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世界は広いですのよ。お国入りは夜が明ける迄に。

 一人の 盗人が

 二人で 盗っ人になり


 三人が 盗人達になり 

 四人の 盗っ人達になり


 五人は 泥棒達と呼ばれ

 六人で 泥棒集団を創り


 7人が 盗賊と呼ばれ

 八人で 盗賊の拠点を創り


 九人は 盗賊の王を選び

 十人で 国を立ち上げた。


        〜おとなりのお国の数え歌より



 ☆☆☆☆☆


 わたくしは、黒ずくめの男の間近で、あることに気が付きましたの。ナフサに聞いたところに依ると、お城迄は早馬でひと夜。だとするとマーヤ達は後から来るのですわね、何故かしら『敵地』に、独り向かう気分がふつふつと湧き上がってますの。 


 ええ、ですからね。わたくしが今、馬の上で仕方無しに身を委ねているこの男。わたくしの『夫』なのです。夫と妻と初めての共同作業といえば……、そして『閨』は男と女の戦の場と書物で読みましたの。


 何をどうやるのかは……破廉恥極まりない過去の『私』がその手の情報をしかと得てます。二つを合わせて検分すると……、も、もしや城につくなり……いえいえ、流石に神の誓約書に名を記さない内に、そのような無体はなさらないかと思ってはおりますが、この状況ですと心配になります。


 ――、ドドドドド!駆け抜ける夜半の道、通り抜ける領地では遅い時間にも関わらず、松明や蓄光石の灯りを手にした人々が道沿いで祝の声を上げている様子。鳴り響く聖堂の鐘の音のおかげで聞こえませんが。


 ……は、恥ずかしいのですわ!急ぎの道中なのか、速度を上げる事はあっても、下げることはありません。すっぽりと腕の内に入っているのです、しかし揺れる馬の背。わたくしは生まれて初めて、殿方の胸元で外套を握りしめ身を寄せる羽目に陥っているのです。


 何かの試練なのでしょうか……、婚礼とはなんと過酷なものなのでしょう、思い描いていたのとはまるで違います。


 ……耳に聞こえるのは風を切る音と、馬の駆ける音、寄り添う『夫』となるお方の心臓の音、息遣い……。あら、困りましたわ、わたくしも何故か別の意味で、ドキドキしてきましたの。思えばこんな経験初めてでしてよ。


 祖国で読んだ物語で、今のわたくしの様なお姫様が出てきましたわ、しょせん絵空事、即座に心を惹かれる等、嘘八百と思ってましたのに……。この状況がいけませんの!きっとそうですわ!


 空が白々としてきたのか、幾分闇が薄れてきた頃、わたくしはようやく城下へとたどり着いたのです。大きく広げられている門を駆け抜け、石畳の道を走る漆黒の馬、ここでも鳴り響く鐘の音、集まっている人々。


 しっかりと街並みも民も見たいと思っておりましたのに、その余裕など微塵もありません。そのまま流される様にお城へと……。開かれた場で、待ち構えていた衛兵の姿が、ちらりと見えました。



 ☆☆☆☆☆


 疲労困憊とは今のわたくし。未だかつてない程にヘトヘトなのです。美しい庭園も見る余裕はありません。その中に建てられている、瀟洒な館の前で馬がようやく止まりました。疲れなど見せぬ彼は身軽に降り立つと、わたくしをおろしてくださいます。そして、そのまま抱えられ、館へと入りました。 


 一言も話さず、カツカツカツと大理石の廊下を進みます。歩けると言いたいのですが、夜明けの光がまだわずかに先の時。声を出す事は、はばかられます。廊下の両脇にはこの館で仕える人々が、整然と並び頭を下げていました。


 そして奥の部屋へとたどり着くと、扉の前の従者がそこを開けました。ああ……わたくしはこの先どうなるのかしら、せめて旅の埃等を落としてからと、少々ぼんやりとしてきた頭で考えてましたら、部屋に入るとそろりと降ろされ、固まった様に立つわたくしを眺めると……、


 そのまま踵を返して部屋を出ていかれました。拍子抜けをいたしましてよ。ギギィ、カチリと重い扉が閉められた時、夜明けを知らせる鐘の音が聞こえてきました。大きな窓から朝日が差し込みます。


「ふう……、疲れたこと……」


 ようやく声を出してもよい時を迎えました。緊張が続き力を込めていたのか、身体全体が痛みます。どうしようかと立ちすくんでおりましたら、先程閉められた扉が再び開きました。


「……、おめでとうございます。王妃様においては無事のご到着祝着至極。わたくしは王妃様にお仕えいたします、この者たちを取りまとめる女官、エレーヌと申します以後お見知りおきを」


 きちんと礼を取り、入室の許可を求めて来られます。マーヤ達の事も聞きたかったので、わたくしは、お入りなさいと声をかけます。


「わたくしがアリアネッサです。この先、頼みます。わたくしの側使え達はどうなっているのか、報告を求めます」


 立ちのままで気力を振り絞り、対応いたします。睡魔が訪れているのか、酷く眠いのです。先ずはお楽に、とわたくしの手を取り椅子に誘います。柔らかなそれに腰を下ろしました。


「お側使えの皆様は、あの後、湖畔にて我ら同胞と、祝の盃を交わすのが風習でございます。そしてしばし休息をし、こちらに向かっております」


 よどみなく答える彼女。落ち着いた口調が好感を持てますわ。その間に共に入室をした侍女達の手により、頭の花冠を外され、失礼致しまします、とヴェールをフワリと、めくり上げられます。


 ああ、なんて身軽になったことでしょう。目の前が開けようやく息が自由に出来ますわ。そして酷く喉の乾きを覚えました。それを察したかのように、傍らのテーブルにお茶の支度が整っていきます。


「お疲れでございましょう、先ずは甘茶をお飲みくださいまし、落ち着かれてから旅の埃を落とすために、湯殿へとご案内致します」


 温かいお茶が注がれました。トロリと甘いそれ、一口含め飲み込むと、染み渡る様に美味しいですわ。銀の盆には様々な美しい細工のお菓子が並べられておりました。


「湯殿……、わかりました、そして今日の予定を」


 お菓子を幾つか食べ終え、お茶を飲み終えると、ようやく少しばかり落ち着いたわたくしは、給仕をする彼女に聞きます。


「今日はゆるりとお休みに……、夜には『婚礼の儀式』が聖堂にて執り行われます」


 こうして長かった夜はようやく明けましたの。花を浮かべたお湯を使った後は、もちろん!


 疲れ果てていたおかげで、緊張することもなく、それまでとは違う香りをまとわせてある、柔らかな寝具にくるまり、眠りについたのですわ。


 ほんとに疲れましてよ。



誤字脱字報告ありがとうございます。王妃編が始まりました。

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― 新着の感想 ―
[一言] おとなりのお国の数え歌イイですね! こういうの好きですw
[一言] なるほど。ホニャララの国でしたか。まあ、中国の王朝とかそんなんばっかでしたよね。
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