び終えれば、国に一度戻る手筈じゃ」
お待ちになって、『ちょっとヤって』?お父様?そして陛下も加わり、このお方と共に、何をしてらっしゃるのかしら……。
――、まあ、むさ苦しい場所じゃが座るがよい、とご客人が話されます。我が城をむさ苦しいとな、苦笑しながら椅子に座る陛下、わたくしもそれに習います。
「して!王妃様にお聞きしたいのじゃが、ワシ、そなたがいい。孫の嫁になってくれ!」
「残念で御座いますが、わたくしは陛下のものでしてよ。お姉さまではいけませんの?お美しいお方ですよ」
「他所の男に惚けておるではないか!」
「恋する乙女ですのよ、お国に入れば目が覚めるかと」
わたくしの言葉に、むくれる高貴なるご客人。
「むー!日を置かずに好きだ惚れたの文を、お互いやり取りしとるのに?ちっと覗いたのじゃが……盛り上がっておるぞい……、してどうする、ほっとけば奴は動くぞい、古来から乙女を巡り戦があるからの」
まあ!盗み読み致しましたの!まぁ、このお方はそれがバレても……、どうにかしてしまいそうですが。
「我が国は……、戦は嫌ぞ、ダータもそうじゃ、『赤海を武力により越えるもの、罰を与えん』そう云われておるからの!迷信じゃがワシ、信じてる」
「事が動かねば、こちらに向かうかもしれんと、そういう事だったな、先ずはラジャからか……。我が手の者達も不穏な話を仕入れておってな、隣国に頼まれ使者を放った、今送られた荷はラジャに留置いてもろうとる」
「馬がいるからの、とりあえず囲い込みたいのだろうの、ダータを狙うのは……、あそこには『薬石』があるからの……それを樽に入れておけば、腐ることの無い神の水になる代物じゃ、船乗り、キャラバンには必須だからの」
「ああ、我が国も買い入れておる、少しばかり高価なのが痛手だが」
わたくしの側で、老練な二人の王の話が、先に先にと続いていきますの……。不謹慎なのですが面白くてワクワクしてきましてよ!事実は物語より珍妙なり、ですわ!




